微分・積分・思う存分

第3回

「温故知創」掲げサステナブル社会づくりに貢献 ニューズドテック

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

ベンチャー精神を持ち続ける企業が好きだ。創業時に思い描いた志を忘れることなく追いかける経営姿勢は必ず、イノベーションを起こすと信じているからだ。成長戦略を描き切れない日本経済の起爆剤になると期待する。

とはいえ、練りに練って創り上げた独自のビジネスモデルを引っ提げて創業しても若さゆえ、失敗と背中合わせだろう。「経営は航海の如し」と言われるが、出航しても常に順風に恵まれるわけでない。思わぬ逆風に煽られたり、突風や横風に見舞われたりすることもあろう。風の強さや方向を見誤れば転覆の危険にさらされる。それでも創業時に自ら掲げた旗を降ろさずに進む。夢を託した事業が認められるという信念を持ち、情熱を持って取り組むチャレンジャーは頼もしい。

「温故知創」―。スマートフォンやタブレットの販売・レンタル事業を手掛けるニューズドテックが新たなステージに挑む気構えを示すために掲げたミッションだ。

同社は12月23日に、本社を東京・神保町から、アートの街・京橋に完成したばかりの高層複合ビル「TODA BUILDING」に移転。これを好機と捉え、この4文字に「歴史から知識や伝統を学び、新たなアイデアや考え、技術で社会を創造する」経営姿勢を託した。

すなわち、スマートフォン・タブレット端末を「長期・継続的に安心して使う」文化を浸透させ、無駄をなくし環境負荷を抑えるという持続可能(サステナブル)な社会づくりに貢献する企業をアピールする狙いだ。

ベンチャー精神溢れる同社を率いる創業社長の粟津浜一氏とは縁あって、このところ1カ月に一度のペースで会っている。にもかかわらず毎回、話題が尽きず、あっという間に1時間超が経ってしまう。常に問題意識を持ち、解決策を探っているからで「どう思いますか」と問いかけてくる。こちらも「少しでも経営のヒントになればいい」と思い、ない知恵を精一杯絞りだす。

粟津氏は自らを「テクノロジーに精通したビジョン型経営者で、クリティカルシンキング(批判的思考=物事の本質を見極め、論理的・客観的に理解する)での事業構想が得意」と評する。「温故知創」も、新たなステージのビジネスモデルを象徴するにふさわしい言葉を探す中で出てきた。

創業は09年。「モバイルによって起きる不便をなくす」というミッションを掲げ、業界初、世界初の事業・サービスを立ち上げてきた。その姿勢は変わらず、ビジネスモデルの進化を目指して22年春にそれまでの「携帯市場」から現社名に変更。中古スマホの売買のみのデルからの脱却を決意、テクノロジーを使ってスマホを長く使ってもらうサステナブル端末の販売・レンタルに舵を切った。

社名通り、テクノロジーでニューズド(新品のような中古)を提供する事業に力を注ぐ。ただ単に、新品のような中古端末という商品特性だけでなく、端末を長く使うことでサステナブル社会に貢献するという意思を表した。

そのために23年には業界初のスマホの健康診断アプリ「トリスマ」を開発。端末の内部状態を把握できる機能を備えており、不具合が見つかるとアプリ上で交換手続きを行うことできる。「中古はいつ壊れるか分からない」「動作に不安がある」「バッテリーの劣化が早い」といった消費者の中古に対する不安や不便を解消した。

24年夏には端末の利用時間で支払う端末料金が変わる従量課金制を世界で初めて取り入れた。「端末料金を削減したい」という法人からの要求に応えた。さらに端末の一元管理や故障対応といった管理者の悩み事を解決する「トリスマ管理システム」を付加し、法人を対象に7月から「マンスリースマホ」の提供を開始。10月末時点で20社強と契約し4300台以上の中古端末を貸し出している。12月から個人向けの「マンスリースタブレット」を始めた。

25年夏にはこれらの性能・機能をアップグレードさせた最終系ともいえる商品を投入する。スマホの保守サポートを強化し、新品、中古を問わず一つのスマホを同じ人が長く使い続けたり、同じスマホを所有者が変わっても使えたりとサステナブル性を高める。

そのために端末の基幹機能診断、バッテリー劣化診断、利用時間測定を行う現行のトリスマにモニタリング(自動診断)機能を追加する。さらにバッテリー残量や落下時の衝撃、水没による被害状況などをセンサーで計測して寿命を予測する「トリスマIoT」と融合。所有者に最適な買い替え・売却時期を知らせ、代わりに中古スマホへの不安を解消したサステナブル端末を提供する。

日本には「長く、大切に使う」という文化がある。近年では消費者もESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)への関心が高く、良いものを「安く、長く」に加え、「安心して」使いたいというニーズが高まっている。これに応えるのがサステナブル端末という位置付けだ。

粟津氏はこうしたプランを説明したうえで「これで終わりではない」という。どうやら次の一手に向けて動き出したようだ。進化が止まらないのは、ビジョン型経営を志向する粟津氏の面目躍如といったところか。スピード感をもって行動できるのも魅力だ。

京橋の新本社の受付に「温故知創」と墨で書かれた木材看板を掲げるという。「優秀な経営者は夢や思いを語り、そうでない経営者は経営数字ばかり語る」「経営者は、自分は何をしたいか(企業理念、家訓)を身近な人たちに分かるように伝える必要がある」といわれる。粟津氏の思いが詰まった4文字は、社員はもちろん、訪問客の目にも留まる。企業ブランドの認知と価値向上をもたらすのは間違いない。先が楽しみでならない。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫

大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。

同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。

著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。

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