第22回
人材の確保・定着に活用できる助成金その7
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
令和3年4月1日より改正高齢者雇用安定法が施行されており、企業には70歳まで就業機会を確保することが努力義務化されました。これまでの法律でも、定年年齢は60歳を下回ることができず、また労働者が希望した場合には、企業は希望者全員を65歳まで継続雇用する義務が課せられていました。これに加えて、令和3年4月からは70歳まで就業機会を確保することが求められるようになったのです。
そのための国の支援制度(助成金)として、「65歳超雇用推進助成金」があります。この助成金は、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現するため、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成するものであり、次の3コースで構成されております。
(1)65歳超継続雇用促進コース
65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかを実施した事業主に対して助成するコース
(2)高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対して助成するコース
(3)高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業に対して助成するコース
3つの中でも、本日は比較的利用する企業の多い「65歳超継続雇用促進コース」についてご説明をします。このコースは、以下のいずれかを導入した事業主に対して助成を行う制度です。
(1) 65歳以上への定年引上げ
(2) 定年の定めの廃止
(3) 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
(1)定年の引上げまたは定年の定めの廃止
★66~69歳に(5歳以上)、または70歳以上への引き上げ
60歳以上の社員が1~3人:30万円
60歳以上の社員が4~6人:50万円
60歳以上の社員が7~9人:85万円
60歳以上の社員が10人以上:105万円
★定年の定めの廃止
60歳以上の社員が1~3人:40万円
60歳以上の社員が4~6人:80万円
60歳以上の社員が7~9人:120万円
60歳以上の社員が10人以上:160万円
(2)希望者全員を66歳以上の年齢まで雇用する継続雇用制度の導入
60歳以上の社員が1~3人:15万円
60歳以上の社員が4~6人:25万円
60歳以上の社員が7~9人:40万円
60歳以上の社員が10人以上:60万円
(3)他社による継続雇用制度
66~69歳への継続雇用の引上げ:10万円
70歳以上への継続雇用の引上げ:15万円
対象社員数が10名以上いる会社であればそれなりの金額になりますが、社員数が少ない会社の場合には、以前に比べると金額が大幅に少なくなってしまいました。そもそも助成金というのは、法律が変更になる前にいち早く国の施策を導入する企業に対する「ご褒美」的な意味合いがあるものだからです。
しかし、助成金の金額の多寡に拘わらず、労働力人口が減少していくこれからの時代においては、企業にとって高齢者の活用が人材を確保する上で重要な施策になります。また、「70歳までの就業機会確保」というのは国の施策でもありますから、そのような視点からも制度の導入を検討されてはいかがでしょうか?
なお、本助成金を活用するためには、「高年齢者雇用推進者」の選任と、次の(a)から(g)までの高年齢者雇用管理に関する施策を1つ以上実施する必要がありますのでご注意下さい。
(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
(b)作業施設・方法の改善
(c)健康管理、安全衛生の配慮
(d)職域の拡大
(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進
(f)賃金体系の見直し
(g)勤務時間制度の弾力化
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
- 第64回 「年収の壁」から「労働時間」の壁へ移行する社会保険適用の新時代(その2)
- 第63回 「年収の壁」から「労働時間」の壁へ移行する社会保険適用の新時代(その1)
- 第62回 女性活躍推進法の改正がもたらす未来と企業への影響
- 第61回 大企業でも導入が進む「パーソナル雇用制度」
- 第60回 最低賃金1500円時代における給与の決め方
- 第59回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策(その3)
- 第58回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策(その2)
- 第57回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策
- 第56回 中小企業が注目すべきミドル世代の賃金上昇と転職動向~経験豊富な人材の採用でビジネス成長を加速
- 第55回 中小企業が賃金制度を考えるときに知っておきたい基本ポイント
- 第54回 2024年10月からの社会保険適用拡大、対応はお済みですか?
