第6回
買った絵画の絵ハガキは自由に作れる??
~所有権と著作権にまつわる話
自慢の絵画コレクションのポストカードをインターネットで販売!?
企画宣伝部のA子さんは、勤続20年のベテラン社員。若い頃から仕事に打ち込み、いまも気ままな独身生活を楽しんでいます。海外旅行やグルメにもさほど関心がない彼女の唯一の趣味が、絵画コレクション。週末は、銀座の老舗百貨店のギャラリーに出かけ、時折気に入った若手アーティストの作品を購入するのが何よりの楽しみです。
ある日、部の後輩たちを招いてホームパーティーをしたA子さん。集まった後輩たちは、部屋に何十点も飾られているA子さんの絵画コレクションに感嘆しました。
B美さん「A子さん、すごいですね!この絵なんてとてもすてきじゃないですか!」
A子さん「そう?私もお気に入りのアーティストなのよ。」
C恵さん「有名なアーティストなんですか?」
A子さん「まだまだ若手だからそんなに有名じゃないんだけどね。将来もっと有名になってくれたら、私の老後も楽になるわね(笑)」
D代さん「私、この絵のポストカードがあったらほしいな~」
B美さん「そうだわ!A子さん、コレクションを絵ハガキにして販売してみたらどうですか!?」
後輩たちに自分のコレクションを褒められて上機嫌のA子さん。「これはいい副業になるかも」という邪念もよぎり、早速印刷屋さんにポストカードの製作を注文しました。
2週間後、出来上がった絵ハガキを見てうっとりしたA子さんは、「やっぱり今の時代はインターネットよね」と、WEB制作会社を経営する弟さんにショップサイトを作らせ、全コレクションの絵画の画像をアップロードし、絵ハガキのオンライン販売をスタートしました。
「所有権」と「著作権」はまったく別の権利なんです!!
それから数日が経ち、「早く最初の注文が来ないかしら」とつぶやくA子さんのもとに、注文の代わりに1通の封書が届きました。
「内容証明郵便!!!???」
びっくりしてその手紙に目を通すと、どうやら自分が行っている絵ハガキの販売に関するクレームのようだと感じました。
A子さんは、すぐに弟さんに電話して、弟さんのWEB制作会社で著作権コンサルタントの顧問をしている行政書士E氏に相談することにしました。
E氏 「A子さんのやっていることは立派な著作権侵害ですよ。」
A子さん「だって、私が買った絵画のポストカードを作って、売っているだけですよ!」
E氏 「A子さんが買ったのは絵画の『所有権』であって、『著作権』ではないんです。」
お金を出して絵画を買っても「著作権」までは手に入りません
E氏が言うとおり、「所有権」と「著作権」というのはまったく別の権利なのです。
絵画のような著作物は、通常は創作した人に「著作権」が発生します。またその著作物を他人に販売するまでの間は、通常は創作者が「所有権」もあわせて持っていることとなります。
そして、絵画を購入した場合、買った人に絵画の「所有権」は移りますが、特別な契約をしない限り、単なる売買契約では絵画の「著作権」が移ることはありません。
A子さんは、百貨店で絵画を購入したので、絵画の「所有権」は取得しましたが、「著作権」は得ていません。つまり、A子さんには、絵画をポストカードにする権利や、絵画の画像をサーバーにアップロードする権利はないのです。
また逆に言いますと、この絵画の「著作権」は通常は創作者に残っているわけですから、創作者は、所有者であるA子さんの許可をもらうことなく、この絵画のポストカードを作って販売したり、自分のホームページにこの絵画の画像を掲載したりすることができるのです。
著作権がなくても絵画の所有者には認められている行為があります
でも、絵画を買った人に、著作権にもとづくあらゆる行為が認められなかったら、これはこれで不具合が生じます。
例えば、絵画を展覧会などで展示する権利は著作権の内の1つですが、絵画を買った人が自由に展示できなければ、そもそも絵画を買う人は少なくなってしまうでしょう。そして展覧会で展示するときには、当然チラシ、パンフレット、図録などを作るでしょうから、これらに作品の画像を自由に掲載できなければ、展覧会の運営に支障が出てしまいます。また、買った絵画を転売する場合で、インターネットの通販やオークションを利用するときには、作品画像をWEBページに掲載できなければ、その絵を誰も確認することができず、買ってくれる人は現れません。
ということで、これらの行為は、「所有権」しか持っていない絵画の購入者にも認められています。
しかし、作品画像の掲載は何でもOKというわけではありません。展覧会のパンフレットと称して、作品の紹介の目的をこえて、「美術全集」のような鑑賞用の本を出版したり、インターネットオークションのページに巨大ポスターにも利用できるような高解像度の画像を貼りつけたりするのはNGとなります。
さてさてA子さんですが、すべての作品のアーティストさんに連絡を取り、絵ハガキの売上の一部を支払うことを条件に「著作物利用許諾契約書」を取り交わし、無事にオンライン販売を続けることになりました。
※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)
日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役
「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。
特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。
現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。
また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。
○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
【著書】
「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。
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