知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

第1回

子供の描いた落書きのような絵には著作権はない!?~著作物性にまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

お店のゆるキャラ“流し目太郎”がついにゆるキャラグランプリに!!


中堅のスーパーマーケット「イノベーションズマート」に勤務するイケメン社員のA主任は、今日もB店長の熱い信頼を受けて、元気に働いています。本コラムVol.2の第8回で、A主任が生み出したお店のゆるキャラ“流し目太郎”は、その後もますます評判を呼び、店頭で着ぐるみのイベントをすると、入店客数が50%もアップするほど人気は過熱しています。そして、“流し目太郎”は、ついに「ゆるキャラグランプリ」にエントリーされるまでになりました。

B店長 「いやーAくん、“流し目太郎”の人気はすごいねー。ゆるキャラグランプリで、もし1位になったら、くまモンみたいになっちゃうのかな!?」
A主任 「くまモンの経済効果は、2年間で1200億円もあったらしいですよ・・・。」
B店長 「ひえー!もし“流し目太郎”がそうなったら、君はいきなり取締役かもな!」
A主任 「そうしたら僕はB店長の上司ですね!」
B店長 「・・・。私は“出世大名家康くん”の応援でもするか。。。」

子供たちによる “流し目太郎”の似顔絵大会、大賞の絵はお店のエコバッグに!


自分が生み出したゆるキャラが好評で、ますます仕事に力が入るA主任。更なるファミリー層の集客に向けて、「ちびっこ“流し目太郎”似顔絵大会」を企画すると、これも好評で、子供たちが描いた“流し目太郎”の似顔絵がたくさん集まりました。
お店の入口に展示されたたくさんの“流し目太郎”の絵を眺めながら、B店長はA主任に話し掛けました。
B店長 「子供たちは自由だね・・・。あの“流し目太郎”は目が赤いぞ・・・。」
A主任 「あちらの絵は、顔の下から足が出ていますね・・・。」
B店長 「ところで、大賞の発表はどうするんだい?」
A主任 「実は、大賞の絵をエコバックにプリントして、発表当日にレジで配布しようと思ってるんです。」
B主任 「いいねー、サプライズだねー!親御さんも喜ぶぞ。」


そして似顔絵大会の大賞発表の日を迎え、イノベーションズマートのレジでは、大賞に輝いた子供の絵がプリントされたエコバッグの配布が始まりました。
「まあ、かわいい絵ね~」とエコバッグをもらって笑顔のお客様の列を見て、喜び合うA主任とB店長。しかし、数時間後、バックヤードにいたA主任とB店長のもとに、レジ担当のパート社員のCさんが走ってきました。
Cさん 「た、大変です!大賞の子のお母様が『絵の著作権のライセンス料を支払って!』と言ってきています!」
A主任&B店長 「ライセンス料って・・・あんな子供の絵に著作権なんてないだろう!」

子供の描いた落書きのような絵にも著作権はあります


著作権は、すべての「著作物」を保護する権利です。また、著作物とは法律で「思想又は感情を表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されています。
「著作物」というと、まずは、著名な画家の絵画や、人気作家の小説、有名ミュージシャンの音楽、ロードショー公開された映画などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。また、私たちが日々のビジネスで取り扱っている文書、写真、映像、イラストなどが、著作物であるということも多くの人は理解されていることでしょう。それでは、幼い子供の描いた絵は、果たして「著作物」と言えるのでしょうか?

答えはYESです。人間は他の動物とは異なり、精神活動を行います。どんな人でも生きている限り、自分の「思想」・「感情」を、文章にしたり絵にしたりして表現するものです。芸術的な価値の優劣は別として、この「思想」・「感情」や、それが表現された文章や絵は、どんなに高尚な作品も一般の人々の他愛のない作品も、すべて著作物として保護され、その著作物としての価値には優劣はありません。有名な芸術作品だから著作権の保護が強くなったり、無名な作品だから著作権の保護が弱くなったりするということはないのです。著作権という権利は、すべての人間ひとりひとりの「考え」・「気持ち」を表現する精神活動を守り、それはすべての人間に平等に与えられています。

これは表現者が子供であろうとも変わりません。大人からすると「落書きのようなぐちゃぐちゃの絵」にしか見えなくても、それは小さな子供の心の中にある「考え」・「気持ち」の表現であり、人間の精神活動に他ならないのです。

動物が描いた絵や、機械が自動的に撮った証明写真には著作権はありません!


ということで、逆に言えば、天才的な猿がいくら上手に絵を描いたとしても、猿は人間ではありませんので、この絵は著作物として保護されません。もちろん猿の飼い主にも何の権利もありません。また、カメラの操作が下手な人が撮影したピンボケのスナップ写真は著作物として保護されますが、駅や街中に設置してある機械が自動的に撮影する証明写真や、防犯カメラの映像などは、人間の精神活動ではありませんので、著作物とはなりません。

さて、A主任とB店長ですが、お店の常連の行政書士に相談して、子供の絵にも著作権があることを知ると、親御さんに平謝りし、お米10キロをプレゼントすることにより、なんとかエコバッグの配布を継続させてもらえることとなりました。「お子さんは天才ですね!」と褒めちぎり、親心をくすぐったこともかなり功を奏したようです。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.3

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