中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第4回

中小企業の採用は「働きやすさ」で勝負する時代

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

労働力人口が減少し、先行き不透明の不安から転職希望者がより安定を求めるようになると、大企業を志望するようになるため、中小企業の中途採用はより厳しい環境に置かれることになります。採用にかけられる予算(広告宣伝費など)や求職者に提示する条件が年収面で見劣りしがち、といった難しさもあります。一方、働くことへの価値観の多様化が進むと、決して金銭面だけが入社の決定要因となるわけではありません。したがって、年収以外の魅力をいかに打ち出すかがポイントとなってきます。

そのひとつが、「多様な働き方」です。例えば、「残業なし」「フレックスタイム制あり」「週休3日制で働ける」といった労働時間に関する柔軟性を打ち出して募集をする。あるいは、「在宅で働ける」「サテライトオフィス完備」「ワーケーション可能」といった働く場所の柔軟性について訴求をするという方法です。さらに言うならば、「当社は、従業員のライフスタイルを尊重しています。そのため、働く時間や場所についてはあなたの希望に沿える“パーソナル雇用制度”を導入しています」というメッセージを出すこともできるかもしれません。

かつては大手企業で活躍していたのに、出産・子育てのために退職をしてしまったという女性は少なくありません。このような方が子育てがひと段落したので仕事に復帰しようと思っても、実際にはパート社員などの非正規雇用の求人しかないのが現実です。たとえ正社員の募集があったとしても、いわゆる無限定社員としてバリバリ働かなければならない労働条件だったりします。

このように、会社の戦力として十分な知識やスキル、経験を持っていながらも、「労働時間」や「勤務場所」といった働き方の条件が合わないというだけで活躍の場を失ってしまっている女性が、非常に多いのです。そこで、今後の中小企業の採用戦略としてこのような人材を狙うべきだと考えています。また、労働時間や勤務場所の柔軟性を求める人たちに対しては、「パーソナル雇用制度」が最適な提案になるはずです。

あるいは、スポーツや音楽、芸術などの分野で活動をしていて、若いうちは仕事よりもそちらを優先させたいという人もいるでしょう。彼(彼女)らの中にはチャンスがあればその道でプロとしてやっていきたい、という夢を持っている人もいます。そのために、毎日練習やトレーニングを積んで、大会やイベントに出場しているのです。

彼(彼女)らにとって、仕事というのは、その活動資金を得るための手段です。こうしたチャレンジは若いうちにしかできないものですし、それがその人の「ライフスタイル」なのです。そんな彼(彼女)らも、年齢を重ねて子どもを持つなどライフステージが変われば、「ライフスタイル」も変化し、家族のために仕事をすることが大事になるかもしれません。

これまでの雇用制度というのは、会社の都合で働き方が決められていましたから、その働き方に合わない人は、雇用してもらうことができませんでした。つまり、雇用する会社側が有利な「買い手市場」だったということ。

しかし、これからは労働力人口が減少する時代です。実際に、現在の労働市場は完全に「売り手市場」になっています。「売り手市場」というのは、労働者の方が有利な状況になっているということです。ですから、これまでのような高飛車な求人募集では、求職者からは見向きもされません。だからこそ、従業員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方も可能にする必要があるのです。それが、当協会が提唱している「パーソナル雇用制度」です。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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