第1回
どうして日本企業は海外に進出するのか?
朝日税理士法人 山中 一郎
日本企業の海外進出には多くの理由がありますが、最近多く見かけるのは「市場狙い」目的での進出です。もちろん日本で高止まりした製造コストを低減させるため、今まで培ってきた商流を維持するために海外進出する企業も数多く存在します。
私は最近、インドネシアのジャカルタ近郊にある自動車部品工場を見学してきました。そこで驚いたのは多くの工程がオートメーション化されていて、人があまり働いていないことでした。
地域にもよりますが、ジャカルタ近郊の最低賃金/月は3万2千円程度(約4百万ルピア)ですから、日本よりかなり安い金額です。4~5年前に私が他の工場を訪問した時、この安い人件費を背景に、多くのインドネシア人が「工場のライン」で働いていましたが、私の訪れた先ではその風景はもう見られませんでした。
その後ラオスのビエンチャンに行ったのですが、そこにあったのは「昔ながらのアジアの工場」で、多くの労働者がラインに並んで作業するという風景でした。ビエンチャンの人件費はジャカルタの半分~2/3程度とのことです。
これは偶然に私が見た2つの工場の話であって、全てのインドネシアやラオスの工場がそうであるとはいいません。しかし一部の製造業にとって、インドネシアの魅力が「安い人件費」から「市場」に移り、「生産性の向上」が重要になってきていることを実感しました。
海外進出日本企業数(社数)
※経済産業省 海外事業活動基本調査概要より作成
私は時々ASEANに出張しますが、日本企業の進出熱は相変わらず高く、この表に記載されている社数はかなり少ない気がします。それでもこの表によると、2016年度の海外進出日本企業数は10年前と比較して約1.5倍に増加していることがわかります。
またその中でもサービス業の海外進出が顕著です。
例えば海外で日本食は本当にブームで、ASEANの多くの街で日本食レストランを見かけるようになりました。5年程前は、その顧客の中心は日本人駐在員でした。しかし最近は結構な高級レストランで、現地の人々が普通に日本食を楽しんでいます。
確かに日本食ブームも背景にあるのでしょうが、明らかに現地の人々の購買力は5年前から大きくなって、それに比例するように現地の市場も膨らんでいます。
市場狙いの日本企業が増加してきたことの背景には、
・日本の少子高齢化と海外の若年層の多さ
・開発途上国における個人の購買力の増加
・現時点でも日本の人口が相対的に多くないこと
があるように思われます。
少子高齢化によって日本の市場が縮小し、海外の市場は拡大しているのですから、日本企業の海外進出の傾向はまだ続くのでしょう。 今回のシリーズでは、日本企業が進出する際、また進出した後に気を付けるべきことについて改めて考えてみたいと思います。
アジア主要各国の人口(単位:百万人)
アジア各国の成長率
プロフィール
朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎
朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。
国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。
主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数
Webサイト:朝日税理士法人
- 第5回 経理・財務の「見える化」
- 第4回 海外進出後に必要な現地の「見える化」
- 第3回 海外進出時のリスク管理
- 第2回 海外進出時のトラブル
- 第1回 どうして日本企業は海外に進出するのか?