第4回
デジタルインボイスの実際はこんな感じ
株式会社フリーウェイジャパン 井上 達也
「デジタルインボイスの行方」
2022年10月、ついにデジタルインボイスの国内仕様が発表された。これでデジタルインボイスが急加速するように見えたが、各ソフトメーカー、クラウドサービス会社は、完成日どころか仕様すら決まっていないというのが現実だ。
当初、デジタルインボイスは、電子インボイスと言われていたが、インボイスは電子データだけでなくQRインボイス等様々なデジタルデータもあるという事で名称が変更された。そのメインストリームが「Peppol」と呼ばれるデジタル庁が推進するデジタルインボイスだ。
本題の前に「Peppol」とはどんな仕組みかというと
1.請求者が「Peppolプロバイダ」に請求書を送り
2.プロバイダはPeppol登録情報(PEPPOL ID※)を元にして
3.支払者が契約している「Peppolプロバイダ」を通して
4.支払い者に送る仕組み
このように紙で請求書を送るのではなく電子データで送るため郵送や印刷の必要もなく、検索もしやすいとして多くの企業が注目した。発表当初は「Peppol」を国が管理しスタートすると見られていたが結局、民間企業が中心として行っていくということになり様々な問題が浮き彫りになってきた。
*Peppol
・利用料金の問題
利用料金は各企業が個別に負担するか、ソフト代金に含まれる形になる。つまり送信にはプロバイダ料金がかかるということになる(受信はプロバイダ事業者により異なる)。またメーカーは現在のシステムのデータを「Peppol変換事業者」へ送信しPeppolデータに変換後Peppolプロバイダに送るということになり、そのコストもかかることになる。編集部の取材では1通10円から15円程度という。さらに固定の基本料金が必要なメーカーもある。
整理すると
1.請求者が「Peppol変換業者」に送る
2.「Peppol変換業者」はデータを変換し
3.「Peppolプロバイダ」に送る
プロバイダはPeppol登録情報(PEPPOL ID)を元にして
4.支払者が契約している「Peppolプロバイダ」に送る
5.「Peppol変換業者」はデータを変換
6.支払い者に送る
ということになる。
・卵が先か鶏が先か問題
当たり前だがPeppolでデータを送信しても受信側がPeppolを受け取る仕組みがなければデータを受け取ることができない。開始当初Peppolの契約をしている企業はあまりないと考えられるのでPeppol導入企業へ国が補助金、助成金などの支援をする必要がある。
・大手企業の不在
既に大手企業では業界内でEDI(「電子データ交換」企業間における契約書や、受発注をはじめとした商取引に関する文書を専用回線や通信回線を用いてやり取りする仕組み)が既に出来上がっている。そのため「業界EDIがあるのにさらにPeppolを導入する予定はない」(大手企業担当者)と言う。大手企業がPeppolを導入しない限り、下請け企業もPeppol導入を見送るだろう。
他にも「PEPPOL ID」を誰が管理するのか、都度請求しかできない現在の仕様など乗り越えなければならない問題を抱えたたままスタートする事になりそうだ。
※PEPPOL ID
事業者の登録番号とその番号を発行した発番機関の登録番号のペアで構成される。送り手、受け手とも相手のこのIDを知り得て初めて送受信ができる。初めての取引先の場合、この番号情報を探すか連絡してもらう必要がある。
そんな現状を打破するために作られたのがQRインボイスだ。
*QRインボイス(https://eistandard.com/)
QRインボイスはJBMIA(一般社団法人 ビジネス機械・情報システム産業協会)という大手IT企業が参画する旧経済産業省系の団体。その中の「デジタルインボイス支援研究会(EIS)」が作成した。
QRコードを利用したインボイス規格である「QRインボイス」は、紙による領収書、見積書、請求書などアナログな取引書類の取引情報を、QR化し取引書類に印字して先方に渡す事により、正確かつ容易に紙媒体によるデジタルデータを運用する。これが作成された理由は、「PEPPOL 」が中小企業全ての取引を電子取引対応するには時間がかかるため。
・QRインボイスの仕組み
QRインボイスの仕組みは至ってシンプル。発行側はレシートや請求書の中からインボイスに関連するものをピックアップしQRコード化。これを受け取った側は会計ソフトや販売・仕入管理ソフトにデータを取り込む。スキャナで活字を読み取るOCRシステムとは違い、データの間違いはない。
このように便利なQRインボイスだが、レジメーカーやソフト会社の対応など「PEPPOL」同様に乗り越えなければならない障壁は多い。e-TAXのように国が主導し大号令をかけなければ、これらのデジタルインボイスが普及していくのは困難ではないだろうか。
プロフィール
株式会社フリーウェイジャパン
代表取締役 井上 達也
株式会社フリーウェイジャパン代表取締役。クラウドシステムの会社としてユーザー数は34万社を超える。著書に「小さな会社の社長の戦い方」「起業を考えたら必ず読む本」などがある。
Webサイト:株式会社フリーウェイジャパン