中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第24回

4月からの法改正によって労務管理はどう変わる?

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

前回のコラムでは、2024年4月1日より労働基準法が改正となり、労働契約の締結時・更新時の労働条件明示事項に新しい項目が追加されることをお伝えしました。改正により追加される明示項目は以下の4点です。

(1)就業場所および担当業務に関する変更範囲の明示

(2)更新上限の明示

(3)無期転換申込機会の明示

(4)無期転換後の労働条件の明示


(1)は正社員を含むすべての労働者が対象になりますが、それ以外はパート社員など有期契約労働者に関するものです。今回の法改正の目的は、労働契約の内容を明確にして、きちんと説明をするということです。特に、パート社員などのいわゆる非正規雇用の労働者については、契約内容が曖昧なケースが多く、それが原因でトラブルに発展することも少なくありません。


たとえば、「年収の壁」の問題です。パート社員で働く従業員は、以下の条件を満たした場合には、社会保険(健康保険と厚生年金)に加入しなければなりません。

・1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の間

・所定内賃金が基本給と諸手当を合わせて月に8.8万円以上(残業代・賞与などは除く)

・2ヶ月以上の雇用見込みがある

・学生以外(休学中や夜間学生は加入対象)


上記の条件を満たしていると、必ず社会保険に加入しなければならなくなります。健康保険法第48条では、適用範囲の事業主は、社会保険の資格を取得した従業員の届け出をしなければならないと定められているためです。さらに健康保険法第208条では、届け出をしなかった場合は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるとされています。

そこで、毎年年末が近くなると、パート社員が社会保険への加入(保険料負担)を避けるために就業調整をしてしまうという現象が起きています。そうなると、企業としてはパート社員の仕事を補うために、正社員に残業をさせざるを得ないというケースも少なくありません。

しかし、これは労働契約の問題として考えた場合には、おかしな話なのです。本来であれば、1ヵ月に何時間働くのか(所定労働時間)というは、契約の内容として決まっているはずだからです。もし、社会保険に加入したくないのであれば、社会保険の加入条件から外れておく必要があります。つまり、2ヶ月雇用される見込みがある場合には、1週間の労働時間を20時間未満にするか、月収を8.8万円未満におさえて労働契約を結ぶということです。そうすれば、社会保険は適用されません。


このように、労働契約の内容を明確にして、労働者にきちんと説明をするということは、契約期間や仕事内容、勤務場所のことだけでなく、労働時間や社会保険の加入などに関しても、労使双方で合意をするということになるのです。

しかも、社会保険制度の改正により、2024年10月から社会保険の適用範囲はさらに広がります。これまでは従業員数が101人以上の会社で勤めている場合でしたが、10月からは従業員数が51人以上の会社も対象範囲となります。これまで「年収の壁」問題とは無縁だと思っていた企業であっても、4月の法改正を契機にパート社員との契約内容をきちんと明確にしなければなりません。


なお、この問題に対応する中小企業への支援策として、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出しております。この支援策の内容については、次号のコラムでご紹介をさせていただきます。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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