中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第31回

中小企業の新たな人材活用戦略:フリーランスの活用と法律対応

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

現在、多くの中小企業が直面している最大の課題の一つが、適切な人材を確保することです。市場が進化し、業種によっては特に若手人材の確保が困難になっています。伝統的な雇用方法だけでは、必要なスキルを持つ人材を見つけることができない場合も少なくありません。そこで注目されているのが、業務委託契約、すなわちフリーランスの活用です。

フリーランスとの業務委託は、多くの利点を中小企業にもたらします。まず、専門性の高い仕事を臨時に必要とする場合や、プロジェクトベースで特定のスキルが求められる場合に、適切な人材を柔軟に確保できます。また、固定的な人件費を抑えることができるため、経営の安定にも寄与します。

しかし、このような契約形態の利用には、適切な法的知識が不可欠です。2020年秋に成立した「フリーランス保護新法」(正式名称:個別事業主の皆様の事業活動を支援するための法律:2024年秋施行予定)により、フリーランスとの取引におけるルールが改めて定められました。この法律は、フリーランスの方々が公正な条件で働けるように保護することを目的としています。

<法律のポイントと対策>

1.契約の透明性

 法律では、業務の内容、報酬、支払い条件等を明記した契約書の交付が義務付けられています。中小企業は、契約を結ぶ際にこれらの点を明確にし、文書化することが重要です。

2.適切な報酬の支払い

 報酬の支払い条件や期限に関する規定も厳格化されています。遅延がないよう、しっかりとスケジュール管理を行う必要があります。

3.不当な取引の禁止

 フリーランスへの過度な要求や不公平な取り扱いが禁止されています。たとえば、業務の範囲外の仕事を強要することなどが該当します。

これらの規制に適切に対応するためには、法令遵守だけでなく、フリーランスとの健全なパートナーシップを築くことが企業に求められます。これには、定期的なコミュニケーションの確保と信頼関係の構築が鍵となります。

フリーランスの活用は、中小企業にとって大きな機会を提供しますが、法律に基づいた適切な対応が必要です。新しい法律の枠組みを理解し、それに基づいて業務委託契約を行うことが、事業の成功に繋がります。

 さらに、フリーランスの活用においては、「労働者性」の判断が重要なポイントになります。この判断によっては、業務委託関係が実質的に労働契約とみなされ、異なる法的責任が生じる可能性があります。

<労働者性の判断基準>

労働者性の有無を判断するには、以下のような要素が考慮されます:

1.指揮命令の有無

 フリーランスが企業から直接的、具体的な指示を受けて業務を行っている場合、労働者としての性質が強まります。

2.業務の性質

 個人が企業の組織的な一部として業務を行っているか、自己の責任とリスクで業務を遂行しているかが判断材料となります。

3.報酬の形態

 報酬が時間や日数、勤務時間に基づいて支払われる場合は労働者性が疑われることがあります。成果物に対して一定の報酬が支払われる形式は、フリーランスの性質を示しています。

これらの基準を踏まえた上で、フリーランスとの契約を設計することが重要です。企業は、

フリーランスとの間に労働契約ではなく、明確な業務委託契約を結ぶことを確認し、業務の

性質や報酬形態を適切に設定する必要があります。

<中小企業の注意点>

1.契約内容の明確化

 契約書には業務の内容、期間、報酬の詳細を明記し、双方の期待を明確に合わせることが重要です。

2.適切なコミュニケーション

 フリーランスと定期的にコミュニケーションを取り、業務の進捗や課題を共有することで、互いの誤解を防ぎます。

3.法的要件の遵守

 フリーランス保護法を含む関連法規を遵守し、不当な取引が行われないよう注意を払う必要があります。

フリーランスを活用することで、中小企業は柔軟な人材確保が可能となりますが、法的リスクを適切に管理し、健全な関係を維持することが成功の鍵となります。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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