第55回
中小企業が賃金制度を考えるときに知っておきたい基本ポイント
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
<賃金制度をきちんと考えることの大切さ>
中小企業にとって、従業員への賃金をどう決めるかは、企業を安定させ、長く発展させるためにとても大切です。賃金は従業員の生活に直接関わるものですし、会社の利益にも影響を与えます。そこで、法律を守りながら、会社が無理せず支払える範囲で、さらに他社とのバランスも考えた賃金制度を作ることが必要になります。
最近では、最低賃金が毎年引き上げられており、政府は2030年代半ばまでに最低賃金を1500円にする方針を示しています。これにより、中小企業にとっては人件費の負担が増えることが予想されます。そのため、早い段階で賃金制度を整備し、将来的な負担に備えることが大切です。
<賃金制度を考えるための3つの視点>
賃金制度を設計する際には、3つの重要な視点があります。それぞれの視点をバランスよく取り入れることで、従業員の生活を守りながら、会社にとって持続可能な賃金制度を作ることができます。
1. 標準生計費の視点
最初に考えるべきは、従業員が最低限の生活を送れるようにするための賃金水準です。これは、従業員が安定した生活を維持するために必要な費用、すなわち標準生計費を基準にします。最低賃金を守ることはもちろん重要ですが、それだけでは十分でない場合もあります。標準生計費をベースに、従業員が安心して生活を送れる賃金水準を設定することが、企業の社会的責任としても求められています。
2. 会社の支払い能力の視点
次に考慮すべきなのは、会社の支払い能力です。会社には限られた財源があり、無理に高い賃金を設定すると経営が圧迫され、将来的な発展に悪影響を与える可能性があります。そのため、会社が持続可能な範囲で支払える最大限の賃金を設定することが必要です。この視点を取り入れることで、企業は無理のない範囲で従業員を支えながら、健全な経営を維持できます。
3. 業種や市場水準の視点
最後に、世間相場や市場の賃金水準も考慮に入れなければなりません。同業他社や同地域の賃金水準と比較して、自社の賃金が大きく低い場合、優秀な人材が流出してしまう可能性があります。逆に、業界や地域の相場に見合った賃金水準を設定することで、競争力のある賃金制度を構築し、従業員の満足度と定着率を高めることができます。
<人件費の総額を管理することがカギ>
賃金制度を作るときは、まず会社全体でどれくらいの人件費を払う余裕があるかを把握することが重要です。売上や利益に対して、どれくらいの割合が人件費に回せるかを計算し、その範囲内で賃金を決めていきます。
また、会社の業績に応じてボーナスやインセンティブ(成果に応じた報酬)を導入することで、会社の利益が良いときは従業員に還元し、逆に厳しい時は固定の人件費を抑えることができます。これにより、会社の負担を柔軟に調整することができます。
<業界や地域の賃金水準と比較する方法>
自社の賃金を考えるときに、他の会社の賃金水準を知っておくことはとても大切です。いくつかの方法があります。
まず、公的な機関が提供している賃金データを活用することができます。例えば、厚生労働省や国税庁が毎年発表している賃金に関する調査データです。これにより、同じ業界や地域での賃金の目安を知ることができます。
また、求人サイトや転職エージェントのデータを参考にするのも有効です。これらのサイトには最新の求人情報が載っており、実際にどのくらいの賃金が提示されているかを見ることができます。
<実際に賃金制度を作るステップ>
賃金制度を作る際の具体的なステップとして、まずは職務ごとの賃金の範囲を決めることが必要です。それぞれの職務の重要度や責任に応じて、最低賃金と最高賃金の範囲を決めていきます。これにより、公平な賃金制度を作ることができます。
次に、昇給やキャリアアップの仕組みを明確にすることも大事です。従業員が将来どのように賃金が上がっていくのかがわかることで、安心して働ける環境が整います。
さらに、業績に応じた報酬を加えることで、従業員のやる気を引き出し、会社全体の業績向上にもつなげることができます。
<柔軟に見直しながら持続可能な賃金制度を>
賃金制度は一度作ったら終わりではなく、定期的に見直すことが必要です。経済状況や会社の業績が変わる中で、賃金制度もそれに合わせて調整することで、会社と従業員の両方にとってメリットのある制度を作ることができます。
また、賃金だけでなく、福利厚生や非金銭的な報酬(例えば社員研修や健康管理のサポートなど)も取り入れることで、従業員の生活を支え、満足度を高めることができます。
<結論: 長く続けられる賃金制度を目指して>
賃金制度を作る際には、短期的な視点だけでなく、長期的な視野で考えることが大切です。今後の最低賃金の上昇や、経済状況の変化を見据えた制度設計が、会社の成長と従業員の生活の両立を実現するために必要です。定期的に制度を見直し、柔軟に対応できる仕組みを持つことで、企業の競争力を維持しながら、従業員にも安心して働いてもらえる環境を提供できるようになります。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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