中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第65回

「年収の壁」から「労働時間」の壁へ移行する社会保険適用の新時代(その3)

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

5. 企業へのアドバイス

(1) 労働時間管理の具体的なステップ

労働時間の壁が新たな社会保険適用基準となる中、企業が適切に対応するためには、以下のステップを実行することが重要です。

<労働契約の見直し>

・入社時の労働契約書に所定労働時間を明確に記載し、それが週20時間を超えるかどうかを確認します。

・短時間労働者の契約内容を精査し、適用対象となるか否かを把握します。

<勤怠管理システムの導入>

・労働時間を正確に記録するための勤怠管理システムを導入します。

・デジタルツールを活用することで、効率的かつ透明性の高い管理が可能です。

<従業員への説明と教育>

・社会保険適用基準やそのメリットを従業員に説明し、適用に関する理解を深めます。

・従業員の意見を取り入れながら、適切な契約内容や労働条件を整えます。

<定期的な見直しと改善>

・労働時間や契約内容を定期的に見直し、基準変更に対応します。

・法改正に備えて、専門家や外部の労務管理サービスを活用することも検討します。


(2) 社会保険適用拡大への準備

適用拡大に伴う企業負担を軽減し、円滑に対応するための具体的な準備を行いましょう。

<コスト負担の把握と計画>

・社会保険料負担の増加を予測し、その影響を事業計画に反映させます。

・必要に応じて、従業員数や労働時間の調整を検討します。

<助成金の活用>

・社会保険適用拡大に関連する助成金を活用し、負担を軽減します。

・例えば、雇用環境整備に関連する助成金を活用することで、初期コストを抑えることができます。

<労働環境の改善>

・短時間労働者が社会保険に加入するメリットを実感できるよう、福利厚生や柔軟な働き方の選択肢を提供します。


(3) 新基準への適応を成功させるためのポイント

企業が労働時間の壁に適応し、競争力を維持するためには、次のポイントを重視する必要があります。

・柔軟な働き方の提供

テレワークやフレックスタイム制の導入により、多様な働き方を許容する環境を整備します。

・外部専門家の活用

社会保険の専門家やコンサルタントを活用し、最新情報を取り入れながら適切に対応します。

・リスク管理の強化

労務管理の透明性を高めることで、労使トラブルや法令違反を未然に防ぎます。


(4) 企業にとってのメリット

労働時間基準への適応は、短期的には負担を伴いますが、以下のようなメリットをもたらします。

・従業員満足度の向上

社会保険の適用が進むことで、従業員の安心感が高まり、モチベーションが向上します。

・企業ブランドの向上

適切な労務管理を行う企業は、働きやすい職場としての評価が高まり、人材獲得競争で優位に立てます。

・持続可能な経営基盤の構築

適応を通じて、労働環境と経営の安定性を同時に向上させることができます。


全体のまとめ

「年収の壁」から「労働時間の壁」への移行は、社会保険適用の仕組みにおいて大きな転換点を迎えています。この変化は、短時間労働者を含む多様な働き方を支えるための公平な制度の構築を目指しており、労働者にとっては社会保険の恩恵を受けやすくする一方で、企業にとっては新たな労務管理やコスト負担の課題をもたらします。

しかし、この移行を単なる負担ではなく機会と捉え、適切に対応することで、企業は労働環境を改善し、持続可能な経営基盤を構築することができます。具体的には、労働契約や勤怠管理の精度向上、従業員への教育、助成金の活用などが、課題を克服するための有効な手段となるでしょう。

また、労働者にとっても、適切な社会保険加入による将来の年金額の増加や、安心して働ける環境の整備が期待されます。これにより、働き方の選択肢が広がり、より多くの人々が自分に合った働き方を実現できる社会へと進化していくでしょう。

企業と労働者が協力してこの新しい時代に対応することで、公平で柔軟な働き方が可能な社会が実現します。持続可能な労働環境の実現に向け、労働時間の壁への適応を積極的に進めることが求められています。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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