第73回
令和7年度の助成金最新情報
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
1. はじめに
近年、労働環境の変化が激しく、中小企業にとって「人材確保」や「労働環境の改善」は喫緊の課題となっています。特に少子高齢化による労働力不足や、若手の流動化が進む中、企業が優秀な人材を確保し、定着させることはますます重要になっています。
そんな中、国が提供する助成金制度は、中小企業にとって大きな支援策となります。政府は企業の負担を軽減し、従業員の働きやすい環境を整えるために、様々な助成金を設けています。特に2025年の雇用保険法施行規則の改正により、多くの助成金制度が見直され、中小企業がより活用しやすい形に改善される予定です。
本コラムでは、2025年の改正による助成金の変更点を整理し、中小企業経営者がどの助成金をどのように活用すべきかを解説します。助成金を上手に活用することで、以下のようなメリットを享受できます。
・人材確保の強化:優秀な人材を採用し、定着させるための施策に活用
・労働環境の改善:働きやすい職場づくりを助成金で支援
・経営コストの削減:教育・研修・雇用管理制度の導入を国がサポート
助成金は知らなければ活用できない制度です。ぜひこの機会に、自社に適した助成金を見つけ、経営の安定と発展につなげていきましょう。
2.主要助成金の変更点と概要
ここでは、各助成金の概要と主な変更点を詳しく解説し、中小企業経営者がどの助成金をどのように活用すべきかを説明します。
(1) キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者(有期契約・派遣社員・短時間労働者)を正社員や無期雇用に転換した企業に対し、助成金を支給する制度です。また、賃金の引き上げや教育訓練、健康管理制度の整備など、労働者の処遇改善に取り組む企業も支援対象となります。
【変更点】
<正社員化コース>
・有期雇用社員を無期雇用・正社員に転換した場合の助成額を見直し
・通算雇用期間が5年超の有期雇用者の助成額を引き下げ
・重点支援対象者(派遣社員・母子家庭の母・人材開発訓練受講者等)に対する助成額を増
額勤務地限定・職務限定・短時間正社員制度を新設した場合の加算措置を拡充
<賃金規定等改定コース>
・賃上げ率4%以上、6%以上の新たな区分を追加
・昇給制度を整備した場合の加算措置(20万円)を新設
★ 活用のポイント
→ 正社員転換を計画している企業は、対象者の雇用期間や適用条件を確認し、早めに準備を進めるべきです。
(2) 人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金は、企業が従業員の定着率向上や職場環境の改善を行う際に支給される助成金です。人事評価制度の導入や、健康促進のための施策を行う企業に助成されます。
【変更点】
<雇用管理制度助成コースの再編>
・「人事評価改善等助成コース」を廃止し、「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」に統合
・複数の雇用管理制度(人事評価、健康づくり、職場活性化等)を導入すると最大100万円の助成
・フォークリフト、介護ソフト、食器洗浄機など、従業員の負担軽減機器の導入も助成対象に
<テレワークコースの改定>
・申請手続きの簡素化(事前の計画認定が不要に)
・助成額を定額化
「制度導入助成 20万円」
「目標達成助成 10万円(賃上げ要件満たせば15万円)」
<外国人労働者就労環境整備コース>
・外国人労働者向けの就業規則・研修などの多言語化を「母国語+平易な日本語」に変更
・離職率要件の緩和(6ヶ月後の定着率で判断)
★ 活用のポイント
→ 人材の定着率向上を目的とした研修や制度導入を検討している企業にとって、活用価値の高い助成金です。
(3) 両立支援等助成金
両立支援等助成金は、育児・介護と仕事の両立を支援する企業に対して支給される助成金です。従業員が育児や介護のために休職しやすい環境を整備した企業に助成されます。
【変更点】
<介護離職防止支援コース>
・「介護休業」の助成金要件を「連続5日以上の取得」に変更
・休業取得時と復職時の2回払いから、一括払い(最大40万円)に変更
・代替要員の雇用や短時間勤務の導入への加算措置を新設
<柔軟な働き方選択制度>
・制度導入数と利用日数に応じた助成金の支給方式へ変更
・中学校修了前の子供を養育する従業員に適用した場合の加算措置(20万円)を新設
★ 活用のポイント
→ 育児・介護を支援するための休暇制度や時短勤務制度を整備する企業にとって、有効な助成金となります。
(4)65歳超雇用推進助成金
65歳超雇用推進助成金は、高年齢者の雇用継続を支援する制度で、定年の引き上げや継続雇用制度の導入を行う企業に助成されます。
【変更点】
・申請手続きを簡素化
・高年齢者の無期雇用転換コースの要件を緩和
・65歳以上の定年引上げ・継続雇用制度の導入を推進
★ 活用のポイント
→ 高齢者の戦力化を考えている企業は、制度を活用しながら長期雇用を促進できます。
(5)人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、従業員のスキル向上やリスキリング(再教育)を目的とした研修を実施する企業に対して支給される助成金です。
