中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第54回

2024年10月からの社会保険適用拡大、対応はお済みですか?

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

2024年10月から、社会保険適用拡大が本格的に施行されました。すでにご存じかもしれませんが、これにより多くのパートタイム労働者や短時間労働者も社会保険に加入することが義務付けられています。経営者として、この法改正に対する対応は万全でしょうか?

社会保険の適用範囲拡大は、少子高齢化や労働力不足といった社会課題に対応するための一環です。これにより、企業の人材確保や労働環境の整備が強く求められる時代となりました。この改革は、企業にとって新たなコスト増や管理負担を伴う一方で、従業員の福利厚生を向上させる絶好の機会でもあります。

経営者として、この法改正に向けた準備は整っていますか? もしまだであれば、今すぐ確認し、対応を進めることが重要です。本コラムでは、社会保険適用拡大への対応ポイントをおさらいし、まだ対応が不十分な場合の対策についても考えていきます。


<改正内容の復習>

2024年10月に施行された社会保険適用拡大では、特にパートタイムや短時間労働者が新たに社会保険に加入する必要が生じる場合があります。改めて、この法改正の具体的なポイントを確認しておきましょう。


<適用対象となる企業>

今回の改正では、従業員数が51人以上の企業において、パートタイムや短時間労働者も社会保険の対象となります。従業員数のカウントには、正社員のみならず、契約社員や派遣社員も含まれます。


<適用対象となる労働者>

次に、適用対象となる労働者の条件を見てみましょう。以下の条件を満たす労働者が社会保険加入の対象となります。

・週の労働時間が20時間以上

・月額賃金が8.8万円以上

・勤務期間が2カ月を超える見込み

・学生でないこと

これらの条件を満たす従業員がいる場合、企業は速やかに社会保険への加入手続きを進める必要があります。従業員の契約内容や労働時間を見直し、適用基準に該当するかどうかを確認することが重要です。

まだ対応が済んでいない場合、このタイミングで再度確認し、適切な手続きを進めることが必要です。特に従業員数の規模が大きい企業や、パートタイム労働者を多く雇用している企業では、労務管理が複雑になりやすいため、注意が必要です。


<今すぐ確認すべき経営者の課題>

社会保険適用拡大に伴い、経営者として直面する課題はいくつかあります。ここでは、特に重要な点をピックアップし、早急に確認しておくべき事項を整理します。

1. 社会保険料の負担増

パートタイム労働者や短時間労働者の社会保険適用が拡大することで、企業が負担する社会保険料が増加します。これにより、企業の人件費が上昇する可能性があるため、適切な予算管理が求められます。特に、人件費の割合が高い業種や中小企業にとっては大きな課題です。企業が社会保険料の負担に耐えられるか、コスト増をどのように吸収するかを再評価する必要があります。

2. 労働条件の見直し

社会保険の適用対象となる労働者が増えることで、既存の雇用契約や労働条件を見直す必要がある場合があります。例えば、週20時間以上働く従業員が社会保険に加入するため、労働時間を調整するか、契約内容を再確認する必要が出てくるでしょう。労働条件を適切に管理し、法的な要件を満たしているかどうかをチェックすることが重要です。

3. コスト管理の再評価

新たに社会保険に加入する従業員が出ることで、企業のコスト構造が変わります。特に、複数のパートタイム従業員を雇用している企業では、そのコスト管理が一層重要になります。社会保険適用拡大による負担増を抑えるためには、雇用形態や人員配置の効率化が求められます。例えば、短時間勤務者の人数を見直す、あるいは業務の効率化を進めて労働時間を最適化することで、コスト増加に対処することが可能です。


<労務管理の見直しが必要な項目>

社会保険適用拡大により、企業が労務管理を見直す必要性がさらに高まります。ここでは、今すぐ確認すべき重要な管理項目を整理します。

1. 労働時間の正確な管理

社会保険適用の基準となる週20時間以上の労働時間を超える従業員は、社会保険への加入が義務化されます。したがって、労働時間の正確な把握が必要不可欠です。特に、パートタイムや短時間労働者の勤務時間が増える場合には、その労働時間を確実に管理し、社会保険適用基準を常に満たしているかどうかを確認する必要があります。

