中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第56回

中小企業が注目すべきミドル世代の賃金上昇と転職動向~経験豊富な人材の採用でビジネス成長を加速

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

1. はじめに

昨今、40代から50代のいわゆる「ミドル世代」における賃金上昇が鮮明になってきています。これまでの転職市場では、20~30代の若手人材が注目される傾向がありましたが、ここ数年、ミドル世代の転職による賃金上昇が顕著です。特に中小企業にとって、管理職や専門職の人手不足が深刻化している今、経験豊富なミドル世代の活用は重要なポイントとなっています。

中小企業にとって、若手の育成だけでなく、即戦力として活躍できる中堅人材をどのように確保し、組織の成長に結びつけていくかが問われる時代となっています。このコラムでは、ミドル世代の転職市場の動向と賃金上昇の背景を踏まえ、中小企業がどのようにこの動きを活かし、優秀な人材を獲得し成長していくかについて解説します。


2. 中小企業の採用市場におけるミドル世代の価値

中小企業にとって、40~50代のミドル世代は貴重な戦力となる可能性があります。特に、長年の業務経験や専門知識を活かすことができる人材は、管理職や専門職の不足を補うだけでなく、組織全体のパフォーマンス向上にも貢献します。

ミドル世代は、若手と異なり即戦力として期待できる点が魅力です。新しい環境に適応する能力がある一方で、業界特有のノウハウや実務経験を持っており、社内の教育コストを削減しつつ、スムーズに業務を進めることが可能です。また、これまで培ってきた人脈やリーダーシップスキルも、チームの強化やプロジェクト推進に役立つことが多いです。

中小企業が成長するためには、限られたリソースの中で、いかに効率的かつ効果的に人材を活用するかが重要です。経験豊富なミドル世代は、すでに実績を持っているため、彼らを採用することで企業の成長スピードを加速させることができるのです。


3. 賃金上昇が転職を促す要因と中小企業への影響

最近の賃金上昇は、特に40~50代のミドル世代において顕著になっています。この背景には、企業における管理職や専門職の人材不足が深刻化していることが挙げられます。また、大企業における役職定年や年収減少も、転職を考える重要なきっかけとなっています。特に、住宅ローンや物価高の影響を受け、収入を維持したいと考える人が増えています。

こうした動きの中で、中小企業にとっては大きなチャンスが生まれています。ミドル世代は経験豊富であり、即戦力として期待できるだけでなく、賃金面での希望もある程度現実的です。転職市場において、若手人材の獲得競争が激化している一方で、ミドル世代に対しては競争が緩やかであることも、中小企業にとっては有利な点です。

しかし、賃金上昇が続く中で、企業は自社の給与水準を見直す必要があります。優秀な人材を確保するためには、競争力のある給与設定が不可欠です。特に、経験やスキルを持つミドル世代をターゲットにする場合、彼らの期待に応える適切な報酬を提示することが、採用成功のカギとなるでしょう。


4. スタートアップとの競争――中小企業がミドル世代を引きつける方法

近年、スタートアップ企業がミドル世代を積極的に採用する動きが強まっています。特に、エンジニア職だけでなく、経営企画や営業といった職種でもミドル世代の経験や専門知識が高く評価されています。スタートアップの魅力は、革新的な事業やスピード感のある職場環境ですが、同時に中小企業にとっては採用競争が激化する要因にもなります。

しかし、中小企業にはスタートアップにはない魅力があります。それは、安定性や柔軟な働き方を提供できる点です。ミドル世代にとって、仕事の内容や賃金だけでなく、安定した職場や長期的な雇用が魅力的に映ることが多くあります。また、中小企業はフラットな組織構造や経営者との距離の近さを活かして、従業員一人ひとりの意見や貢献を評価しやすい環境を整えることができます。

中小企業がミドル世代を引きつけるためには、賃金や職場環境だけでなく、社員が自己実現できる場を提供し、キャリアの充実感を得られるような工夫が求められます。スタートアップとの競争において、中小企業ならではの強みを打ち出し、ミドル世代にとって魅力的な選択肢となることが重要です。


5. 役職定年と転職――中小企業の採用チャンス

大企業では多くの場合、55歳前後で役職定年が設けられており、それをきっかけに転職を検討するミドル世代が増えています。役職定年後は給与が大幅に減少することが一般的で、住宅ローンや子どもの教育費、さらには物価の上昇に直面している世代にとって、生活水準を維持するための転職が現実的な選択肢となっています。

