第62回
女性活躍推進法の改正がもたらす未来と企業への影響
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
<はじめに>
日本は現在、少子高齢化が進行し、労働力人口の減少という深刻な課題に直面しています。この問題を解決するには、女性を含む多様な人材が能力を最大限に発揮できる社会を構築する必要があります。これにより、労働市場が活性化し、経済の持続的成長が可能になると考えられています。
<女性活躍推進法の改正が必要な背景>
2016年に施行された女性活躍推進法は、企業に女性の活躍を促すための行動計画策定やデータ公表を求める法律として注目されました。しかし、日本の女性管理職比率は12.9%(2022年)にとどまり、米国(41.0%)、ドイツ(28.9%)などの先進国と比べて大きく遅れを取っています。こうした状況を受け、厚生労働省は女性活躍推進法の改正に向けた新たな方針を打ち出しました。この改正は、日本社会全体にとって重要な転換点であり、企業経営にも大きな影響を与えるものとなるでしょう。
<女性管理職比率と賃金格差の公表義務化>
改正案では、女性管理職比率の公表が義務化される点が特に注目されています。これまで努力義務にとどまっていた女性管理職比率の開示が、従業員101人以上の企業に対して義務化されます。この措置により、企業は管理職に占める女性の割合や男女別の登用率を公開することが求められます。こうした公表義務は、女性の昇進を妨げる無意識の偏見や制度上の課題を浮き彫りにし、企業が改善に向けて具体的な行動を取るきっかけとなるでしょう。
また、男女の賃金格差に関しても公表義務の対象が拡大されます。これまでは従業員301人以上の企業が対象でしたが、改正後は従業員101人以上の企業にも適用されます。具体的には、男女の平均賃金差を公開することが求められるだけでなく、その算出方法や差異の背景についても説明することが期待されています。これにより、賃金格差の原因が明らかにされ、是正に向けた具体的な取り組みが促進されるでしょう。
<女性の健康課題への配慮も重要に>
今回の改正案では、女性特有の健康課題への対応も新たな焦点となっています。具体的には、生理休暇の取得環境の改善や、不妊治療支援制度の導入などが企業に求められる項目として挙げられています。一部の企業では既にこうした取り組みが進められており、たとえば生理休暇を柔軟に取得できる環境の整備や、不妊治療を支援するための特別休暇制度の導入が行われています。これらの動きが法改正を通じて全国規模で広がることで、女性が安心して働ける職場環境が実現することが期待されています。
健康課題への配慮は単に女性従業員の満足度を高めるだけでなく、企業全体の生産性向上にもつながります。働きやすい環境を提供することで、従業員のエンゲージメントが向上し、長期的な人材定着率の改善にも寄与するでしょう。
<法改正が企業経営にもたらす影響>
女性活躍推進法の改正は、企業経営に多大な影響を与えるものですが、それは必ずしも負担にとどまるものではありません。この改正によって得られる最大のメリットの一つは、企業の透明性向上と信頼性の向上です。たとえば、女性管理職比率や男女の賃金格差に関するデータを公開することで、社会や求職者からの信頼が高まり、採用活動の競争力が強化される可能性があります。
さらに、データの収集・分析を通じて自社の現状を把握することができるため、これを経営改善の機会として活用することが可能です。たとえば、女性管理職比率が低い企業では、昇進プロセスや研修制度を見直すことでキャリアアップの道を広げることができます。また、賃金格差がある場合には、職務評価制度の改善や賃金構造の見直しを進めることで、組織全体の公正性を高めることができます。
<競争優位性を活かすための戦略>
法改正への対応を競争優位性に変えるためには、他社に先駆けて取り組みを進めることが重要です。こうした積極的な姿勢は、業界内でのリーダーシップを発揮する絶好の機会となります。たとえば、自社の女性管理職比率や賃金格差の改善成果を広報活動や採用ページで積極的にアピールすることで、求職者や取引先に対して好印象を与えることができます。
さらに、女性活躍推進に関連する助成金を活用することで、新たな取り組みにかかるコストを軽減することも可能です。たとえば、女性管理職の育成プログラムやフレックスタイム制度の導入に対して、助成金を申請することで、負担を軽減しながら効果的な改革を実現することができます。
<持続可能な経営への転換>
今回の改正は、単なる規制の強化ではなく、持続可能な経営モデルを構築するためのチャンスです。女性管理職の登用や賃金格差是正を通じて、企業文化が活性化し、イノベーションが促進されるでしょう。さらに、多様性を受け入れる文化が浸透することで、社会全体のジェンダー平等推進にも貢献することができます。
<変化をチャンスに、未来へ>
女性活躍推進法の改正は、企業にとって新たな課題を伴いますが、それ以上に大きな可能性を秘めています。この法改正をチャンスと捉え、経営戦略に組み込むことで、企業は持続可能な成長を遂げることができるでしょう。変化に積極的に対応し、女性活躍を推進する企業が増えることで、日本社会全体がより多様性に富んだ持続可能な未来へと進化することを期待しています。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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