営業担当になった技術者のための「あらためて知っておきたい」営業マナー
第2回
名刺交換の基本マナー〜その時に慌てないために
株式会社アルゴバース 瀧田 理康
名刺交換ほど、日本独特のマナーが顕著に出るところはないかもしれません。最近はアメリカ人でも日本人と仕事した経験のある人が増えて、相手が私たち日本人だと最初に名刺交換をしようとする人も増えてきました。しかし、アメリカでは普通は、握手してお互い名前を言うだけにとどまります。そうすると、正直言って、どうコミュニケーションすればよいのかわからないケースが多く発生します。この人は上のポジションの人なのか、意思決定者なのか、現場の人なのか・・・・・・。どうにもわかりにくいのです。年功序列もないし、だいたい苗字ではなく名前で言いますから、偉い人もそうでない人も名前で「ジョン」と呼ばれていたりします。そして発音が良すぎて(ネイティブだから当たり前ですが)、よく聞き取れないこともあります。そうすると覚えられないのです。この状況は、アメリカでのビジネスに慣れているつもりの私でも相当困ります。
一方、ドイツに行くと、今度はクッキーやコーヒーが最初にふるまわれて、それからあらためて自己紹介タイムが始まったりします。結構丁寧に自分のポジションとやっていることをひとりひとり述べるのです。英語が堪能な方ならいいですが、英語に自信がない人がこれに直面すると、ミーティングの最初から冷や汗ものになります。そして、結構時間を取られます。それが終わるころにはだいぶ雰囲気がなじんでくるという目的もあるのでしょうけど、この段階で少々疲れたりします。
これに対して、最初に名刺交換するというのは、結構合理的です。言葉少なく、相手のことも分かるし、相手も自分のことが分かるわけです。そのあとのミーティングで、誰に何を言えばよいのか明確になります。さらにこのシステムのすごいところは、相手が複数いる場合、その座っている場所の順番に机の上に名刺を並べることです。これにより、相手が大勢出てきても、誰が誰なのか把握できます。だから名刺交換は、その後のビジネスを合理的に進めるためにとても大切な行為なのです。
ところが、営業職になって間もないころは、この名刺交換が結構難しいのです。名刺交換の基本マナーを列挙してみます。
●上の人から順番に名刺交換を行う
●自分の名刺か片手で私、相手の名刺は両手で受け取る
●受け取った名刺は、名刺入れの上に置くか、複数の場合には座っている順番に並べる
ざっとこんなところです。この簡単なはずの名刺交換、実際にやってみると次のようなことになったりします。
●こういう時に限ってカバンの中で名刺入れが見つからない
●手がかじかんで、名刺入れから1枚ずつうまく取り出せない
●相手とお互いに名刺を出し合ったので、相手の名刺を両手で受け取れない
●相手の人数が多すぎて、名刺交換が終わったころには誰が誰だかわからなくなってしまった
などなど。
このような「困って慌ててしまう状態」をどうすれば解決できるのでしょうか?答えは簡単です。名刺交換の目的を理解すればよいのです。形式だけ覚えようとするから難しくなるのです。名刺交換の目的は、「初対面の人に自分を知ってもらい、そして相手のことも理解すること」です。これをしっかり理解しておけば、事前に名刺入れの場所を確認するか、すっと出るように内ポケットに入れておくようにしますし、相手の顔と名前を確認しながら名刺交換できるようになります。慌てる必要はありません。目的を達成することこそが重要と認識していればよいのです。
名刺交換の本来の目的を達成するための、いくつかのポイントを挙げます。
●名刺を渡すときは、お互いの目を見て、顔も見る
目をみるのは当然ですが、それ以上になんとか顔を覚えるようにしましょう。記憶力に限界がありますから、会議室を出たら顔と名前が一致しなくなっても仕方ありません。でもせめてその場では努力するようにしましょう。目を合わせず名刺だけとりあえず交換するのは危険です。
●訪問した側から出す
営業の場合、相手がお客様でもあり、またホストですからこちらから先に差し出すのは当然です。
●相手の名刺は胸元でいったん確認する
これを両手でやるようにすると、仮に受け取りは片手だったとしても非常に丁寧な印象を与えるとともに、本来の目的である相手の顔と名前を自分の中に一致させる時間をつくることができます。
●事前に必要枚数は名刺入れからだしてしまう
1枚1枚出そうすると、くっついたり、自分の手が乾いていたりして慌てることがあります。「がさっ」と出してしまったほうがそのあとが楽です。
●名刺入れはある程度きちんとしたものを持つ
ボロボロで年季が入ってパンパンに膨らんでいる名刺入れを時々見かけますが、相手の大事な名刺をいただいていれるものですので、そんなところに自分のものも突っ込まれるのかという印象を持たれては損です。同じ理由で、プラスチック製などで粗雑に見えるものを使うのも避けたほうがよいでしょう。
プロフィール
株式会社アルゴバース
代表取締役社長 瀧田 理康
東京理科大学卒。自動車関連部材メーカーで、事業企画担当に抜擢され、本部長直下で一人で事業企画を担当。全国の販売会社、子会社と本社との橋渡し、各種会議、社長会、イベントのファシリテーションを行う。軌道にのったところで、社内ベンチャーの立ち上げメンバーに指名され一からやり直し。行ったこともなかったシリコンバレーや欧州への売り込みから工場生産管理まで行い、利益率20%の事業まで作り上げた。独立性が高く事業価値が高かったため、最終的に事業売却となる。アルゴバースでは、新規事業開発、広報・PR&販促の分野で技術がわかる点を強みに、BtoB企業のクライアントを広げている。事業売却とそれに至った経験と理論を体系化して、新規事業開発の支援を本格稼働。単なるコンサルティングではなく、最終的に実務を伴うソリューション提供をモットーとしている。
・中小企業診断士、リスクマネジメントプランナー(一般財団法人リスクマネジメント協会)、PRプランナー(PRSJ)
・著書は「新規事業開発」「経営基本管理/マーケティング」(ともに日本マンパワー出版)等
・2020年、「新規事業実務研究会(旧:ステージゲート法実践会)」立ち上げ
Webサイト:株式会社アルゴバース
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