知らなかったでは済まされない著作権の話

第9回

会社の企画会議資料に有名キャラクターのイラストを利用できる!?
~検討過程の利用にまつわる話

 

販促キャンペーンのキャラクター候補はどんな「キティちゃん」??

業界でも指折りのファミレスチェーンを経営するイノベーションフーズ。経営環境の厳しい外食産業の中にあって、これまで堅調に売上を伸ばしてきました。しかし昨年、ライバル企業のB社が、子供たちに人気の有名キャラクターを使用したキャンペーンを実施すると、これが大ヒットしてしまい、イノベーションフーズもファミリー層を中心に売上に大きな打撃を受けてしまいました。

イノベーションフーズ社では、「うちもキャラクターを使え!」という社長のゲキのもと、次のシーズンの販促キャンペーンに向けて企画会議が開催されることになりました。担当である企画宣伝部のC係長は、綿密なリサーチの上、候補のキャラクターをキティちゃんに絞り、企画書をまとめました。

企画会議の席上、D部長がC係長にたずねました。
D部長 「C君、君はキティちゃんというキャラクターが良いというんだね。」
C係長 「はい、部長。」
D部長 「ところでなぜキティちゃんのイラストは企画書に載っていないんだ。」
C係長 「著作権者に無断で会社の企画書に著作物を掲載すると違法行為になると、イノベーションズアイのコラムで読みました。」
D部長 「そうなのか。でもイラストがないとキティちゃんがどんなキャラクターかわからないじゃないか。」
C係長 「部長はキティちゃんを知らないのですか??」
D部長 「・・・知らない。」
C係長 「えっ!?キティちゃんはネコのキャラクターです。」
D部長 「わかった!『もーれつア太郎』に出てくるネコか?」
C係長 「・・・それはニャロメです。」
D部長 「じゃ『いなかっぺ大将』に出てくるネコか?」
C係長 「・・・それはニャンコ先生です。」
D部長 「じゃ「のらくろ」か?」
C係長 「・・・それは犬です。」

来年1月より検討過程での著作物の利用は著作権侵害ではなくなります!

著作権者に無断で著作物を使用することはできません。これが大原則です。例外として、個人的にあるいは家庭内などでは「私的使用」として著作物を自由に使用することが認められていますが、会社は「家庭内」ではないため、この例外も当てはまらず、原則通り、会社での著作物の無断使用は一切認められないとされてきました。

しかし、D部長の気持ちもよくわかります。大事な販促キャンペーンを決定する会議で、そのキャンペーンに使用する候補のキャラクターが、キティちゃんなのかニャンコ先生なのかわからなかったら、決裁などできるはずがありません。

そこでこのたび、著作権法が改正になり、来年1月1日より、著作権者の許諾を得て著作物を利用しようとする場合には、これらの利用について検討を行うための内部資料としての著作物の利用は、原則として適法とすることになったのです。実際に、会社などで企画の検討段階の資料に、その検討の対象であるキャラクターのイラストが掲載できなければ、イノベーションズフーズ社のように業務に支障が生じてしまいますし、またこうした内部資料にイラストを掲載したところで、そのイラストの著作権者に経済的な不利益が及ぶことも考えにくいことが法改正となった理由なのでしょう。

著作物を自由に利用できるという例外規定は頻繁に改正されています

日本の著作権法には、先述の「私的使用」や、今回のテーマである「検討過程における著作物の利用」をはじめ、著作権者の許諾をもらわなくても、著作物を自由に利用できるという例外の規定(制限規定)が数多く設けられています。特に、教育、福祉、報道の場面などで、著作権者の権利を保護し過ぎると、社会生活上で不都合が生じてしまうからです。

また、このような例外規定を含めた著作権に関する法律は、社会状況の変化やIT技術の進展などで、変化しています。これまで違法行為だといわれていたケースが適法になったり、適法であったことが違法行為になったりすることも多いので、著作権法の法改正のニュースには注意が必要です。

さてD部長のトンチンカンぶりに振り回されたC係長ですが、友人の行政書士から今回の法改正の話をきいて、企画書を作り直し、販促キャンペーンのキャラクターは無事本物の(?)キティちゃんで決定したということです。

※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 
 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話

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