ロゴタイプは著作権として保護されますか? ~「ANOWA」標章事件控訴審判決~
しかしながら、商標権は指定した商品又は役務に応じて保護範囲が定まる上に、侵害が認められるのは相手方がロゴタイプを商標として使用した場合に限られます。また、不正競争防止法で保護する方法もありますが、一定の周知性を獲得したロゴタイプのみが保護対象となります。このため、ロゴタイプのデザイン性に着目し、著作権として保護することができれば、商標法又は不正競争防止法により保護できない場合でも権利行使が可能となります。
果たして、ロゴタイプは著作権として保護することができるのでしょうか?
以下、「ANOWA」標章事件控訴審判決(知財高判令和4年9月27日(令和4(ネ)10011))を通して解説したいと思います。
1 著作物性の有無が争われたロゴタイプ(以下「本件ロゴタイプ」又は「原告標章」といいます。)
2 裁判所の判断
(1)著作物に該当するための要件
はじめに、標章(ロゴタイプ)が著作物に該当するための要件について、裁判所は以下のとおり示しました。
・「著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」
→著作権法2条1項1号の条文のとおりです。ロゴタイプの場合は「美術」の範囲に属するか否かが争点となります。
・「商品又は営業を表示するものとして文字から構成される標章は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用されるものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべきものである。」
→この説示以降は一審判決で示されなかった部分であり、控訴審判決において初めて示されました。特に、文字から構成される標章の保護は「商標法又は不正競争防止法により図られるべき」という点は、これまでの裁判例でも示されたことのない事項となります。
・「文字からなる商標の中には、外観や見栄えの良さに配慮して、文字の形や配列に工夫をしたものもあるが、それらは、文字として認識され、かつ出所を表示するものとして、見る者にどのように訴えかけるか、すなわち標章としての機能を発揮させるためにどのように構成することが適切かという実用目的のためにそのような工夫がされているものであるから、通常は、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されているものとは認められない。」
→文字からなる商標(判決文のママ)のうち、本件のようにデザイン性を備えた標章に対する基本的な考え方を示しており、それは実用目的での工夫に過ぎず、通常は、著作権として保護されるための美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性の発揮とは異なるというものです。すなわち、商標権と著作権とでは目的が異なるという評価がなされています。
・「商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構成される標章が著作物に該当する場合があり得るとしても、それは、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えなければならないというべきである。」
→例外的に、標章が著作物に該当する場合の要件を示しており、「標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性」、かつ「それ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性」をそれぞれ備えなければならないという、一審と比較としても相当高いハードルを設定したという印象を受けます。
(2)本件ロゴタイプの著作物性の有無
結論として、本件ロゴタイプは著作権法2条1項1号にいう美術の範囲に属する著作物に該当するとは認められないと判断されました。理由は以下のとおりです。
「原告標章は、文字配置の特徴等を十分考慮しても、欧文フォントのデザインとしてそれ自体特徴を有するものとはいえず、原告の商号を表示する文字に業務に関連する単語を添えて、これらを特定の縦横比に配置したものにすぎないことが認められる。」
「原告標章は、出所を表示するという実用目的で使用される域を出ないというべきであり、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えるものとは認められないから、著作権法により保護されるべき著作物に該当するとは認められない。」
(3)一審原告(控訴人。以下単に「原告」といいます。)による主張と裁判所の判断
原告としてはロゴタイプの著作物性を認めてほしいわけですから、裁判所に対して例えば以下のような主張を行いましたが、いずれも認められませんでした。
・原 告:原告標章には、多様に選択し得る文字の配列や文字の比率の中から、安定感がある配置が採用されている。
・裁判所:原告標章に採用された単語の配置や文字の比率によって、一定の安定感が生じているとしても、その安定感は、ロゴタイプという実用目的に資するのを超えて、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。
・原 告:原告標章の文字の配置や比率によって、「ANOWA」の部分が強調され、原告の事業がアピールされるとともに、均整のある美観を生じさせている。
・裁判所:原告標章から原告の商号や事業がアピールされたとしても、標章としての実用目的に資するにすぎず、文字の配置や比率も、ロゴタイプのデザインとしては、ありふれたものといえるから、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。
・原 告:原告標章がV字型(逆三角形)の下方をカットしたような構図を採用することにより、躍動感を感じさせる美観を生じさせている。
・裁判所:原告が指摘する構図は、「ANOWA」の文字を2行に分け、中央寄せした配置とする場合に自然に生じるものにすぎず、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。
・原 告:(原告標章が)一品制作の図又は絵であるとしたら創作性のあることは議論の余地がなく、漫画の特徴的な表現を含む一こまを模倣しても著作権侵害となるのに、ロゴタイプ・デザイン(量産品の原画)であるが故に著作権法の保護の対象とならない、あるいは高度の創作性がなければ著作権法の保護の対象とならないというのは、著作権法上の著作物の定義に反する。
・裁判所:(原告標章は、)商品又は営業の出所を表示する標章であり、商標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、一品制作の図又は絵や漫画とは性質を異にする。
3 解説
ロゴタイプの著作物性の有無が争われた裁判例はこれまでにも複数ありますが、著作物性が認められたことはありません。その理由としては、①文字の字体を基礎としてデザインを施したものであり、本来的には情報伝達という実用的機能を有するため、著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは一般的には困難であること、②著作物性を認め得る場合があるとしても、そのデザイン的要素が美術の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合に限られることが挙げられてきました。
本事件ではこれらの理由に加え、「商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構成される標章は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用されるものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべき」という新たな理由が加わりました。
裁判所の判示では、新たな理由を従来の理由よりも先に述べることで論拠の基礎に据えており、商標として使用される目的で作出されるロゴタイプについては標識法で保護されるべきと断じることで著作権法による保護との棲み分けを図っているように思えます。商標として使用するロゴタイプであるという時点で著作権法の枠組みから外れ、例外的な適用を受けるためには、「自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性」、「それ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性」を備えることが求められるとあっては、ロゴタイプが著作権として保護を受けることのできる事例は極めて限定されると言えそうです。
以上が執筆時点における裁判所の考え方であり、冒頭のタイトルに沿って回答するとすれば、「ロゴタイプを著作権として保護するのは非常に難しい。」と言わざるを得ません。しかしながら、本事件は上告受理の申立てがなされており、他の類似事件と併せて今後も司法判断の動向を注視していく必要があります。
令和4年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 髙畑 聖朗
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