現場発「ものづくりイノベーション」最前線

第5回

子どもと大人の創造力を刺激する実力派の「キッズ向け3Dプリンター」が登場!

イノベーションズアイ編集局  ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

 

購入型クラウドファンディングサービス「Makuake」で、国内では前例のないキッズ向け3Dプリンター「Kidoodle(キッドゥードゥル) Kids 3Dプリンター(型式:Kidoodle MiniBox A1)」の先行販売が行われている。プロジェクトの主催者は、「熱狂的に支持されるブランディングを各自実践して、メイド・イン・ジャパンを再定義する!」という経営方針を掲げる製品設計会社・スワニー(本社・長野県伊那市)だ。

9月16日のプロジェクト終了を前に、すでに目標金額を大きく上回る約290万円の応援購入があり、サポーター(応援購入者)も100人に達した(9月3日現在)。子どもはもちろんDIYなどを楽しみたい大人、設計者やエンジニアにとっても魅力的な同プリンターの魅力と実力を、実機および造形物(モデル)の写真を交えて紹介していく。

子どもが1人でも安全・手軽にゲーム感覚で楽しめる3Dプリンター

「Kidoodle(キッドゥードゥル) Kids 3Dプリンター」は、パソコンやスマートフォンによる面倒な操作は不要。本体のカラータッチパネルを操作し、プリセットされている2000以上の造形データから好きなものを選択することで、子ども(対象年齢6歳以上)でも3Dプリンター初心者の大人でも、手軽に3D造形を始めることができる。

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」は縦312×横312×高さ352mmと手頃なサイズで、安全に配慮したチャイルドロック機能、チャイルドセーフ構造を採用。安全なプリント材料で手軽に3D造形を始めることができる

スマートフォン用の専用アプリを使って、プリントしたい3Dデータを選択することも可能。後述するように、USB接続またはUSBメモリ経由で、PCで作成した3Dデータを取り込みプリントすることもできる。

本体に装着されているカラータッチパネルの画面サイズは縦約60×横約110mmで、解像度が縦480×横854ピクセルと見やすく、日本語表示に対応している。

六角ねじとボルトを造形しているところ。選択したねじの画像がパネル画面に現れてプリントがスタートし、アニメーションで途中経過が表示される。造形開始から15分43秒が経過し、全体の約53%(全139レイヤー〈層〉中の74レイヤー)まで造形が進んでいることがわかる

プリント材料には、植物由来で安全性の高い生分解性プラスチック材料であるPLA(ポリ乳酸)樹脂を使用した。

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」のプリント方法はFDM(熱溶融積層法)。材料のPLA樹脂を糸状にした「フィラメント」に熱を加えて溶かし、ヘッドから射出しながら薄い層を作り、それをパイ生地のように重ねていくことで立体を造形するわけだ。

子どもが1人でも安心して遊べる製品であるだけに、安全性にはとくに配慮した。たとえばプリント中に子どもが扉を誤って開いた場合、アラート表示とともに警告音が鳴り、自動的に造形が停止し、ヘッド温度を下げて手が触れにくい位置まで移動する(チャイルドロック機能)。蓋を閉じて簡単な復帰動作を行えば、中断されていた造形が再開される。

子どもたちが高温になったプリンター部品や造形物、加えて可動部に触れられないようにして思わぬケガや事故を防ぐ、チャイルドセーフ構造が採用されている。

実機に触れてみると、機器のサイズに見合った適度な重量(2.5kg)があって重心も低く、安定感がある。機器内部の部品もしっかり組み付けられているので、ノズル廻りなどの可動部の狂いが少なく、位置合わせも簡単にできるようにしているとのことだ。

では、「Kidoodle Kids 3Dプリンター」を使って、実際にどんなものが作れるのだろうか。造形物の写真を見ていただきたい。

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」で作れる造形物のサイズは最大縦100×横100×高さ90mm。昆虫や動物、車、数字や文字から知育玩具のようなものまで多種多様。プリント材料のフィラメントには多数のカラーバリエーションがあり、出荷時に任意の8色(色指定不可)を選定してサポーターに届けられる。上記写真のようにカラフルな造形が可能だ。

