著作権の国際的な保護、外国との相違-日本の作品の外国での保護、保護期間、フェアユース、終了権、追及権について-
外国でも著作権の保護は受けられますか?
著作物は、国境を越えて利用されることから、世界の国々は互いの国民の著作物を相互に保護しあうため、著作権に関する様々な国際条約を締結しています。その代表的なものとして、ベルヌ条約があり、現在、世界の181カ国が加盟しています。日本は1899年に加盟していますので(何と100年以上前)、日本国民の著作物は世界の多くの国で保護を受けられます。なお、ベルヌ条約非加盟であってもWTO加盟国であればベルヌ条約を遵守する義務がありますので、同様に保護されます(例えば台湾)。ベルヌ条約は、保護を受けるために、いかなる方式の履行をも要しないと定めていることから(無方式主義)、保護を受けるために登録等は不要で、著作物の創作と同時にこれらの外国で保護を受けることができます。
外国人の著作物も日本で保護されますか?
ベルヌ条約加盟国やWTO加盟国の国民の著作物や非加盟国の国民の著作物であってもこれらの加盟国で最初に発行された著作物は、日本で保護されます。特に、現代ではインターネットが普及しており、外国人の著作物であっても容易に閲覧、利用することができますが、他人のホームページに掲載されている絵画、写真、音楽、小説、イラスト、その他の著作物であって、上記に該当し保護期間内にあるものは、原則として無断でダウンロードしたり、自らのホームページに貼り付けたりすることはできません。
外国でも日本と同じ保護が受けられますか?保護期間は同じですか?
ベルヌ条約は、著作物の保護は、保護が要求される国の法令の定めるところによると規定していますので、当該国の著作権法にしたがって保護されることになります。したがって、日本と全く同じ内容の保護が受けられるわけではありません。としても、当該国の国民と同一の保護を受けられ、それより不利に扱われることはありません(内国民待遇の原則)。
ただし、保護期間については(各国で異なります)、著作物の本国において定められている保護期間が日本より長い場合であっても、日本の保護期間と同じ期間だけ保護すればよいことになっています(相互主義)。例えば、メキシコでは著作権の保護期間は原則として著作者の死後100年ですが、日本国民の著作物は日本と同じ著作者の死後70年しか保護されないことになります。また、米国では法人著作物である映画は原則として発行後95年保護されるのに対し、日本では、団体名義の著作物や映画の著作物は公表後70年保護されます。したがって、日本では著作権が消滅して自由に利用できる映画であっても、米国では著作権が存続しており、これらのDVDを米国で販売すると著作権侵害となることが起こり得ます。なお、日本に固有の事情として戦時加算があり、米国等の連合国民の著作物については、1941年12月8日から、当該国との平和条約発効の前日までの日数(主な国は3794日)を通常の保護期間に加算しなければなりません(翻訳権についてはさらに6か月を加算)。
日本と外国では保護の内容については違いがありますか?
著作物性の判断は各国ごとに異なりますので、日本で著作物と認められるものが外国では著作物と認められなかったり、逆に、日本で著作物と認められないものが外国では著作物と認められたりすることがあります。特に、絵画、彫刻等、専らそれ自体の鑑賞を目的とする純粋美術ではなく、実用に供されることを目的とする作品、いわゆる応用美術については、日本では一品製作の美術工芸品を除き、一般的に著作物性が認められないと考えられているのに対し、欧米では意匠法との重複保護を許容しており、比較的認められやすいといった違いがあります。
また、パロディや風刺等のように原作品を滑稽、風刺等を目的としてもじった作品は、欧米ではフェアユース(公正利用)や表現の自由により保護されるとされていたり、法律で著作権が制限されていたりする国もあります。日本でもパロディを引用として保護しようという議論がありますが、引用は「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」と規定されています。最高裁判決では、①引用する著作物と引用される著作物との「明瞭区別性」②前者が主で後者が従という「主従関係」を満たす必要があるとされていますので、原作品を想起させつつ、変形・改変等するパロディが、引用として保護されるとするのは、かなりハードルが高いと思われます。
さらに、外国においては、立場の弱い著作者を保護する制度を有する国があります。米国では終了権制度があり、著作権の譲渡またはライセンスが行われた日の35年後に始まる5年間に限り、著作者またはその遺族が相手方に通知することにより契約を終了させることができます。また、欧州をはじめとする世界の多くの国で、美術の著作物の原作品について、著作者が原作品を譲渡した後、その原作品が転売された場合に、著作者又はその相続人がその対価の一部を徴収できる権利(追及権)が導入されています。これにより、無名時代に安価で売却した絵画や彫刻が、後に高額で取引されるようになった場合、その収益の一部について著作者又はその遺族が支払いを受けられるようになります。ただし、追及権についてはベルヌ条約で、相互主義で規定されているところ、日本は追及権を導入していませんので、日本国民の作品が、追及権のある外国で転売されても、残念ながらその利益を受けることはできません。
令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 木村 達矢
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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