中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第38回

2025年の年金制度改革が中小企業の経営に与える影響

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

2025年に迎える5年に1度の年金制度改正で、厚生労働省は働き方に関係なく公平な年金制度への改革を進めようとしています。中小企業の経営者にとって、この年金制度改革は避けて通れない課題です。特に、「パート社員の社会保険適用拡大」と「3号被保険者制度の廃止」は、企業の経営に直接的な影響を及ぼす可能性があります。本コラムでは、この二つの問題点と課題を明確にし、具体的な対応策を提案します。

<パート社員の社会保険適用拡大>

厚生労働省は、働き方に関係なく公平な年金制度への改革を進めています。その一環として、2025年の年金制度改正では、パート社員への社会保険適用拡大が検討されています。現在(2024年10月から)、厚生年金の適用対象となる企業の従業員数は51人以上ですが、これがさらに縮小される可能性があります。また、企業要件の撤廃も議論されています。

(1)問題点と課題

中小企業にとって、パート社員への社会保険適用拡大は保険料負担の増加と事務負担の増加を意味します。現行の条件では、賃金が月8万8000円以上、週の所定労働時間が20時間以上のパート社員が対象となりますが、これにより多くのパート社員が厚生年金に加入することになります。これによって、中小企業の経営資源が圧迫される懸念があります。

(2)対応策

・コスト管理の徹底

保険料負担が増加することを見越して、経営者は徹底的なコスト管理を行う必要があります。例えば、パート社員の労働時間を再検討し、必要に応じてフルタイム社員とのバランスを取ることが重要です。

・効率的な事務管理

社会保険の手続きを効率化するために、専門の人事労務担当者を配置したり、アウトソーシングを検討したりすることが有効です。最新の労務管理システムを導入することも一つの方法です。

・従業員への説明と教育

パート社員に対して、社会保険への加入のメリットを丁寧に説明し、理解を深めることが重要です。これにより、従業員のモチベーションを維持し、離職率を低下させることができます。

<3号被保険者制度の廃止>

3号被保険者制度とは、会社員の配偶者が年金保険料を納めずに基礎年金を受け取れる制度です。この制度は、専業主婦(主夫)世帯が多数を占めていた時代に導入されましたが、現在では共働き世帯が主流となり、制度の見直しが議論されています。

(1)問題点と課題

3号被保険者制度の廃止は、中小企業にとって間接的な影響を及ぼします。特に、制度廃止により配偶者が保険料を負担する必要が出てくるため、家庭の収入構造が変化し、労働市場への影響が懸念されます。また、育児や介護などで働きづらい環境にある人々への配慮も必要です。

(2)対応策

・柔軟な働き方の導入

育児や介護などの理由でフルタイム勤務が難しい従業員に対して、柔軟な働き方を提供することが求められます。リモートワークや時短勤務、フレックスタイム制などを導入し、働きやすい環境を整えることが重要です。

・福利厚生の充実

企業独自の福利厚生制度を充実させ、従業員の生活をサポートすることが有効です。例えば、子育て支援や介護支援プログラムを提供することで、従業員の家庭生活と仕事の両立を支援します。

・従業員への教育と情報提供

3号被保険者制度の廃止に伴う影響について、従業員に対して十分な情報提供を行い、将来の生活設計をサポートすることが必要です。セミナーや相談窓口を設置し、従業員が安心して働ける環境を作ることが求められます。

<まとめ>

次回(2025年)の年金制度改革は、中小企業の経営に多大な影響を与える可能性があります。パート社員の社会保険適用拡大と3号被保険者制度の廃止は、企業にとって新たな課題を生む一方で、適切な対応策を講じることで、経営の安定と従業員の満足度向上につなげることができます。経営者は、制度改革の動向を注視し、早期に対策を講じることが求められます。これにより、企業の持続的な成長と、従業員の安心・安定した働き方を実現することができるでしょう。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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