造形精度(寸法精度や表面精度)は工業用の3Dプリンター並みとまではいかないだろうが、下記写真のように動物の顔の表情もしっかり表現されている。ホームユースで子どもが1人で、あるいは親子で一緒に3D造形を楽しむには十分ではないだろうか。

先に記したように「Makuake」の同プロジェクトは9月16日に終了し、応援購入したサポーターに製品が届くのは10月初旬になる予定だ。スワニーは製造元であるKidoodle Technology社の日本総代理店として、国内の応援購入者に製品を供給し、サポート対応も行う。

プロジェクトのリターンは、「Kidoodle MiniBox A1」1台に専用フィラメント250g×8本セット(フィラメントカラーは8色で色指定不可)が付属するスターターキットが、プロジェクト期間内に適用される早割価格で4万9350円(税込)。その他のリターンのバリエーションについてはプロジェクトページ(https://www.makuake.com/project/kidoodle/)を参照してほしい。

100×100×90mmの造形エリアから育まれる創造力

「Kidoodle 3Dプリンターは、創造性の扉を開く鍵です。子どもたちの想像力を二次元の平面から解き放ち、触れることのできる3Dオブジェクトに変え、探求と実践を通して成長する機会を提供します」

Makuakeのプロジェクトページにはこう記されている。

「子どもたちの想像力を二次元の平面から解き放」つとはどういうことか。

たとえば子どもたち(大人も同様)の頭の中に、あるイメージが浮かんだとする。そのイメージ自体が2次元で、それを絵やイラストとして描いても、2次元の平面の世界で表現していることに変わりはない。

だが3Dプリンターなら、子どもたちが思い描いた2次元のイメージを、3次元の立体として実際の形にすることができる。これが「子どもたちの想像力を二次元の平面から解き放」つということだ

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」に内蔵されている2000以上の3Dデータも、パネル画面では2次元の絵として見えるが、それが3次元の形として出力されるのだ。絵で見た動物や恐竜、車などが立体の造形物になり、実際に手に取って遊べるということだけでも、子どもたちにとっては大きな衝撃であるはずだ。

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」で使える3Dデータは随時追加されており、ネットワーク経由(本体にWi-Fi接続機能を搭載)でダウンロードすることが可能だ。

昆虫が好きな子どもなら、蝶を3Dプリントして遊んでいるうちに、別の昆虫を出力してみたいと思うだろう。スワニーCMO(最高マーケティング責任者)の吉澤文氏は「『オニヤンマをプリントすることはできますか?』という問合せがあった」と話す。

プリンターメーカーのKidoodle Technology社には、モデリング専門チームがある。そこで吉澤氏は早速、同チームにオニヤンマの写真を添えて、3Dデータの作成ができるか問合せを行った。

1つのモデル(造形物)をプリントしたら、別のモデルをプリントしたくなる。そしてそのうちに、「こんなものがあったらいいのではないか」、「ここをこうしたらもっと可愛くなるのではないか」、「こうすればもっと格好よくなるのではないか」と思い始める。そうやって3D造形を数多く経験していく中で、子どもたちの創造力が育まれていくのだ。

「『1人でできた』という成功体験は大事です。でも1人でやっているだけでは、いずれ楽しさも半減します。オンラインゲームなら、仲間がいるから一緒に対戦したり成果を共有することで、もっと楽します。でも家庭では、お父さんもお母さんもスマホをずっといじっていて、家族で(成功体験からくる喜びや楽しさを)共有できる場が少なくなっています」とスワニー代表取締役CEOの橋爪良博氏は話す。

あなたが大人なら、自分が子どもの頃を思い出してほしい。たとえばあなたが工作をしているときに、家族がやってきて「ここはこうしたらいいんじゃないか」と口を出し、手も出すということがあったかもしれない。

「僕の場合は、プラモデルを作っているときに祖父がやってきて、ああでもない、こうでもないといいながらニッパーやヤスリを持ち出して、お節介を焼いていたものでした。やっと完成したプラモデルを祖父に見せると『おお、すごいのができたなあ』と褒めてくれたんです。自分の手に持っているプラモデルのボリューム感や質感をかみしめながら、承認欲求を得ることができました。だから面白いと感じられたんだと思います」(橋爪氏)

