B to B企業のメタバース、インダストリアル・メタバース基礎講座
第5回
メタバースでイベントを開催するとき考えるべき「重さ」とは
株式会社アルゴバース 瀧田 理康
メタバースではZoomをはじめとするオンラインミーティングアプリのように音声で参加者と会話ができます。オンラインミーティングがカメラで顔をキャプチャしているのに対して、メタバースではアバターになって話をします。何を着ているかとか、髪がぼさぼさとか、周りに何があるのかとか、そういったことは一切気にしなくてよいので、メタバース上でアバター参加するのはとても気楽です。また、本当はおじさんなのだけど、若い女性になることもできますし(声は基本的には変えないのでビジネス上ではこれはお薦めしませんが)、年齢にかかわらず若々しい姿でいることもできます。アバターの志向としては、できるだけ現実の人に近いアバターでいようとする人と、現実とは違う別の人としてのアバターでいようとする人に分かれるように思います。メタバース上ではどちらであっても問題なくコミュニケーションできます。
アバターであるという特徴はあるものの、オンラインでコミュニケーションをとることはメタバースのひとつの特質なので、これを利用したメタバース上でのイベントが最近ちらほら開催されるようになってきました。弊社でも、ミーティングをメタバース上で行うことは日常的になってきており週2-3回ありますし、その中には10人程度を集めた説明会のようなものもあります。
一方で、メタバースでイベントを開催するとなると、参加人数がミーティングより格段に多くなります。弊社の場合には広報・PR部門があるのでメタバース記者発表会といったもものも開催しています。そこで得たメタバースでイベントを開催するときのポイントとして有用な「重さ」について今回はお話したいと思います。
「重さ」という点において、メタバースでイベントを開催する際に考えなければいけないのは、まず参加人数です。参加人数が多くなると、どんどんメタバース空間が重くなります。これはアバターがたくさん乗ってくるので当然です。固定された3Dのオブジェクトの負荷よりも、動きがあるアバターがたくさん集まる負荷の方が大きいといえます。この負荷を少なくするためには、あまり3Dにこだわらずに、ちょっとアニメ調になってしまいますが2Dのアバターにした方が有利かと考えます。アバターを3Dにするのか2Dにするのかというのは、メタバースでイベントを行うプラットフォームをどういうものにするのかの選択になります。「多人数のイベントが可能です!!」とうたっているプラットフォームはたくさんのアバターが同時に入れます。その中にはアバターやまわりが少し2D的になっているものもあります。一方、リアリティを追求した3Dのきれいなプラットフォームだと人数はそれほど一度に入れないのが普通です。そのかわり臨場感はすごくあります。どちらを選択するかは、開催する側の指向によります。
弊社のプラットフォームは後者なので、イベントをやる場合には部屋をわけて設定する工夫をしています。リアル開催のカンファレンスで、小ホールでいくつもテーマごとにプレゼンテーションしているケースがありますが、これと同じイメージをメタバースで構築しています。メタバースでイベントをやる際には、このように参加人数に対して空間のキャパシティがきちんと確保されているかというのが大切なポイントになります。オンラインミーティングの初期のときも、オンラインでミーティングやると声が聞こえなかったり、割れたり、入れなかったりというトラブルがあったと思います。メタバースは今それと同じ段階であると考えられます。現時点ではイベントする際には慎重にプラットフォームのキャパシティをみてイベントを構成されることをお薦めします。
参加人数に関連するのですが、参加者の回線とデバイスも考慮しなければなりません。たとえばスマートフォンからの参加者が多い場合、オフィスのWiFi+高性能PCの人にくらべるとどうしてもイベントから落ちやすくなります。落ちるというのは、突然会場からいなくなる状態を言います。もっと負荷がかかっている場合には、そもそもスマートフォンだと空間にはいれないという状況がおきます。主催者は強力なWiFiと高性能PCを使っている場合、こちらは問題ないのでこれに気がつかないケースがあるので注意が必要です。もしイベント会場でWiFiが脆弱である場合は、とても悲惨です。PCがいくら高性能でもイベントに人がどんどん参加してくると、いきなりホスト側が落ちます。そうなると全然イベントが成り立ちません。また、ホストが落ちなくてもホスト側すなわち主催者が話している声がとぎれとぎれになったりします。この状況がおきていることはホスト側からはわからないので、あとで「何言っているのかわからなかった」などというクレームになる可能性があり、イベント主催者としてはとても厳しい状況です。これを回避するために少なくともホストはハイスペックのゲーミングPCと強いWiFi環境が必要ということになります。そのうえで、できるだけメタバース会場の造作を軽くして落ちる人が最小限になるように配慮します。またデバイスの方もスマートフォンやタブレットだと長時間参加していると熱を持ってしまって動かなくなってしまうケースがあります。ゲーミングPCは強力な冷却機構を持っているのでいいですが、他のデバイスは長時間のイベントである場合には途中で息切れしてしまう可能性があります。主催者はそれも考えて、あまり長い時間のイベントは避けるようにした方がよいでしょう。
メタバースは、この1年でいくつもの優れたプラットフォームが出現し、今後も出てくるでしょう。また、既存のプラットフォームも日々改良されてきています。メタバースを取り巻く環境全体がものすごいスピードで進化、整備されている感があります。現在苦労している点も、近いうちにあまり気にしないでメタバースでイベント開催できる日がくると思います。しかし、今いろいろなことを経験しておくことはメタバースが普及したときには一歩先を進むことができると考えています。
プロフィール
株式会社アルゴバース
代表取締役社長 瀧田 理康 (たきた・さとやす)
東京理科大学電気工学科卒。また、武蔵野美術大学造詣学部にてデザインを、京都芸術大学美術科にて写真を学ぶ。現在は、株式会社アルゴバース代表取締役社長として映像制作事業、PR事業。市場・技術調査事業の3つの事業を統括しつつ、XRグラスによるソリューションや3DCGの制作、メタバース事業といった新規事業を担当している。15年ほど半導体業界で部品製造のベンチャー事業を行い、その際の米国や欧州とのビジネス経験をベースに新規事業開発コンサルティングおよび技術の国際展開のコンサルティングを行ってきた。現在も中小企業大学校でアドバイザーを務める傍ら、自社の事業変革として2021年からは3DCG制作事業、2022年からはメタバース事業に注力している。
・中小企業診断士、リスクマネジメントプランナー(一般財団法人リスクマネジメント協会)、PRプランナー(PRSJ)
・著書は「新規事業開発」「経営基本管理/マーケティング」(ともに日本マンパワー出版)等
Webサイト:株式会社アルゴバース
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