井上達也の誰も言わないIT・DX裏の話

第8回

異常系を考えなければ本当のシステムは完成しない

株式会社フリーウェイジャパン  井上 達也

 

 先日スマホが壊れてしまいました。修理に持って行くと「フォーマットされ、データは全部消えますが良いですか」と言われました。データは二段階認証でちゃんとクラウド上に保管されています。なので新しいスマホを買いました。新しいスマホにデータを移動しハイ終了となるはずだったんですが....。

 クラウドにデータが保管されているサーバにID・PASSを入れるとメッセージが現れます。「前のスマホにワンタイムパスワードを送信しました」。そう言われても前のスマホはもう起動できませんからパスワードを見ることが出来ません。なにか方法はあるはずと思い、ソフト会社の社長でよくスマホが壊れる(夫婦喧嘩)友人に連絡しました。すると彼から返信が来ました。「あきらめが肝心」。前のスマホを二段階認証の相手にしてしまった事が悔やまれます。

 システムのテストを行う場合、正常系のテストと異常系のテストを行います。正常系テストは有効な入力データ(数字の欄には数字をいれるといったマニュアル通りの操作)に対してシステムを検証するテストです。異常系テストは無効な入力データ(数字の欄に文字をいれる。5桁の所に7桁いれる。普通やらない操作)を入れた場合の対処(エラー表示、入力できない等)で安定性を確保することです。先程のようなスマホが壊れた場合という異常系の事をスマホ会社はあまり考えていない気がします(ホントはわかっているんでしょうね。売るためなんでしょうけど)。

 

 さてここからが本題です。日本の政府が提唱するIT化はスピードを急ぐあまり正常系ばかりで、異常系が考えられていない気がします。例えばマイナンバーカードに保険証や免許証と統合したとしましょう。ではマイナンバーカードを紛失したらどうなるか。これが考えられていません。マイナンバーのサイトには紛失したら警察に届けるという事は詳しく書かれていますが、再発行の事は、ほとんど書かれていません。2024年現在、マイナンバーカードの再発行には約2ヶ月かかります。その間に車に乗る場合にはどうしたらよいのかは不明です。紛失した際に警察が免許証の代わりになる物を提供してくれるとは思えません。また自治体によっては、マイナンバーの発行時に本人確認するため顔写真付きの証明書が必要とされている地域もあります。もし高齢で免許証を返納してしまった場合、本人を証明するにはパスポートしかありません。

 また高齢者はすぐに保険証を紛失してしまいます。なので今は皆さんが使っているプラスチックのものではなく「紙」なのですが、果たしてこれもマイナンバーカードに統合されるのでしょうか。介護従事者は今から不安を訴えています。

 ソフトの開発の時、正常系のテストは比較的簡単に済むのですが、異常系のテストはその何倍も大変です。政府には異常系の出来事があった場合のことを考えてから様々なIT化を進めてもらいたいと思います。また我々も自分自身を守るために国の言う事を鵜呑みにせず、自分できちんと理解した上で判断すべきだと思います。


 

プロフィール

株式会社フリーウェイジャパン
代表取締役 井上 達也

株式会社フリーウェイジャパン代表取締役。クラウドシステムの会社としてユーザー数は34万社を超える。著書に「小さな会社の社長の戦い方」「起業を考えたら必ず読む本」などがある。


Webサイト:株式会社フリーウェイジャパン

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