著者が子どもの頃には当然、3Dプリンターなど存在しなかった。私は2人の娘の父親だが、もし息子がいたら、息子を差し置いて夢中になっていただろう。1つのモデルをプリントしたら別のものを作りたくなり、どんどん創意工夫をしたくなる。子どもは大人よりもっと素直に、創造力をかき立てられるに違いない。

親子で、自分たちが作った造形物のここがいい、ここがすごい、もっとこうしたらいいんじゃないかといい合い、話がはずむだろう。大人も子どもも一緒に夢中になれる、これまでにないツールだからこそ、非常に意義がある。

そうやって、家庭内に「創造力を共有する場」ができていくのは素晴らしいことだ。

設計担当者やエンジニアもデスクに1台置きたくなる理由

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」の実機による造形の様子を見ていて、気づいたことがある。思ったより造形のスピードが速いのだ。造形速度はカタログ値で、600mm/秒の高速プリントが可能とある。

実際、先に写真を掲載したタッチパネル画面に表示されている六角ねじ(M12-20、全長28mm)の造形の途中経過を見ると、15分43秒が経過した時点で、全130レイヤー(層)のうち74レイヤーの造形ができていた。ということは、そこから逆算すれば、ねじの造形にかかるトータルの時間は27分37秒程度だということになる。

しかも「Kidoodle Kids 3Dプリンター」は、3DCADの標準的なデータ形式であるSTLに対応している。たとえばAutodesk社の「Fusion360」などの他社製3DCADソフトウェアで作成した3DデータをSTL形式で書き出し、スライスソフトウェア(「Kidoodle Slicer」、「Cura」に対応)で3Dプリンターの言語形式に変換する。そのデータをUSB接続またはUSBメモリ経由で取り込めば、「Kidoodle Kids 3Dプリンター」で造形することが可能だ。

加えて、先に述べたように「Kidoodle Kids 3Dプリンター」の造形エリアは100×100×90mmだった。キッズ向けという位置づけではあるが、そうなると製造業の現場でも、ちょっとした部品や治工具、整理箱などの小物を、必要なときにサッと作ることができるのではないかと期待してしまう。

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」で、ちょっとした部品などを作ることもできそうだ。

「これは僕のデスクに置いてもいいなと思いました」と、スワニーCIO(最高情報責任者)の土橋美博氏は話す。

土橋氏は機械装置業界で長く設計に携わり、今年4月にスワニーに入社したばかりだ。1人の設計者として見ても、「Kidoodle Kids 3Dプリンター」が魅力的に映るという。

「子ども向け(の入門機種)で(3Dデータをタッチパネルで選択し)ポンとボタンを押せば、すぐに造形できるのは、とてもいいことです。でも僕が注目したのは、『Kidoodle Kids 3Dプリンター』は、意外と軽快に造形ができるということでした。

自分が(設計をしていて)ああでもない、こうでもないと悩んでいるときに、(このプリンターを使い、自分の設計通りでいけるかどうかを検証するために)サッと作ってみればいいじゃないかという感覚です。精度が求められるものなら、別途その精度を出せる機械で作ればいいわけですから」

これは3Dプリンター全般にいえることだが、「造形精度がまだまだで、うちでは使えない」と、導入に二の足を踏む企業ユーザーが多いのも事実だ。だが前出の吉澤CMOが指摘するように、「Kidoodle Kids 3Dプリンター」は「生産機ではなくて、あくまでアイデアを具現化するためのツール」なのだ。

