井上達也の誰も言わないIT・DX裏の話

第1回

フィンテックは既得権との闘い

株式会社フリーウェイジャパン  井上 達也

 
海外のニュースではフィンテック企業に数億ドルの投資が行われたとか、サイトで申し込めば数分で融資が実行された、など華々しい話題が多く聞かれますよね。でも日本ではスマホの料金が高すぎるとかショボい話しばかりです。 

ま、そのへんどうなっているのかというと...  

2019年5月に金融庁がフィンテック企業を集め、2020年5月までに金融機関と契約を結ぶことという通達を行ったんです(その後コロナの影響で11月までに延期)。

今までフィンテック企業は金融機関とは契約しないで、個人や企業からの承諾を得て通帳のデータを金融機関のサイトから取得していました。しかし金融庁は、そりゃダメだよ国内全部の金融機関と1年以内に契約しなさいとルールを作りました。

1年間で国内すべての金融機関と契約しなければならなくなったフィンテック企業ですが、金融庁からの指導もあり契約はスムーズに進むんじゃないかと楽観視していました。ところが金融機関から返ってきた言葉は塩対応。「月々の利用料を払わないとあんたとは契約しないよ」という厳しいお返事。

もし国内すべての金融機関に月額数十万円ずつ支払うとすると毎月数千万円のコスト負担となるわけで、特に家計簿ソフトみたいに無料が前提のフィンテックサービスはお金をお客さんからもらうこともできません。フィンテック企業は頭を抱えてしまいました。(各社により違いますが今は月額一千万円以下かな)

また銀行API(銀行と接続するためのシステム)の製作コストの問題もあります。金融庁は「各銀行ごとに作成する銀行APIの開発費用が二十数億円かかるんだけど、あんたたちフィンテック企業がみんなで払ってよね」。と言い出したのです。現在、十数社が支払いを決定しているので各社の負担は二億円程度だけど、この開発コストを回収できるかどうかは微妙な感じ。

あるメーカーは「海外では金融機関がお金を払ってフィンテックを推し進めようとしているのに日本では真逆の構造だ。通帳データを閲覧する事でさえこの状況。銀行の振り込みに至っては、いったいどうしたらよいのか我々も金融庁も金融機関も全くわからない状況だ」と言います。

なんか海外の金融機関みたいに新しい売上を作ろう!儲けよう!という感じでスカッといかないのが日本の現状。ITやDXが遅れているんじゃなくて、人間が遅れているんですよね。

日本人は守るのが好き。ドラマやアニメによく出てくるのが「君を守る」という言葉。それはいいんですけど「利権と既得権」は守ってもらいたくないんですけどね。
 

プロフィール

株式会社フリーウェイジャパン
代表取締役 井上 達也

株式会社フリーウェイジャパン代表取締役。クラウドシステムの会社としてユーザー数は34万社を超える。著書に「小さな会社の社長の戦い方」「起業を考えたら必ず読む本」などがある。


Webサイト:株式会社フリーウェイジャパン

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