ここで中小企業にとって大きなチャンスが生まれます。役職定年を迎えた人材は、大企業での豊富な経験やリーダーシップを持っているだけでなく、新しい職場での貢献意欲が高い傾向があります。中小企業にとっては、こうした即戦力を採用することで、組織の効率化や成長を促進できる大きなメリットがあります。

さらに、中小企業は、大企業に比べて役職定年が少ないため、長期的な雇用やキャリアの継続が可能な点を強調することが重要です。役職定年後の人材にとって、安定した収入とやりがいのある仕事を提供できる中小企業は、魅力的な選択肢となるでしょう。このように、大企業からの人材流入は中小企業にとって優秀な人材を確保する絶好の機会であり、積極的にアプローチすることで大きな成果を得ることができます。


6. 中小企業における適切な賃金設定と文化の重要性

ミドル世代を引きつけ、採用に成功するためには、適切な賃金設定が欠かせません。特に中小企業にとっては、限られた予算の中で競争力を持たせるために、慎重な賃金設計が必要です。スタートアップや大企業と比べて、単純に高い給与を提示することが難しい場合でも、総合的な報酬制度を工夫することで魅力を高めることができます。

例えば、業績に応じたインセンティブ制度や、柔軟な勤務体系、ワークライフバランスを重視した環境など、給与以外の面で魅力を感じさせる制度を導入することが効果的です。中小企業は、大企業に比べて従業員一人ひとりの声を聞きやすい環境が整っており、その強みを活かして、個々の従業員が満足できる働き方を提供することができます。

さらに、企業文化や職場の風土も、ミドル世代の転職先選びにおいて重要な要素です。特に、転職希望者にとっては、若い経営者や若手社員が中心の職場であっても、自分の経験やスキルが評価され、尊重されるかどうかが大きな関心事となります。中小企業は、この点での柔軟性やチームとしての一体感を強調することで、ミドル世代にとって魅力的な職場環境を提供できるでしょう。

このように、中小企業は給与だけでなく、働きやすい職場環境や企業文化を通じて、ミドル世代の人材を引きつけ、採用に成功するための戦略を練ることが求められます。


7. 氷河期世代の賃金課題と中小企業の成長戦略

40~50代のミドル世代の中でも、特に「氷河期世代」と呼ばれる層は、賃金面で厳しい状況に置かれてきました。就職氷河期の影響で、正社員としての就職が難しかった世代であり、多くの人が非正規雇用や低賃金の仕事に従事せざるを得ませんでした。厚生労働省のデータによれば、45~54歳の氷河期世代の3割が依然として非正規雇用で働いています。

こうした状況を踏まえ、政府もリスキリング(学び直し)を推進し、この世代の雇用機会を拡大する取り組みを強化しています。中小企業にとっては、この氷河期世代をターゲットにした採用戦略を検討することで、新たな成長の道を切り開くことが可能です。

氷河期世代は、これまでのキャリアで様々な困難を乗り越えてきたため、忍耐力や問題解決能力に優れているケースが多いです。また、リスキリングによって新しいスキルを身につけた人材も増えており、中小企業にとっては、即戦力として活用できる人材が見込めます。

さらに、企業がこの世代の人材を採用することで、社会貢献の一環としての評価を得ることも可能です。政府の補助金や助成金制度を活用し、氷河期世代の再雇用を促進することは、企業にとっても財政的な負担を軽減しつつ、成長を加速させる重要な戦略となるでしょう。


8. 結論

ミドル世代の賃金上昇と転職動向は、中小企業にとって大きな成長機会となり得ます。経験豊富で即戦力となる40~50代の人材を適切に採用し、企業の成長戦略に組み込むことで、長期的な発展を見込むことができるでしょう。

スタートアップや大企業との競争が激化している中でも、中小企業は安定性や柔軟な働き方、さらには企業文化の魅力を打ち出すことで、優秀なミドル世代を引きつけることが可能です。また、氷河期世代を含む中堅層の再雇用やリスキリングを促進することで、社会的な評価を高めつつ、自社の成長に繋げることもできます。

このように、中小企業は賃金設定や職場環境の改善といった工夫を凝らし、賃金上昇が進むミドル世代の動きを捉えながら、積極的な採用戦略を展開することが求められます。これにより、企業は競争力を強化し、持続的な成長を実現できるのです。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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