第5回
起業のラストワンマイルに応える オフィスエムがコンサル開始
イノベーションズアイ編集局 編集局長 松岡健夫
SBI損害保険前社長の五十嵐正明氏が同社秘書と共同で2024年7月に立ち上げたオフィスエムが好発進、早くも中核事業に据えるコンサルティングを始めるという第2ステージに突入した。YouTubeで経営者に対し企業成長のヒントを与えるコンテンツ(写真)の配信も始めた。
五十嵐氏は「設立時に手掛けた飲食・アパレル事業が軌道に乗ったので、昨秋からビジネスサポートを始めた。スタートアップの成長支援、起業家育成というコンサル事業に軸足を移す」と話した。
変化の早さに驚かされるが、有言実行の五十嵐氏にとって設立当初に描いた計画通りに進捗しているのだろう。
どういうことか。こう尋ねると「コンサルとしてビジネスのイロハを語るには口先だけの理論ではだめだ。自ら創出したビジネスモデルを実践することでリアリティーが増し、説得力も高まる。起業のヒントになる」と返ってきた。
設立時に参入したのが飲食・アパレル事業だった。保険ビジネスしか知らない共同代表の2人にとって未知の分野だが、五十嵐氏は「自分たちも1人の起業家としてチャレンジすることで、成功モデルを示したかった」という。
五十嵐氏が担う飲食事業はキューバサンドイッチ(店舗名・Ocean Drive)から始まり、チャーハン(蔵前情熱炒飯)、韓国スイーツ(リプレシカフェ)、デリカテッセン(Deli kitchen50-DISHes)、クレープ(recreation crepe)と矢継ぎ早にオープン。
いずれもデリバリーに特化し、料理をつくるだけのゴーストキッチンを東京・蔵前に設けた。店舗を置かないうえ、4人のシェフが交代ですべての調理に当たる。どの料理もシンプルでレシピは出来上がっている。食材も例えばサンドイッチの肉を炒飯にも使うなどして効率化しフードロスを防ぐ。
五十嵐氏は「低い初期コスト、少ない資本、サステナブルな食材利用が可能なビジネスモデルを築けた。キッチンは1つなので店舗を増やせばコスパ(コストパフォーマンス)はより高まる」と断言する。
この間に、秘書だったもう一人の共同代表が担当するアパレル事業も順調に推移。オンライン販売に特化したヴィンテージショップ「古着屋 circle」に続き、その姉妹店となる「古着屋 circle outlet」をECプラットフォーム「メルカリ Shops」内にオープンした。こちらも店舗を置かないので、10~20代のZ世代に人気のストリート系カジュアルウエアを仕入れて販売すれば利益がでる仕組みを取り入れた。
五十嵐氏がSBI損保社長など経営者として培った成功体験に加え、チャレンジャーの立場で始めた飲食・アパレル事業を通じて創業から事業継続に必要なビジネスノウハウを習得したことで、独自アイデア・技術をもとに起業を目指す人たちの背中を押せると判断した。
その第1弾として24年10月、若手ビジネスマン向けオンラインビジネスサロン「Last One Mile Club(ラストワンマイル倶楽部)」を開設した。起業家支援事業の一環で、会員向けに起業に必要な情報提供やコンテンツを配信していく。
五十嵐氏は「ラストワンマイルという言葉を大事にしている」という。それをサロン名にしたことで、「起業したい」「新規事業を立ち上げたい」が、あと一歩足りずに実現できない起業家、経営者をサポートするとの強い決意を感じる。事業計画が練り切れていない、資金が足りない、人脈が欲しい、赤字から抜け出せないといった悩みに応える。
ただ五十嵐氏は財務や法律などの専門家ではない。それは本人も自覚している。「われわれは士業ではないので専門家としてスキルを提供できるわけではない。ただ経営のプロとして全体を俯瞰し把握できる、いわば管制官だ。営業や財務、法律など必要な知識、経験を積んできた。プロ専門家との人脈もあるので適任者を紹介できる」と強調。「どんな課題でも解決に向けて動ける」のが強みという。
ビジネス交流会も月1回のペースで始めた。参加者を増やしながらネットワーク化し、将来はセミナーのほか、徹底的にマネジメントを学ぶ経営塾につなげる考えだ。
コンサル事業もスタート。同年12月から経営者向けYouTubeチャンネル「業績アップTV」を配信。経営ノウハウやマネジメント論などをテーマに、経営者として実績を上げてきた五十嵐氏の思いや経験を織り交ぜながら、有益で実践的な内容を発信していく。視聴者をビジネスサロンに誘導する狙いもある。
毎週5本(火・水曜日を除く)配信しており「制作チームから『覚悟はできているか』『途中でギブアップは絶対に許されない』と発破をかけられた」と苦笑する。コンサル事業を展開する上で欠かせないコンテンツと言えるだけに力も入る。
五十嵐氏は「やることが多くて毎日バタバタしている。話すことも多いので喉がかれるほどだが、起業・独立したので居心地の良いリズムで仕事を進めていく」と気負いはない。その上で「私1人だと仕事に詰まることもある。しかし1人ではできなくても2人ではできることもある」と共同経営のメリットを生かしながらチャンレジャーを貫く。起業家の伴奏者としての知名度を上げ、立ち上げたオフィスエムの持続的な成長に挑む。
プロフィール
イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫
大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。
同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。
著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。
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