中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第45回

本当は怖い労働基準監督署の調査(その3)

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

これまで2回にわたり、労働基準監督署の調査についてお伝えをして参りましたが、「そんなのは脅かしだ」と疑われている方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、具体的な事例をいくつかご紹介します。

<大手コンサルティング会社が違法残業で書類送検>

コンサルティング会社大手のA社が社員に違法な残業をさせていたとして、東京労働局は会社などを労働基準法違反の疑いで書類送検しました。書類送検されたのは、東京 港区のコンサルティング会社大手のA社と労務を担当するシニアマネジャーです。東京労働局や会社によりますと2021年1月、ソフトウェアエンジニアとしてプログラミングなどの業務を担当する男性社員1人に1か月140時間余りの違法な残業をさせていたとして労働基準法違反の疑いが持たれています。労働基準法では1日8時間、週40時間を超えて働かせ残業をさせる場合には労使で協定を結ぶ必要がありますが、労働局によりますと、A社では協定を結ぶための手続きに不備があったということです。また、ほかの複数の社員についても違法な残業が確認されたということです。A社は、マスコミの取材に「深くお詫び申し上げます。関係法令を順守し働き方改革を進めるために取り組んでいきたい」とコメントしています。

<人気洋菓子店が「働きがい搾取」で書類送検>

社員11人に違法な長時間労働をさせたとして、伊丹労働基準監督署(兵庫県伊丹市)は、労働基準法違反容疑で、人気洋菓子店K(同県三田市)を運営する会社の製造部長(36)ら幹部2人と、法人としての同社を書類送検しました。いずれも時間外労働は過労死ラインと言われる月80時間を上回り、最長で月約342時間に上る社員もいました。同社は過去に是正勧告を2回受けながら違反を繰り返しており、労基署は悪質と判断しました。送検容疑は2021年1月16日~2月15日、ケーキや焼き菓子などを製造する社員11人に、原則月45時間までとする労使協定を超える時間外労働や休日労働をさせるなどした疑いです。同店のオーナーシェフK氏は、国内外の品評会で多数の受賞歴があり、テレビにも出演している。同社の担当者は「バレンタインデーが近く繁忙期だった。法令の認識が不十分だった」などとコメントしています。

<賃金不払いで書類送検>

品川労働基準監督署は,生めん等の製造販売業を営む会社及びその代表者を,最低賃金法違反の容疑で東京地方検察庁に書類送検しました。 被疑会社は,労働者2名に対し,賃金計約109万円をそれぞれの所定支払日に支払わず,また東京都最低賃金(1時間869円(当時))以上の賃金を支払わなかったものです。最長で2年以上,定期賃金を所定支払日に支払わないまま労働者を勤務させていたことから,労働基準監督署は是正に向けた指導を行ったものの、是正しなかったため,書類送検に踏み切ったものです。

<虚偽の報告で書類送検>

青梅労働基準監督署は,婦人服小売業者を最低賃金法違反及び労働基準法違反の疑いで東京地方検察庁立川支部に書類送検した。被疑会社は,東京都羽村市内で,婦人服等の販売業を営む事業主,被疑者は同会社の代表取締役であるが,労働者Aに対し,賃金をその所定支払日に,東京都最低賃金以上の賃金を支払わなかったものです。また,同会社は,労働基準監督官が賃金台帳の提出を求めたことに対し,虚偽の記載をした賃金台帳を提出し,最低賃金法違反の事実を隠蔽していました。

<無資格者にフォークリフトを運転させて書類送検>

福岡・直方労働基準監督署は、法定の資格者ではない者にフォークリフトを運転させた建設会社の代表者および運転していた現場職長の2人を、労働安全衛生法違反の容疑で福岡地検飯塚支部に書類送検しました。重量物をフォークに載せて急旋回した際、フォークから外れた重量物が近くにいた同僚労働者の上に落下して重傷を負わせたものです。同職長は、運転に必要な技能講習を修了していませんでした。

<外国人実習生に危険な作業をさせて書類送検>

兵庫・姫路労働基準監督署は、ベトナム人技能実習生をクレーンでつり上げて作業させたとして、木造建築工事業の会社と同社代表取締役を安全衛生法違反の疑いで神戸地検に書類送検しました。同代表は建方作業で移動式クレーンの先端のつり具で板材をブランコのようにぶら下げ、実習生を座らせていました。高さ10mの作業箇所付近まで持ち上げ、板材の取付け作業を行わせていました。実習生にケガはありませんでした。

<検査証切れのクレーン使用で書類送検>

三重・伊勢労働基準監督署は、検査証の有効期限が切れた移動式クレーンを使用し、さらに無資格者に運転させていたとして、定置漁業を営む会社と前代表取締役を安全衛生法違反の疑いで津地検に書類送検しました。同社の作業員が移動式クレーンを操作していたところ、別の作業員がつり荷と接触する災害が起きました。作業員の左手にぶつかり、指を骨折しています。

<雇い入れ時の教育を行わず書類送検>

三重・松阪労働基準監督署は、雇入れ時の教育を怠ったとして、建設会社と同社取締役を安全衛生法違反の容疑で、津地検松阪支部に書類送検しました。建設現場で当日雇い入れた労働者が建物2階の内装材の撤去作業を行っていたところ、2階の開口部から墜落し、負傷する労働災害が発生しました。雇い入れたときに作業手順などの雇入教育を行わず、作業に従事させていた疑いが持たれています。

<労災かくしによる書類送検>

八王子労働基準監督署は,虚偽の内容の労働者死傷病報告を同署に届け出た総合防水工事業者及び同社役員を,労働安全衛生法違反の容疑で,東京地方検察庁立川支部に書類送検しました。東京都八王子市内の住宅建設工事現場内で,男性作業員(被災当時26歳)が,はしごを使用して地上からの高さ2.4メートルの踏み面上で住宅部材の取り付け作業を行っていたところ墜落し,全治3か月の怪我をして107日休業したにも関わらず,「男性作業員は自社敷地内の鳥の巣の除去作業中に墜落して被災した」旨の虚偽内容の報告書を当署長宛てに提出したもの(いわゆる「労災かくし」)です。

<書類送検されるとどうなるのか?>

さて、ここまでお読みいただいて、いかがでしょうか? 労基署の調査が意外と怖いということと、労働関係法令に違反したことで書類送検をされている会社が結構あるということがお分かりいただけたと思います。

では、「書類送検」をされてしまうと、どうなってしまうのでしょうか?この続きは、次回のコラムで解説をさせていただきます。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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