第66回
2025年育児介護休業法改正と企業が行うべき対応
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
<はじめに:2025年育児介護休業法改正の概要>
2025年、育児・介護休業法が大幅に改正され、働く人々の仕事と家庭の両立支援がさらに強化されます。この改正は、少子高齢化の進行や多様化する働き方に対応するため、より柔軟な働き方の実現と仕事と育児・介護の両立支援の強化を主な柱としています。
本コラムでは、この法改正の詳細と、企業が取るべき具体的な対応策について解説します。2025年4月1日と10月1日に段階的に施行される改正内容を中心に、企業の人事担当者や経営者の方々に有益な情報を提供することを目指しています。
今回の法改正は、「多様な働き方の選択」「男性の育児参加の促進」「仕事と介護の両立支援」に重点を置いており、労働者の個別の事情や希望に応じて会社は配慮を求められるようになります。働きやすい職場環境の整備は、従業員の満足度向上だけでなく、企業の持続的な成長にも寄与する重要な取り組みです。この機会に、自社の制度を見直し、より良い職場づくりに向けて準備を進めましょう。
<改正の背景と目的>
2025年の育児介護休業法改正は、以下の背景と目的を持って実施されます。
・少子高齢化への更なる対応
日本の少子高齢化は依然として進行しており、労働力人口の減少が続いています。この課題に対応するため、子育てや介護を理由とした離職をさらに防ぎ、多様な人材が長く働き続けられる環境整備が急務となっています。
・仕事と育児・介護の両立支援の強化
働き方の多様化がさらに進む中、従業員のワークライフバランスへの要求も高まっています。特に、育児や介護といったライフイベントと仕事の両立は、多くの労働者にとって重要な課題です。より柔軟な働き方を可能にし、個々の事情に応じた支援を強化することで、キャリアを中断することなく家庭責任を果たせる環境を整えることが目的です。
・男性の育児参加の促進
女性の活躍推進と同時に、男性の育児参加を促進することで、真の意味での両立支援を実現することを目指しています。育児休業取得率の公表義務化などを通じて、男性の育児休業取得を促進し、社会全体で子育てを支える環境づくりを目指しています。
この改正は、これらの社会的要請に応えつつ、企業の持続的な成長と従業員の満足度向上の両立を目指すものといえます。
<主な改正ポイント>
2025年の育児介護休業法改正では、主に以下の点が重要なポイントとなります。
(1)所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
3歳以上小学校就学前の子を持つ労働者も対象に含まれるようになります。
(2)育児のためのテレワーク等の導入の努力義務化
企業は、育児中の従業員のためにテレワーク等の柔軟な働き方を導入する努力義務が課されます。
(3)子の看護休暇の取得事由及び対象となる子の範囲の拡大
子どもの学校行事への参加など、より広い範囲の事由で休暇取得が可能になります。
(4)育児休業取得状況の公表義務の拡大
300人超の企業に対して、育児休業取得状況の公表が義務付けられます。
(5)介護離職防止のための措置の強化
個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が義務付けられます。
(6)柔軟な働き方を実現するための措置等の義務付け(2025年10月施行):
3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対して、複数の柔軟な働き方の選択肢を提供することが義務付けられます。
これらの改正は、働く人々のライフステージに応じた柔軟な働き方を支援し、仕事と育児・介護の両立をより一層促進することを目指しています。
<企業が行うべき具体的な対応>
2025年の育児介護休業法改正に伴い、企業は以下の具体的な対応を行う必要があります。
(1)就業規則の見直しと改定
・所定外労働の制限対象の拡大に関する規定の追加
・子の看護休暇の取得事由拡大に関する規定の修正
・柔軟な働き方に関する新たな制度の追加
(2)制度設計と運用方法の整備
・テレワーク制度の導入または拡充
・柔軟な働き方を実現するための複数の選択肢の設計(始業時刻の変更、短時間勤務制度など)
・介護離職防止のための個別周知・意向確認の仕組み作り
