中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第47回

最低賃金50円アップ時代に中小企業がやるべきこと

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は7月24日、2024年度の最低賃金の目安を全国平均で時給1054円にすると決めました。現在の1004円から50円の引き上げで、22年連続での増加となります。また、上げ幅は23年度の43円を上回って過去最大となりました。最低賃金は都道府県ごとに異なり、目安額をもとに各地の審議会で実額を最終決定します。適用は10月中となる見通しです。

この決定を受けて、中小企業においても10月以降に賃上げの実施をしなければなりません。そこでご検討をいただきたいのは、最低賃金が引き上げられる前に賃上げを実施することです。そうすることで、「業務改善助成金」を活用することができるからです。

<業務改善助成金とは?>

中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度です。 生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する、経費助成です。

<いくらもらえる?>

引き上げる元の企業内の最低賃金と、引き上げる幅、また人数によっても違ってきます。

・最低賃金900円未満:助成率9/10

・最低賃金900円以上950円未満:助成率4/5

・最低賃金950円以上:助成率3/4

(いずれも中小企業の場合)

上限額(引き上げる人数、特例事業者かどうかによる)

・引き上げ額30円以上・・・上限60~130万円

・引き上げ額45円以上・・・上限80~180万円

・引き上げ額60円以上・・・上限110~300万円

・引き上げ額90円以上・・・上限170~600万円

引き上げる人数は1人、2~3人、4~6人、7人以上、10人以上の5区分あります。10人以上は下記特例事業者のみの区分になります。特例事業者は、以下のいずれかに該当する事業場が対象となります。

(1)賃金要件:事業場内最低賃金950円未満の事業場

(2)物価高騰等要件:原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1か月の利益率が3%以上低下している事業者

<受給のポイント>

・事業場内最低賃金が適用される労働者の賃金引上計画(何を買って賃金引上げするか)を作成し、就業規則等に規定、申請後に賃金引上げを行うこと。

・事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引き上げ、設備投資等を行った事業者または「材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等外的要因により利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上低下した事業者

・生産性向上のための設備・器具の導入などを行い、業務改善を行い、その費用を支払うこと。事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金額を下回る場合は、賃金引上げはその発効日の前日までに行うこと。

・賃金引上げを地域別最低賃金の発効日以後に行う場合は、改定後の地域別最低賃金額を 上回る事業場内最低賃金を基礎として、定められた額以上の引上げを行うこと。

<対象となる経費>

謝金、旅費、借損料、会議費、雑役務費、印刷製本費、原材料費、機械装置等、購入費、造作費、人材育成・教育訓練費、 経営コンサルティング経費、委託費です。単なる経費削減のための経費、職場環境を改善するための経費、パソコン、自動車など、社会通念上当然に必要となる経費 は対象外となります。

<手続きの流れ>

まずは、都道府県労働局に助成金交付申請書の提出を行い、助成金の交付決定通知を受けます。その後、対象となる経費に基づいた設備投資等を行います。交付申請書の申請内容に沿って事業を実施(賃金の引き上げ、設備の導入、代金の支払)した後、労働局に事業実績報告書等と助成金支給申請書を提出して、助成金を受けます。助成金の支給を受けた後、状況報告もあります。


賃上げを継続的に実施するためには、生産性の向上が不可欠です。そのための設備投資をするためにも、ぜひ業務改善助成金の積極的な活用をお勧めします。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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