- 第53回 企業と競業避止契約の今後を考える
- 第52回 令和7年度 賃上げ支援助成金パッケージ:企業の成長と持続的な労働環境改善に向けて
- 第51回 解雇の金銭解決制度とその可能性 〜自民党総裁選における重要テーマ〜
- 第50回 令和7年度予算概算要求:中小企業経営者が注目すべき重要ポイントと支援策
- 第49回 給与のデジタル払いの導入とその背景
- 第48回 最低賃金改定にあたって注意すべきこと
- 第47回 最低賃金50円アップ時代に中小企業がやるべきこと
- 第46回 本当は怖い労働基準監督署の調査その4
- 第45回 本当は怖い労働基準監督署の調査(その3)
- 第44回 本当は怖い労働基準監督署の調査 その2
- 第43回 本当は怖い労働基準監督署の調査
- 第42回 初任給横並びをやめたパナソニックHD子会社の狙い
- 第41回 高齢化社会と労働力不足への対応:エイジフレンドリー補助金の活用
- 第40回 助成金を活用して人事評価制度を整備する方法
- 第39回 採用定着戦略サミット2024を終えて
- 第38回 2025年の年金制度改革が中小企業の経営に与える影響
- 第37回 クリエイティブな働き方の落とし穴:裁量労働制を徹底解説
- 第36回 昭和世代のオジサンとZ世代の若者
- 第35回 時代に合わせた雇用制度の見直し: 転勤と定年の新基準
- 第34回 合意なき配置転換は「違法」:最高裁が問い直す労働契約の本質
- 第33回 経営課題は「現在」「3 年後」「5 年後」のすべてで「人材の強化」が最多
- 第32回 退職代行サービスの増加と入社後すぐ辞める若手社員への対応
- 第31回 中小企業の新たな人材活用戦略:フリーランスの活用と法律対応
- 第30回 「ホワイト」から「プラチナ」へ:働き方改革の未来像
- 第29回 初任給高騰時代に企業が目指すべき人材投資戦略
- 第28回 心理的安全性の力:優秀な人材を定着させる中小企業の秘訣
- 第27回 賃上げラッシュに中小企業はどのように対応すべきか?
- 第26回 若者の間で「あえて非正規」が拡大。その解決策は?
- 第25回 「年収の壁」支援強化パッケージって何?
- 第24回 4月からの法改正によって労務管理はどう変わる?
- 第23回 4月からの法改正によって募集・採用はどう変わる?
- 第22回 人材の確保・定着に活用できる助成金その7
- 第21回 人材の確保・定着に活用できる助成金その6
- 第20回 人材の確保・定着に活用できる助成金その5
- 第19回 人材の確保・定着に活用できる助成金その4
- 第18回 人材の確保・定着に活用できる助成金その3
- 第17回 人材の確保・定着に活用できる助成金その2
- 第16回 人材の確保・定着に活用できる助成金その1
- 第15回 リモートワークと採用戦略の進化
- 第14回 「社員」の概念再考 - 人材シェアの新時代
- 第13回 企業と労働市場の変化の中で
- 第12回 その他大勢の「抽象企業」から脱却する方法
- 第11回 Z世代から選ばれる会社だけが生き残る
- 第10回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(後編)
- 第9回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(前編)
- 第8回 中小企業のための「集めない採用」~ まだ穴のあいたバケツに水を入れ続けますか?
- 第7回 そもそも「正社員」って何ですか? - 新たな雇用形態を模索する時代へ
- 第6回 成功事例から学ぶ!パーソナル雇用制度を導入した企業の変革と成果
- 第5回 大手企業でも「パーソナル雇用制度」導入の流れ?
- 第4回 中小企業の採用は「働きやすさ」で勝負する時代
- 第3回 プロ野球選手の年俸更改を参考にしたパーソナル雇用制度
- 第2回 パーソナル雇用制度とは? 未来を切り開く働き方の提案
- 第1回 「労働供給制約社会」がやってくる!