【変更点】
<OFF-JT(座学研修)の助成額を増額>
・中小企業:960円→1,000円/時間
・大企業:380円→500円/時間
<有期契約労働者向けの訓練助成率を引き上げ>
・経費助成率:60% → 70%(中小企業)
<正社員転換のインセンティブを強化>
・転換後の賃上げ要件を満たした場合、助成率を85%まで引き上げ
★ 活用のポイント
→ 人材育成に積極的に投資する企業にとって、費用負担を軽減できる有効な助成金です。
これらの助成金の変更を理解し、自社の状況に適した制度を活用することで、人材確保・定着・職場環境改善をスムーズに進めることが可能です。
3.まとめ
2025年の雇用保険法施行規則の改正によって、多くの助成金制度が見直され、中小企業が活用しやすい形に改善される予定です。今回の改正を踏まえ、中小企業経営者がどのように助成金を活用すべきか、ポイントを整理します。
(1)人材確保と定着に向けた助成金の活用
近年の労働市場では、優秀な人材の確保と定着が最大の経営課題となっています。
今回の改正では、「キャリアアップ助成金」や「人材確保等支援助成金」の活用を通じて、企業が積極的に人材を育成し、定着させるための支援が強化されました。
・有期雇用から正社員への転換 → キャリアアップ助成金
・働きやすい職場環境の整備 → 人材確保等支援助成金
・高齢者の継続雇用促進 → 65歳超雇用推進助成金
中小企業が今後競争力を高めるためには、これらの助成金を活用し、雇用の安定と労働環境の向上に取り組むことが不可欠です。
(2)助成金の申請手続きが簡素化
助成金の活用を検討する際に課題となるのが、複雑な申請手続きでした。
今回の改正では、多くの助成金において「申請手続きの簡素化」が進められています。
例えば、以下のような簡素化です。
・キャリアアップ助成金 → キャリアアップ計画の認定が不要に
・テレワーク助成金 → 事前の計画認定が不要になり、よりスムーズに申請可能
・特定求職者雇用開発助成金 → 申請時の書類負担を軽減
これにより、助成金を活用しやすくなったことが今回の改正の大きなポイントです。
(3)企業の成長戦略と助成金の活用
助成金は単なる資金支援ではなく、企業の成長を加速させるためのツールです。
特に、人材育成や働き方改革の促進を目的とした助成金は、企業が競争力を強化する大きなチャンスになります。
・ 賃上げ・人材育成を支援 → 賃金規定等改定コース、人材開発支援助成金
・ 柔軟な働き方の推進 → 両立支援等助成金、テレワーク助成金
今後の経営戦略において、これらの助成金を計画的に活用することで、企業の安定経営と成長を実現できます。
(4)施行スケジュールと今後の準備
今回の改正は、2025年4月1日から施行され、一部の制度は2025年10月1日より適用されます。企業経営者は、この変更に対応し、早めに助成金の活用計画を立てることが重要です。
・ 助成金の要件や対象を確認する
・ 必要な社内制度(人事評価、育成制度など)を見直す
・ 社労士や専門家と連携して申請準備を進める
助成金は、「知っている企業だけが得をする」制度です。今回の改正を機に、自社の事業計画に合った助成金を積極的に活用し、より良い労働環境の構築と、企業の成長を実現しましょう!
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
- 第74回 2025年の採用戦略:中小企業が勝ち抜くための5つの鍵
- 第73回 令和7年度の助成金最新情報
- 第72回 変革の時代:2025年労働基準法改正が描く新しい働き方の未来
- 第71回 法改正に対応!中小企業が知っておくべきカスタマーハラスメント対策のポイント
- 第70回 中小企業経営者のための「賃上げ支援助成金パッケージ活用術」
- 第69回 2025年春闘:中小企業の挑戦と変革の時
- 第68回 定年延長か継続雇用か ? データから見る高齢者雇用の最適解
- 第67回 2025年、退職代行サービス利用が過去最高に ~ 現代の労働環境が映し出す課題とは
- 第66回 2025年育児介護休業法改正と企業が行うべき対応
- 第65回 「年収の壁」から「労働時間」の壁へ移行する社会保険適用の新時代(その3)
- 第64回 「年収の壁」から「労働時間」の壁へ移行する社会保険適用の新時代(その2)
- 第63回 「年収の壁」から「労働時間」の壁へ移行する社会保険適用の新時代(その1)
- 第62回 女性活躍推進法の改正がもたらす未来と企業への影響
- 第61回 大企業でも導入が進む「パーソナル雇用制度」
- 第60回 最低賃金1500円時代における給与の決め方
- 第59回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策(その3)
- 第58回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策(その2)
- 第57回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策
- 第56回 中小企業が注目すべきミドル世代の賃金上昇と転職動向~経験豊富な人材の採用でビジネス成長を加速
- 第55回 中小企業が賃金制度を考えるときに知っておきたい基本ポイント
- 第54回 2024年10月からの社会保険適用拡大、対応はお済みですか?