ふと思いついたときに、頭に浮かんだアイデアを3次元の形としてプリントできることのメリットは、製造業に限らず多くの業種業界で恩恵をもたらすはずだ。

「ここがいけない、これができない」ということより、「できることは何か」というメリットに着目することから広がる世界というものがある。

スライスソフトウェアで六角ねじの3D設計データをプレビューしながら、造形物のクオリティを向上させるための設定調整を行っている

「Kidoodle Kids 3Dプリンター」で造形したねじを締めてみる。雄ねじが雌ねじにムーズに入っていくように、設定調整を重ねている

日本の現状として、3Dプリンターが一時期大きな話題になり、誰もが3Dプリンターという言葉を知っているわりには普及が進んでいない。

実際、日本国内で3Dプリンターの販売が伸び悩んでいるといった、ビジネス上の機会損失も大きいのだろう。だがここでは、もっと大きな問題を指摘しなければならない。

今、世界では、3Dプリンターの技術革新が急速に進んでいる。製造業に限っても、そこから取り残され、最新の3Dプリンター技術にキャッチアップしていれば実現したかもしれない、自社の技術革新ができないでいることがあるのではないか。そのことによる機会損失のほうが、もっと深刻だと思われるのだ。

デジタルネイティブの若者たちが育つきっかけを作りたい

ところで、スワニーが、日本国内で前例のない「キッズ向け3Dプリンター」という新ジャンルを切り開こうとしていることには大きな理由がある。

スワニーは製品設計会社でありながら、プラスチック製品の設計・3Dモデリングから3D造形による試作・量産、自社開発の3Dプリント樹脂型「デジタルモールド」、射出成形によるプラスチック部品の試作・量産まで幅広い業務を手がけている。

こうした中で同社は、3Dプリンターも活用し、デジタルネイティブの若いエンジニアが最速で育ち、新材料による開発試作や難易度の高い部品開発、新構造のアイデア具現化などに誰もが挑戦できる「場」を作り上げてきた。その取り組みをふまえて、前出の橋爪CEOはこう話す。

「大人が(子どもに)押しつけるように『ものづくりは楽しいよ』というのではなく、子どもたちが自発的にものづくりを行い、成功体験を得ることを通して、(彼ら彼女たちが求めてやまない)承認欲求につなげてあげたいと思うのです。

『自分はこれを使ってこんなことをしたい』とか『もっとこんなことができるんじゃないか』という(好奇心やチャレンジ、創意工夫の中で育まれる)創造力を刺激するハードウェア寄りのデジタルツールが、まさに『Kidoodle Kids 3Dプリンター』でした」

今回はMakuakeプロジェクトとしての先行販売だが、スワニーは量産化への準備も着々と進めているという。キッズ向けの3Dプリンター普及の先に、デジタルネイティブの若者たちが創造性を存分に発揮して日本の製造業を支え、再定義していってくれる明るい未来を、橋爪社長は見ているのだろう。

スワニーはMakuakeプロジェクト終了後、教育機関との連携(3Dプリンターを教育プログラムに組み込むことを目指す)、親子で3Dプリンターを学べるワークショップおよびイベント、子どもたちから3D造形デザインのアイデアを募集し表彰を行うデザインコンテストやチャレンジを実施していくとのことだ。

「私たち大人が持っている昔の価値観を押しつけて、若者たちを『育てよう』と思ってはいけません。大人も、これからの時代を担うデジタルネイティブの若者たちと一緒に創造力を高めて共有し、『共に育つ』ことが、日本の製造業を支えていくうえでも重要です」という、橋爪CEOの思いは揺るぎない。

スワニーが仕掛けようとしているのは、子どもたちや若者たちだけではなく、大人たちも創造力をフルに発揮し、3Dプリンターを駆使して「アイデアを形にする」ことが普通に行われる日常を、創り出すことなのかもしれない。

左から、スワニー代表取締役CEOの橋爪良博氏、CTO(最高技術責任者)兼射出成形スペシャリストエンジニアの赤羽聡氏、吉澤文CMO(最高マーケティング責任者)

【「Kidoodle MiniBox A1」の主なスペック】

・筐体寸法:312×312×352mm
・造形エリア:100×100×90mm
・造形方法:FDM(熱溶解積層法)
・ノズル数:シングル
・ノズル加熱温度:190~250℃
・ノズル径:0.4mm
・レイヤー厚み:0.1~0.3mm
・対応データ形式:STL
・筐体重量:2.5kg
・スライスソフトウェア:Kidoodle Slicer、Cura
・対応フィラメント:PLAシリーズフィラメント
・機器色:日本仕様では筐体はホワイトのみ

 

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