(3)育児休業取得状況の把握と公表準備
・育児休業取得状況を正確に把握するシステムの構築
・公表方法の検討と準備(自社ウェブサイトでの公開など)
(4)従業員への周知と教育
・改正内容に関する説明会の実施
・管理職向けの研修の実施(部下の両立支援に関する理解促進)
(5)相談窓口の設置と対応体制の強化
・育児・介護に関する相談窓口の設置または既存窓口の機能強化
・相談担当者のスキルアップ研修の実施
(6)数値目標の設定と進捗管理
・育児休業取得率等の数値目標設定(特に男性の取得率向上)
・定期的な進捗確認と改善策の検討
これらの対応を計画的に進めることで、法改正に適切に対応するとともに、従業員の仕事と家庭の両立支援を効果的に実現することができます。
<今後の展望:2025年改正以降を見据えて>
2025年の育児介護休業法改正は、働き方改革の一環として重要な一歩ですが、これで終わりではありません。今後も社会の変化に応じて、さらなる改正や新たな施策が検討される可能性があります。企業は以下の点を念頭に置いて、中長期的な視点で対応を考える必要があります:
(1)テクノロジーの進化と働き方の変革
・AIやロボティクスの発展により、業務の自動化が進み、働き方がさらに変化する可能性があります。
・リモートワークやフレキシブルワークがさらに一般化し、時間や場所の制約が少なくなる可能性があります。
(2)少子高齢化のさらなる進行
・労働力人口の減少が続く中、育児・介護と仕事の両立支援はますます重要になります。
・高齢者の就労支援や外国人労働者の受け入れなど、多様な人材の活用がさらに求められる可能性があります。
(3)ダイバーシティ&インクルージョンの深化
・性別や年齢だけでなく、多様な背景を持つ従業員が活躍できる環境づくりが求められます。
・LGBTQへの配慮など、より包括的な両立支援制度の整備が必要になる可能性があります。
(4)働き方の個別化・カスタマイズ化
・従業員一人ひとりのニーズに合わせた柔軟な働き方の提供が求められる可能性があります。
・キャリアパスの多様化や副業・兼業の容認など、より自由度の高い働き方が一般化する可能性があります。
(5)メンタルヘルスケアの重要性増大
・働き方の変化に伴い、メンタルヘルスケアの重要性がさらに高まる可能性があります。
・仕事と私生活の境界が曖昧になることによるストレス対策が必要になる可能性があります。
これらの将来的な変化を見据え、企業は常に最新の動向を把握し、柔軟に対応できる体制を整えることが重要です。法改正への対応を単なる義務としてではなく、持続可能な組織づくりの機会として捉え、積極的に取り組むことが求められます。
<まとめ:持続可能な職場環境づくりに向けて>
2025年の育児介護休業法改正は、働く人々の仕事と家庭の両立支援を強化し、より柔軟な働き方を実現するための重要な一歩です。この改正に適切に対応することは、単なる法令遵守以上の意味を持ちます。企業にとっては、以下の点が特に重要です
(1)制度の整備と運用:
改正内容に沿った就業規則の見直しや新たな制度の導入を確実に行うこと。
(2)従業員への周知と理解促進
新しい制度や取り組みについて、全従業員に適切に情報を提供し、理解を促すこと。
(3)柔軟な働き方の実現
テレワークや時差出勤など、多様な働き方の選択肢を提供すること。
(4)管理職の意識改革
部下の両立支援に対する理解と実践を促進するための教育を行うこと。
(5)継続的な改善
制度の利用状況や従業員の声を定期的に把握し、必要に応じて改善を行うこと。
これらの取り組みは、従業員の満足度向上、優秀な人材の確保・定着、企業イメージの向上など、多くのメリットをもたらします。さらに、将来的な社会変化や法改正にも柔軟に対応できる基盤となります。
育児介護休業法の改正を、単なる法的義務としてではなく、持続可能な組織づくりの機会として捉えることが重要です。従業員一人ひとりが自身のライフステージに応じて能力を最大限に発揮できる環境を整えることは、企業の長期的な成長と社会の発展につながります。
今こそ、経営者や人事担当者は、この法改正を契機に、自社の働き方改革を加速させ、真に働きやすい職場環境の実現に向けて積極的に取り組むべき時です。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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