中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第27回

賃上げラッシュに中小企業はどのように対応すべきか?

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

2024年の春季労使交渉は、賃上げラッシュに沸いています。多くの企業が労働側の要求に満額回答をするだけでなく、要求を上回る賃上げを実施する企業も出てきました。

賃金の上昇は、労働者にとっては歓迎すべきニュースですが、中小企業にとっては大きな挑戦となり得ます。コスト増加に対応するための戦略は、企業の持続可能性と成長の鍵を握っています。

そこで本稿では、相次ぐ賃上げに対して中小企業がどのように対応すべきかについて考察します。

まず認識をすべきは、この賃上げは一時的なものではないということです。全国の最低賃金の平均額は昨年はじめて1000円を超えましたが(1004円)、政府は2030年の半ばまでに1500円を目指すと言っています。

この最低賃金額に、1ヵ月の所定労働時間を乗じた金額は、概ね高卒初任給の額に一致します。たとえば、所定労働時間が170時間の場合は、その金額は約17万円になります。

では、最低賃金が1500円になるとどうなるかというと、高卒初任給が25~26万円になるということです。東京などの大都市圏では、されに高額になるでしょう。

もちろん、高卒の初任給がアップすれば大卒の初任給も上がりますし、それに引きずられるようにすべての従業員の賃金もアップさせなければなりません。つまり、会社にとっては大幅な人件費増になるということです。

さらに、今後は社会保険の適用拡大なども予定されていますので、法定福利費も含めたトータルの人件費は、企業にとってのかなりの負担になることが確実です。

一方で、人手不足の状況はこれからずっと続きますので、賃上げができない企業からは人材が流出してしまう可能性が非常に高いと言えるでしょう。

このような状況に対応するために、中小企業では以下のような取り組みをする必要があります。

1. 効率性の向上

第一に、中小企業は運営の効率性を向上させることが必要です。これには、業務プロセスの見直しやデジタルツールの導入が含まれます。たとえば、会計ソフトや顧客管理システム(CRM)の導入により、手作業で行っていた作業を自動化し、時間とコストを節約することができます。また、在宅勤務やフレックスタイム制の導入により、従業員の満足度を高めつつ、オフィスの維持費を削減することも可能です。

2. 人材の再配置とスキルアップ

次に、人材の再配置とスキルアップに注力することが重要です。賃上げによるコスト増加を効率的に管理するためには、従業員一人ひとりの生産性を最大限に引き出す必要があります。これを実現するためには、適切なトレーニングと教育が不可欠です。従業員のスキルセットを拡大することで、より多くの業務をカバーできるようになり、人員を柔軟に配置することが可能になります。

3. 価格戦略の見直し

賃上げに伴うコスト増加を吸収するためには、価格戦略の見直しが必要になる場合があります。しかし、価格を単純に上げることは、顧客の反発を招くリスクがあります。そのため、価値提案を高めることが重要です。例えば、製品やサービスに付加価値を加えることで、顧客がより高い価格を支払う意欲を喚起できます。また、ロイヤルティプログラムやバンドル販売など、顧客の長期的なエンゲージメントを促進する戦略も有効です。

4. 政府支援プログラムの活用

最後に、中小企業は政府や地方自治体が提供する支援プログラムの情報を積極的に収集し、活用するべきです。これには、雇用創出や技術革新を支援する補助金、低利の融資プログラム、税制優遇措置などが含まれます。これらの支援を利用することで、賃金上昇の負担を軽減し、企業の成長を支えることができます。

結論

相次ぐ賃上げは中小企業にとって厳しい挑戦ですが、これを機に事業運営の見直しを行うことで、より強固な経営基盤を築くチャンスでもあります。効率性の向上、人材育成、価格戦略の見直し、政府支援の活用は、このような環境下での成功への鍵です。中小企業がこれらの戦略を積極的に採用することで、賃上げの波を乗り越え、持続可能な成長を遂げることができるでしょう。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。