中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第49回

給与のデジタル払いの導入とその背景

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

1. はじめに

デジタル給与払いとは、従業員が給与を銀行口座ではなく、デジタルウォレットや電子マネーを通じて受け取る新しい支払い方法です。日本では長らく現金支払いが一般的でしたが、近年、テクノロジーの進化やキャッシュレス社会の拡大とともに、給与のデジタル払いが注目されています。この新しい動きの先駆けとなるのが、2024年8月に開始されたPayPayの「PayPay給与受取」サービスです。このサービスにより、給与が直接デジタルウォレットに振り込まれ、従業員が即座に給与を確認し、利用できるようになりました。

2. デジタル給与払いの概要

デジタル給与払いは、給与を直接デジタルウォレットに入金することで、従業員が即座にその給与を利用できる仕組みです。これは、従来の銀行振込や現金払いに代わる新しい方法で、給与の管理や使用がより柔軟になります。2024年8月にPayPayが開始した「PayPay給与受取」サービスは、日本国内でのデジタル給与払いの初の大規模導入の例となっています。

このサービスは、まずソフトバンクグループ内の10社の従業員を対象に試験的に導入され、年内にはさらに多くの企業に広がる予定です。従業員は、PayPayアプリを使って給与をリアルタイムで確認し、デジタルウォレットに直接受け取ることができます。このシステムにより、従業員はいつでもどこでも給与を確認し、必要なときに即座に利用できるという利便性が提供されます。

3. デジタル給与払いのメリット

デジタル給与払いには、企業と従業員の双方にとってさまざまなメリットがあります。

利便性の向上: 従業員にとって、デジタル給与払いの最大のメリットはその利便性です。給与がデジタルウォレットに直接振り込まれるため、従業員はいつでも給与を確認でき、必要に応じて即座に使用できます。これにより、給与が遅れる心配がなく、生活の安定性が向上します。特に支払いのタイミングが柔軟であるため、従業員は突然の出費や緊急事態にも迅速に対応できます。

コスト削減と効率化: 企業にとってもデジタル給与払いは多くのメリットをもたらします。まず、銀行振込にかかる手数料を削減できるため、コスト削減につながります。また、従来の給与支払いに伴う事務作業が軽減され、給与管理の効率化が図れます。給与のデジタル化により、ペーパーレス化が進み、業務のスピードも向上するため、全体の運営効率が改善されるでしょう。

銀行口座を持たない従業員への対応: さらに、デジタル給与払いは銀行口座を持たない従業員にとっても大きな利便性を提供します。特に外国人労働者や若年層など、銀行口座を持たない層にとっては、デジタルウォレットを利用することで給与をスムーズに受け取ることができ、生活の利便性が大幅に向上します。銀行口座を開設する手間が省けるため、時間とコストの両方で利点があります。

給与の管理が容易に: デジタル給与払いは、給与の管理をより簡単にします。従業員は給与をデジタルウォレット内で一目で確認でき、支出の管理もアプリ内で行えます。これにより、支出の記録や予算管理が簡素化され、個々の財務管理の向上につながります。

環境への配慮: デジタル給与払いは、環境への影響も軽減します。ペーパーレスであるため、紙の使用量が削減され、環境負荷の低減に貢献します。企業はこれをもって、環境に優しいビジネス慣行を推進する一助とすることができ、持続可能な企業活動の一環として評価される可能性があります。

4. デジタル給与払いの普及への期待

デジタル給与払いはまだ始まったばかりですが、その可能性と利便性から、多くの企業が注目しています。特に若年層やテクノロジーに敏感な層にとっては、デジタル給与払いが新しい標準となる可能性があります。また、外国人労働者や銀行口座を持たない従業員にとっても、給与を受け取る手段が増えることは歓迎されるでしょう。

PayPayの「PayPay給与受取」サービスの導入が成功すれば、他の企業や業界にも波及効果をもたらし、日本全体でのデジタル給与払いの普及が進む可能性があります。これにより、企業の運営効率が向上し、従業員の利便性が高まるだけでなく、給与支払いの透明性も向上し、労使間の信頼関係が強化されるでしょう。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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