- 第53回 企業と競業避止契約の今後を考える
- 第52回 令和7年度 賃上げ支援助成金パッケージ:企業の成長と持続的な労働環境改善に向けて
- 第51回 解雇の金銭解決制度とその可能性 〜自民党総裁選における重要テーマ〜
- 第50回 令和7年度予算概算要求:中小企業経営者が注目すべき重要ポイントと支援策
- 第49回 給与のデジタル払いの導入とその背景
- 第48回 最低賃金改定にあたって注意すべきこと
- 第47回 最低賃金50円アップ時代に中小企業がやるべきこと
- 第46回 本当は怖い労働基準監督署の調査その4
- 第45回 本当は怖い労働基準監督署の調査(その3)
- 第44回 本当は怖い労働基準監督署の調査 その2
- 第43回 本当は怖い労働基準監督署の調査
- 第42回 初任給横並びをやめたパナソニックHD子会社の狙い
- 第41回 高齢化社会と労働力不足への対応:エイジフレンドリー補助金の活用
- 第40回 助成金を活用して人事評価制度を整備する方法
- 第39回 採用定着戦略サミット2024を終えて
- 第38回 2025年の年金制度改革が中小企業の経営に与える影響
- 第37回 クリエイティブな働き方の落とし穴:裁量労働制を徹底解説
- 第36回 昭和世代のオジサンとZ世代の若者
- 第35回 時代に合わせた雇用制度の見直し: 転勤と定年の新基準
- 第34回 合意なき配置転換は「違法」:最高裁が問い直す労働契約の本質
- 第33回 経営課題は「現在」「3 年後」「5 年後」のすべてで「人材の強化」が最多
- 第32回 退職代行サービスの増加と入社後すぐ辞める若手社員への対応
- 第31回 中小企業の新たな人材活用戦略:フリーランスの活用と法律対応
- 第30回 「ホワイト」から「プラチナ」へ:働き方改革の未来像
- 第29回 初任給高騰時代に企業が目指すべき人材投資戦略
- 第28回 心理的安全性の力:優秀な人材を定着させる中小企業の秘訣
- 第27回 賃上げラッシュに中小企業はどのように対応すべきか?
- 第26回 若者の間で「あえて非正規」が拡大。その解決策は?
- 第25回 「年収の壁」支援強化パッケージって何?
- 第24回 4月からの法改正によって労務管理はどう変わる?
- 第23回 4月からの法改正によって募集・採用はどう変わる?
- 第22回 人材の確保・定着に活用できる助成金その7
- 第21回 人材の確保・定着に活用できる助成金その6
- 第20回 人材の確保・定着に活用できる助成金その5
- 第19回 人材の確保・定着に活用できる助成金その4
- 第18回 人材の確保・定着に活用できる助成金その3
- 第17回 人材の確保・定着に活用できる助成金その2
- 第16回 人材の確保・定着に活用できる助成金その1
- 第15回 リモートワークと採用戦略の進化
- 第14回 「社員」の概念再考 - 人材シェアの新時代
- 第13回 企業と労働市場の変化の中で
- 第12回 その他大勢の「抽象企業」から脱却する方法
- 第11回 Z世代から選ばれる会社だけが生き残る
- 第10回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(後編)
- 第9回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(前編)
- 第8回 中小企業のための「集めない採用」~ まだ穴のあいたバケツに水を入れ続けますか?
- 第7回 そもそも「正社員」って何ですか? - 新たな雇用形態を模索する時代へ
- 第6回 成功事例から学ぶ!パーソナル雇用制度を導入した企業の変革と成果
- 第5回 大手企業でも「パーソナル雇用制度」導入の流れ?
- 第4回 中小企業の採用は「働きやすさ」で勝負する時代
- 第3回 プロ野球選手の年俸更改を参考にしたパーソナル雇用制度
- 第2回 パーソナル雇用制度とは? 未来を切り開く働き方の提案
- 第1回 「労働供給制約社会」がやってくる!