中国著作権法第3次改正の概要
今回の改正は、前回の2010年2月26日改正からおよそ10年を経ての第3次法改正という位置づけになります。改正事項は多岐にわたりますが、この記事では、改正事項の概要をテーマごとに弁理士が解説します。
著作権法によって保護される「著作物」の範囲の拡大
現行著作権法では、著作権法で保護される著作物として、「次に掲げる形式で創作される文学、美術及び自然科学、社会科学、産業技術等の著作物が含まれる」とされています。
【現行法の著作物の例示】
一、文字による著作物
二、口述による著作物
三、音楽、演劇、演芸、舞踊、曲芸芸術による著作物
四、美術、建築による著作物
五、撮影による著作物
六、映画著作物及び映画の撮影製作に類する方法により創作された著作物
七、工事・建築設計図、製品設計図、地図、見取り図等の図形による著作物及び模型著作物
八、コンピュータソフトウェア
九、法律、行政法規に規定されるその他の著作物
今回の改正では、著作物の定義が、「文学、美術及び科学分野において、独創性を有し、かつ、一定の形式で表現可能な知的成果をいい、次の各号に掲げる著作物」と改められ、著作物の例示も、以下のように改められました。
【改正法の著作物の例示】
一、文字による著作物
二、口述による著作物
三、音楽、演劇、演芸、舞踊、曲芸芸術による著作物
四、美術、建築による著作物
五、撮影による著作物
六、視聴覚著作物
七、工事・建築設計図、製品設計図、地図、見取り図等の図形による著作物及び模型著作物
八、コンピュータソフトウェア
九、著作物の特徴に合ったその他の知的成果
現行法の「映画著作物及び映画の撮影製作に類する方法により創作された著作物」という表現が「視聴覚著作物」に改正したことにより、インターネット上の短い動画などのような新しいタイプの著作物も著作権法上の保護を受けられることが明確になりました。
法定損害賠償額の上限の引上げ
損害賠償額は、権利者の実際の損失額又は権利侵害者の違法所得によって計算されますが、これらによる計算が困難である場合、著作権使用料によっても計算することができます。しかし、これらのいずれも計算が困難という場合には、現行法では、人民法院は侵害行為の情状に基づき、50万元(約800万円)以下の賠償を行うよう判決することができるとされています。
今回の改正法では、権利者の実際の損失額、権利侵害者の違法所得、権利の使用料の計算のいずれも困難である場合には、人民法院が権利侵害行為の情状に基づいて、500元以上500万元以下(約8千円~約8千万円)の賠償を行うよう判決することができることとなり、上限金額が大幅に引き上げられることになります。
懲罰的損害賠償制度の導入
今回の改正法では、懲罰的損害賠償制度が導入されることとなります。権利を故意に侵害し、情状が深刻な場合には、賠償額の1倍以上5倍以下の懲罰的損害賠償を命じられ得ることとなります。
著作者の権利保護の支援の拡充
今回の改正法では、著作権主管部門が、著作権及び著作権に関連する権利の侵害が疑われる行為を取り締まる際に、当事者に聞き取り調査をしたり、違法と疑われる行為に関連する状況を調査したりすることが認められることになります。
また、当事者が違法と疑われる行為を行った場所及び物品に対する立入検査をしたり、契約書や領収書、帳簿及びその他の関連資料の閲覧・複写をしたり、さらには違法と疑われる行為を行った場所の封鎖や物品の差押えをすることも可能となります。
著作権主管部門が調査を行う場合には、当事者は協力しなければならず、これを拒んだり妨害したりすることができないものとされます。
その他
今回の改正法では、以上のほかに、無許諾・無報酬で著作物を利用できる場合のひとつに「法律、行政法規に規定されたその他の場合」が追加されるとともに、その利用に当たっては、「著作物の正常な使用に影響を及ぼしてはなら」ない旨の文言が追加されることとなっており、この点が実務上どのように影響を与えることになるか注目されます。
また、放送権と情報ネットワーク伝達権の定義の改正がされたことにより、いわゆるインターネット放送は情報ネットワーク伝達権で保護され、インターネット上の生放送は放送権で保護されることが明確になります。
このほか、著作権及び著作権に関連する権利を保護するため、権利者が技術的措置を採ることができることとされています。許諾なく技術的措置を故意に回避したり破壊したりすることは禁止されます。技術的措置の回避が認められる場合については、限定的に列挙されています。
さらに、権利者の許諾なく、著作物、レイアウトデザイン、実演、録音録画製品、又はラジオ、テレビ番組における権利管理情報を故意に削除したり改変したりする行為も禁止されます(技術的理由により削除又は改変が回避できない場合を除く。)。また、これら著作物等の権利管理情報が削除又は改変されたことを知りながら又は知っているはずでありながら公衆に提供する行為も禁止されることになります。
参考:日本貿易振興機構「中国著作権法第三次改正-9年間葛藤の裏とその影響-」
令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 伊藤 大地
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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