中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第40回

助成金を活用して人事評価制度を整備する方法

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

現代の企業経営において、人事評価制度の整備は不可欠です。特に生産性向上や従業員の賃金アップ、そして離職率の低下を目指す企業にとっては、この制度の導入は重要な課題となっています。そこで、厚生労働省が提供する「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」を活用することで、効果的かつ経済的に人事評価制度を整備する方法について解説します。

<助成金の概要>

「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」は、生産性の向上を目指す企業を支援するための助成金です。この助成金は、企業が賃金アップを伴う人事評価制度を整備し、その結果として生産性向上と従業員の定着率向上を実現することを目的としています。

助成金の支給額は最大で80万円です。この金額は、人事評価制度の整備や運用にかかる費用の一部を補填するのに役立ちます。助成金を受けるためには、一定の条件を満たす必要がありますが、これらの条件をクリアすることで企業は助成金を受け取り、人事評価制度を効果的に整備することが可能となります。

<助成金の申請手順>

助成金を受けるための手順は以下の通りです。

1.人事評価制度等整備計画の作成と提出

企業はまず、人事評価制度等整備計画を作成し、都道府県労働局に提出します。この計画には、従業員の賃金アップを伴う具体的な評価基準や方法、評価の結果に基づく賃金の変動幅などが含まれます。

2.人事評価制度の実施

計画が認定された後、企業は人事評価制度を整備し、従業員に適用します。この制度は、労働協約または就業規則に明文化され、すべての従業員に対して実施される必要があります。

3.助成金の申請

人事評価制度の整備と適切な運用を経て、企業は賃金の3%以上のアップと離職率の低下という目標を達成します。これを達成した企業は、助成金の支給を申請することができます。申請は、評価時離職率算定期間の末日から起算して2か月以内に行う必要があります。

<助成金の受給条件>

助成金を受給するためには、以下の条件を満たす必要があります。

1.雇用保険の適用事業主であること

労働者を直接雇用し、雇用保険に加入していることが必要です。

2.すべての従業員に適用する制度であること

人事評価制度は、すべての従業員を対象とするものでなければなりません。ただし、事業所の実態に合わせ、人事評価制度等を職種別や雇用形態別に規定することは問題ありません。

3.賃金の3%以上のアップ

人事評価制度の導入により、評価を受けた従業員の賃金が3%以上増加することが求められます。

4.離職率の低下

評価時離職率が計画時離職率よりも低下していることが必要です。

<助成金活用のメリット>

助成金を活用することで、企業は以下のようなメリットを享受できます。

1.経済的支援

助成金により、人事評価制度の整備にかかる費用を大幅に軽減できます。

2.生産性の向上

評価制度の導入により、従業員のモチベーションが向上し、生産性が向上します。

3.離職率の低下

公正な評価とそれに基づく賃金アップにより、従業員の定着率が向上します。

<助成金を活用する上での注意点>

1.提出期限を守る

助成金の申請書類は、指定された期限内に提出する必要があります。郵送の場合でも、書類が期限内に到着していなければなりません。計画の認定申請は、人事評価制度等の適用開始日がある月の初日の6か月前から1か月前の日までに行う必要があります。

2.適切な書類の準備

助成金の申請には多くの書類が必要です。必要な書類には、「人事評価制度等整備計画書」「整備する人事評価制度等の概要票」「労働協約または就業規則」「賃金台帳」「離職証明書」などがあります。これらの書類は正確に記入し、必要な内容がすべて含まれていることを確認する必要があります。

3.賃金の増加要件の確認

助成金を受給するためには、人事評価制度の適用により、従業員の賃金が3%以上増加することが必要です。賃金の総額が増加していない場合は、助成金の対象外となる可能性があります。

4.離職率の低下

計画時離職率と評価時離職率を正確に計算し、評価時離職率が目標値以下であることを確認する必要があります。離職率の算出方法や、適用対象となる労働者の定義については詳細に確認し、誤りがないように注意する必要があります。

5.助成金の趣旨に反しない制度の整備

人事評価制度の整備にあたっては、労働者の賃金を不当に引き下げるような制度は助成金の趣旨に反します。賃金の引き下げを行った場合、助成金の支給対象外となります。

6.継続的な運用

助成金を受け取った後も、人事評価制度を適切に運用し続ける必要があります。整備した人事評価制度が引き続き実施されていることを証明する書類(就業規則や労働協約など)を用意し、申請時に提出する必要があります。

7.不正受給の防止

偽りや不正行為により助成金を受給しようとすることは、犯罪行為となります。不正受給が発覚した場合、助成金の返還を求められるだけでなく、事業主名が公表されることもあります。

<まとめ>

「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」を活用することで、企業は効率的かつ効果的に人事評価制度を整備することが可能です。この制度を適切に利用することで、生産性の向上、賃金アップ、そして離職率の低下という三つの重要な目標を達成することができます。ぜひ、この助成金を活用して、貴社の人事評価制度を充実させてください。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。