労働時間の管理が不十分だと、法的な問題が生じる可能性があるため、勤務記録やタイムカードの見直し、適切な管理システムの導入が求められます。

2. 雇用契約の見直し

社会保険適用拡大に伴い、従業員の労働契約書の内容を再確認することが重要です。特に、パートタイムや短時間労働者の契約が、現在の法改正に適合しているかどうかを確認する必要があります。労働時間、賃金、契約期間などが適用条件を満たしているかを確認し、不備があれば、契約内容の修正が求められます。

また、今後も社会保険適用の要件を満たさないように労働時間を管理する場合には、そのような調整が法的に正当かどうかも検討する必要があります。

3. 社内データや人事システムの活用

労働時間や契約内容を効率的に管理するためには、社内データや人事システムを最大限に活用することが有効です。特に、中小企業では労務管理が煩雑になりがちですが、人事システムの導入や既存システムの見直しにより、従業員の属性や労働時間、契約内容を効率的に管理することが可能です。

デジタルツールを活用することで、正確な労務管理ができるだけでなく、将来的な法改正にも迅速に対応できる体制を整えることができます。


<対応が完了していない場合のリスク>

社会保険適用拡大に対する対応が遅れている場合、企業は様々なリスクに直面することになります。特に、法令遵守の観点からは、以下のリスクが大きな懸念となります。

1. 法令違反による罰則

社会保険への加入が義務付けられている従業員を適切に加入させていない場合、企業は法令違反とみなされ、罰則が科される可能性があります。これには、未納の社会保険料の追徴や罰金が科されることがあり、特に長期間対応が遅れていた場合には大きな財務的負担を被ることになります。法令違反は企業の信用に大きく影響を与えるため、早急な対応が求められます。

2. 労働環境の悪化と人材流出

適切な社会保険の加入が行われていない場合、従業員の福利厚生が不十分となり、労働環境の悪化を招きます。これにより、従業員の不満が高まり、結果として人材の流出を引き起こすリスクが高まります。社会保険の整備は、従業員の安心感を確保し、長期的な雇用維持に寄与する重要な要素です。

3. 企業の評判への影響

法令違反や労働環境の問題が公にされると、企業の評判が大きく損なわれる可能性があります。特に、現代では情報が瞬時に拡散されるため、ネガティブなニュースが広がることで、顧客や取引先からの信頼を失うリスクも高まります。企業の信頼性を維持し、長期的な成長を図るためにも、適切な法令遵守が不可欠です。

4. 採用活動への影響

企業が社会保険適用拡大に対応していない場合、求職者からの評価が低くなり、優秀な人材の確保が難しくなる可能性があります。労働者にとって、社会保険の充実は働きやすさの指標の一つであり、特に若年層や転職市場で競争が激しい状況では、適切な労働条件を提供している企業が選ばれる傾向があります。

これらのリスクを避けるためにも、社会保険適用拡大への対応を早急に進め、企業としての法令遵守と労働環境の整備を徹底することが重要です。


<まとめ:すぐにでも対応を完了させるために>

2024年10月に施行された社会保険適用拡大に対する対応は、経営者として避けては通れない課題です。法令違反のリスクや従業員の福利厚生の向上を考慮すると、この対応が企業にとって非常に重要であることは明らかです。

まだ対応が完了していない場合は、今すぐにでも確認を行い、必要な手続きを進めることを強く推奨します。適切な対応を行うことで、企業の信頼性を維持し、従業員の満足度向上や長期的な人材確保に繋がるだけでなく、法的なリスクからも企業を守ることができます。

社会保険適用拡大は単なるコスト増ではなく、従業員に安心感を提供し、より働きやすい環境を整えるための一歩です。経営者として、積極的に対応を完了させ、企業の健全な成長を目指していきましょう。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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