中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第61回

大企業でも導入が進む「パーソナル雇用制度」

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

<三井住友信託銀行が転勤可否を半年ごとの申告制に>

新聞報道によると、三井住友信託銀行が2025年秋を目途に、転勤の可否を半年ごとに申告できる制度を導入する予定です。この新制度は、社員一人ひとりのライフステージや家族状況に応じて柔軟な働き方を選択できるようにする仕組みで、若手社員の転職防止や中高年社員の介護離職防止が狙いです。具体的には、社員が首都圏、近畿圏、中京圏の3地域のいずれかを本拠地として選び、転勤の可否を申告。希望しない場合、地域内での異動に限定されるようになります。

この制度は、これまでの一律的な転勤制度では対応できなかった個々の事情に応えるもので、社員がキャリアとライフスタイルの両立を図れる点が特徴です。エン・ジャパンの調査では、69%の回答者が「転勤は退職のきっかけになる」と回答しており、このような動きは、企業が人材流出を防ぐための重要な対策といえるでしょう。


<働き方の多様化に関する調査>

エン・ジャパンの調査結果によると、共働き世帯が増加し、転勤という制度に対する社員の抵抗感が強まっています。特に若い世代では、パートナーのキャリアを考慮する必要性が高まり、「転勤による単身赴任」を避けたいという声が大きくなっています。また、中高年層では親の介護という新たな負担が加わり、家族の都合に合わせた働き方が求められています。

こうした背景から、転勤制度そのものが「社員の自由を奪う要因」として捉えられるようになりつつあります。この流れに対応するため、多くの企業が働き方の柔軟性を高める施策に舵を切っているのです。


<パーソナル雇用制度の意義と役割>

当協会(一般社団法人パーソナル雇用普及協会)が提唱する「パーソナル雇用制度」は、こうした働き方の多様化に対応するために生まれた新しい雇用の形です。パーソナル雇用制度は、従業員一人ひとりのニーズに合わせた雇用条件を提供する仕組みで、勤務地、勤務時間、職務内容、キャリア形成など、個々の事情に基づいて柔軟に設定します。

この制度の特徴は、従業員が自らのライフスタイルやキャリアに合わせて働き方を選択できる点にあります。例えば、育児や介護、自己啓発など、個別の事情に対応しながら仕事を続けられる環境を整えることで、離職を防ぎ、従業員満足度を向上させることが可能です。


<中小企業から大企業への拡大>

もともとパーソナル雇用制度は、中小企業の人材確保と定着を目的として開発されました。しかし、働き方の多様化が進む中で、この仕組みが大企業にも採用されるようになっています。三井住友信託銀行の新制度も、その一例と言えるでしょう。

大企業では、従業員数が多いため、一律的な制度では対応しきれない課題が顕在化しやすい傾向にあります。そのため、パーソナル雇用制度のように、個別対応を可能にする仕組みの導入が進んでいます。こうした動きは、制度の有効性を証明するとともに、中小企業にとっても導入の後押しとなるでしょう。


<パーソナル雇用制度が必要な理由>

日本の労働力人口は減少の一途をたどっており、少子高齢化による人手不足が深刻化しています。同時に、働き方や価値観が多様化しており、従業員の個別ニーズに応えられない企業は、優秀な人材の確保や定着に苦戦を強いられています。

パーソナル雇用制度は、こうした時代の課題を解決する有効な手段です。企業は、個々の従業員に寄り添った働き方を提供することで、離職を防ぐだけでなく、生産性の向上や従業員のエンゲージメント強化を実現します。さらに、柔軟な雇用制度を導入することで、転職市場でも他社との差別化を図ることが可能です。


<中小企業への提言>

大企業での導入事例が増える中、中小企業においてもパーソナル雇用制度の導入は急務と言えるでしょう。中小企業は大企業に比べてリソースが限られている分、離職や採用ミスマッチによるコストが経営に与える影響は大きくなります。そのため、働き手のニーズに応じた柔軟な制度を構築し、従業員の定着を図ることが重要です。

また、中小企業は大企業ほど画一的な制度を導入する必要がないため、より柔軟にパーソナル雇用制度を運用できる利点があります。これを活用することで、地域に根ざした雇用や、特定の技能を持つ人材の確保が容易になります。


<結論:未来を見据えた雇用制度の構築を>

三井住友信託銀行の取り組みは、時代の変化に対応する新しい雇用制度の一例です。そして、この流れは中小企業にとっても非常に参考になります。パーソナル雇用制度を導入することで、企業は働き手の多様なニーズに応えつつ、競争力を強化することが可能です。

未来の働き方を見据え、企業は従業員一人ひとりの声に耳を傾け、柔軟かつ持続可能な制度を構築する必要があります。それが、企業と従業員の双方にとって最良の未来を築く鍵となるでしょう。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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