新規事業開発の勘所

第4回

「事業を見えるようにする」ことで事業を推進する

株式会社アルゴバース  瀧田 理康

 

事業を着実に推進して、成果を上げていくために必要なことは何でしょうか。


いろいろな答えがあるなかで、私が企業内新規事業をやってきた経験から、事業立ち上げの最初に、または事業開発の途中で重要視するべきと思うことは、「事業を見えるようにする」(見える化する)という言葉で表現したいと思います。


その事業はどういう事業なのか、その市場はどういう市場なのか、どういう戦略なのか、どういう組織なのか、それをやることで社会にどのように役にたつのか。そしてそれはきちんと利益を生み続けて、ずっと存在していくことができるのか---等々、いくつかの項目で整理していきます。事業を推進していくために、それらのことが、一緒に事業を行っていく人にも明確に見えるようになることが大切なのです。


はっきり見えることによって、あたりまえですが、事業が実際に存在していることがわかります。企業内新規事業の場合は特に、社内で適切に認知されていないために協力を得にくくなることがあります。したがって、見えるようになると多くの人(や部署)との関わりが認識されます。そして「応援しよう」という共感が生まれれれば、各部署が業務として、その事業のためにうまく動いてくれるきっかけになるのです。この共感を得ることこそが将来に向けて事業を発展させられるカギだと痛感していることは、前々回の記事でも書かせていただきました。


そして今回、大事な点を付け加えるなら、もし事業をやる当事者がそれまでに事業をやったことがなくても、強力なアントレプレナーシップ(起業家的精神)を持っていなくても、「事業を見えるようにする」ことで、事業をひっぱっていける、ということです。


私たちは新規事業実務研究会(※)を立ち上げ、このことを多くの企業の方に伝えていきたいと考えています。「事業を見えるようにする」ためのベースとなっている理論は、ステージゲート法です。しかし、オリジナルのステージゲート法は、それが発生した時代や経緯から、必ずしも「事業を見えるようにする」ようにはできていません。そこで今の時代に合わせて理論構築し、その理論を自ら20年かけて実践し、修正を加えて体系化しました。それが当研究会が提供する「チェックゲート式」メソッドです。


ステージゲート法とは、1980年代にカナダのロバート・クーパー教授が開発した、多くの製品や技術開発テーマを効率的に絞り込んでいく方法論です。主に製造業を対象に北米では比較的多くの事例で展開されていて、アイディアの創出から実際に事業を行うまでのプロセスを複数のステージにわけ、ステージとステージ間にゲートを設けて、開発テーマや商品を効率的に絞り込み成功確率を高めていきます。


基本的な考え方は、事業アイディアをたくさんもってそこからいろいろな切り口で客観的に精査していって、最後は成功できる事業をひとつかふたつ成長させるというものです。つまり、事業のタネを絞り込みます。


当研究会のチェックゲート式は、事業のタネを絞り込むというより、事業のタネを育み成長させることに重きを置いて構築しています。本来のステージゲート法とはかなり違った内容になっているものの、事例や実務経験を反映させ、より着手しやすく、わかりやすくしています。


新しい事業を始めるにあたって、事業として数百億円規模で大きくなっていくというシナリオを描いた方から相談を受けました。資金調達をするために事業計画をブラッシュアップしたいというのが目的でした。もちろんいい意味での思い込みは必要ですが、それだけで事業が成功するほど世の中は甘くありません。だからこそ、その思い込みだけではなく、論理的に「事業を見えるようにする」ことが大切なのです。


思い込みを論理的に紐解いていくのは、当事者にとってみれば少々難しく、時間がかかったりすることがあります。またメンバー内での話し合いが必要になることもありします。なぜなら、事業を説明する言葉の選び方から見直し、事業を「見えるようにする」ためです。しかし、一度整理できると、見えなかった課題や可能性、方向性がみえてくることもあります。そうしたプロセスを経て、この方の新規事業は思い込みの状態から、資金調達を具体的にすすめていくための説得力ある事業計画書に至るまでに変化しました。資金調達のための準備を整えることができたのです。


※新規事業実務研究会では、新規事業のためのアイデアディスカッションから、新規立ち上げ、事業の見直し等を個別にお手伝いしています。新規事業について何から手をつけてよいかわからない方にはオンラインでの相談も受け付けています。ステージゲート法は、経済産業省、中小企業庁、内閣府で進める中小企業技術革新制度(SBIR制度)見直し案中間とりまとめ(2019年11月7日発表)のなかで手法の一つとして採用されています。

 

プロフィール

株式会社アルゴバース
代表取締役社長 瀧田 理康

東京理科大学卒。自動車関連部材メーカーで、事業企画担当に抜擢され、本部長直下で一人で事業企画を担当。全国の販売会社、子会社と本社との橋渡し、各種会議、社長会、イベントのファシリテーションを行う。軌道にのったところで、社内ベンチャーの立ち上げメンバーに指名され一からやり直し。行ったこともなかったシリコンバレーや欧州への売り込みから工場生産管理まで行い、利益率20%の事業まで作り上げた。独立性が高く事業価値が高かったため、最終的に事業売却となる。アルゴバースでは、新規事業開発、広報・PR&販促の分野で技術がわかる点を強みに、BtoB企業のクライアントを広げている。事業売却とそれに至った経験と理論を体系化して、新規事業開発の支援を本格稼働。単なるコンサルティングではなく、最終的に実務を伴うソリューション提供をモットーとしている。

・中小企業診断士、リスクマネジメントプランナー(一般財団法人リスクマネジメント協会)、PRプランナー(PRSJ)
・著書は「新規事業開発」「経営基本管理/マーケティング」(ともに日本マンパワー出版)等
・2020年、「新規事業実務研究会(旧:ステージゲート法実践会)」立ち上げ


Webサイト:株式会社アルゴバース

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