第5回
大手企業でも「パーソナル雇用制度」導入の流れ?
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
日本の労働市場が「売り手市場」へと急速に移行している昨今、企業の採用戦略は大きく変化しています。この中で注目されるのが「パーソナル雇用制度」の導入です。この制度の背後には、労働者一人ひとりのニーズや価値観を尊重するという時代の変革が見て取れます。
このような流れの中、最近のニュースで注目すべき動きがありました。それは、日本生命保険がキャリア採用を本格化するとのこと。この大手金融機関が、高度な専門性を持つ人材に最大5000万円程度の年収を提示する計画を立てているというのです。
何が注目すべきかと言うと、これまでの日本の大手企業は、従来の終身雇用制度や一律の年収設定が主流でした。しかし、日本生命のような大企業が、個別の役割や能力に応じた「パーソナル雇用制度」のような柔軟な報酬制度を採用し始めているのです。
特に、M&Aの専門家やIT・デジタル分野、サイバーセキュリティなどの専門性を持つ人材が優遇される流れは、今後の日本の雇用環境に革命をもたらすかもしれません。実際、24年度にはヘルスケアを中心とした新規事業の立ち上げを控え、データ分析やヘルステックの専門家も求められています。従来、日本の大手企業、特に伝統的な金融機関においては、終身雇用制度や一律の昇進・昇給システムが確立されていました。しかし、グローバル化やデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せる中、企業の経営戦略もまた変わりつつあります。
大手企業には、高額な報酬を提示して、トップレベルの専門家や経験豊富な人材を引き付ける能力があるのは事実です。しかし、中小企業の場合はどうでしょうか。資本力の制約から、それほどの報酬を提示することは難しい現実に直面しています。そうした中、以前のコラムで取り上げたように、中小企業の競争力は「働きやすさ」や「柔軟な働き方」にあると私は考えています。従って、彼らにとっては、高額な報酬を出すことよりも、働き方の魅力で労働者を引き付ける戦略が重要となってくるのです。
こうした背景から、パーソナル雇用制度のような新しい働き方を提案することで、中小企業も優秀な人材を惹きつけることが可能となります。具体的には、労働時間や勤務地、ライフスタイルに合わせて柔軟に対応する雇用形態を提案することで、従業員のモチベーション向上やロイヤリティの確保が期待できるのです。
これからの時代、大手企業だけでなく中小企業も、それぞれの立場や資本力を活かした形で、人材確保の新しい方法を模索していく必要があります。そのための鍵として、パーソナル雇用制度の導入をぜひご提案したいと思っています。
それでは、今回はここまでとさせていただきます。次回もさらに深掘りしたトピックでお届けいたします。お楽しみに!
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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