第5回
ステージゲート法を誰でも使える武器に
株式会社アルゴバース 瀧田 理康
チェックゲート式メソッド誕生の背景
自分たちが事業の将来を信じて、日々血と汗を流して、顧客に頭をさげてさげてさげまくって、工場の油臭い中、夏の暑さにも冬の寒さにも耐え、やっとの思いで動き出したこの事業。あるとき、いろいろな部署のよく知らない担当者から、どういう基準なのか知らされないまま何かをチェックされて、あれはダメだ、これはダメだと判断されてしまう。このままでは事業を進められない……。
監査を受けるときの心境に似ているかもしれません。しかし、監査の場合は、財務監査とか工場監査とか目的が明確ですし、それを通過するために準備をするのでかえってそれが事業を進化させることにもなります。また監査は比較的一般的なものとして、仕方ないこととして受け入れられますが、ステージゲート法(※)で事業性をあらゆる面からチェックし、場合によっては投資を止めると言われた日には、おだやかではありません。
アルゴマーケティングソリューションズが2019年に提供開始した新規事業の事業開発理論「チェックゲート式」メソッドはステージゲート法がベースになっています。ステージゲート法は、もともとはアイディアを絞り込んでいくロジックです。もちろん、これにより成功確率は高くなりますし、事業への経営資源(ヒト、モノ、カネ、時間、情報など)の無駄な投資や投資の失敗を防ぐことができます。
しかし、私たちはこれを「事業を絞り込むロジック」ではなく、「事業を育てるロジック」として、企業内の新規事業開発やスタートアップ企業向けに最適化してきました。その背景には、私を含め、実際に企業内ベンチャーで、ステージゲート法での絞り込み(=どの時点で事業撤退するか見極めること)をされる側を経験した者が当社コンサルタントして活動しているからです。
その企業内ベンチャーは、事業の成長を望まれていないわけではなかったと思いますが、「撤退を見極める」ための評価軸ですべてが判断されるという状況下では、事業がうまくいっていても、つねにリスクを問われたり、最悪のシナリオを想定させられたりしてきました。その中で生き残るべく、常に説得力のある数字とシナリオを作りあげ、事業運営を担当してきました。そして、実際に数十件あった事業の中で、唯一生き残った事業となりました。
事業が生き残ったのは、ステージゲート法による管理のおかげでもあったといえますが、必ずしも、事業を担当している私たちのための手法ではなく、管理する側のものだということは常々感じていました。
ステージゲート法とチェックゲート式の違い
すでに本来のステージゲート法を学び、実務で活用している人は、企業の中で事業を実際にやっている人ではなく、事業をやっている組織を管理している人たちであることが多いと思います。部署でいえば、経営企画部門や財務部門、新事業管理部門といったところになるでしょうし、独立系ベンチャー企業の場合であればファンドを管理しているベンチャーキャピタルの人たちがそれにあたるでしょう。あるいは、M&Aの際に事業を買う側の意志決定組織が、かなりの初期段階での判断に使われるかもしれません。
冒頭のシーンを実際に経験した側としては、ステージゲート法なんて「くそくらえ」(このような表現で失礼いたします)と本気で思っていました。しかし、実はこのステージゲート法の細かな項目はよくできています。事業をやる上では真っ当で「ごもっとも」な内容なのです。そこで、逆手にとってこれまでの事例や経験から体系化し、「事業を育てる」武器にしたのがアルゴ流ステージゲート法「チェックゲート式」メソッドです。
「チェックゲート式」メソッドは、管理する組織ではなくて、実際に事業をやっている方に役立ててもらうためのものです。この立ち位置の違いが、もともとのステージゲート法とアルゴ流ステージゲート法の大きな違いです。事業を管理する側から見たら「事業の絞り込み」のために使いますが、事業をやっている側からみれば「事業が切り捨てられないため」(=成長させるため)に使うのです。
事業の進捗度合いを「ステージ」と称した場面に分けて、各ステージごとにやるべきことを認識します。自分たちの事業をあてはめたとき、往々にして、いかに的確な答えを持っていないかということに気づきます。このことがまさに大切なのです。事業をやっている側からしてみると、外部のいわゆる“頭でっかち”な人にいちいち言われなくても、自分たちのできていないこと、弱点を、実は知っているのです。でも「知っている」ことと「理解している」こと、そして「対処している」こととは、それぞれ全然違います。
誰でも使えるツールに
事業を運営するスピードは、日本が高度成長期に入るとき、つまり今問題になっている事業承継で今の経営者の方々が事業を始めたときと、今とでは全く違います。弱点は即対処しなければ、あっという間に競合やその他周辺の問題でやられてしまいかねません。弱点の把握がずれていたり、不明確であったりすると、その対処もずれるかあいまいになります。おおよそ対処したという程度では、もしかしたらあと一歩のところのほころびが致命的なものになるかもしれません。だから可能な限り早く的確に弱点を把握し、課題として明確にしておくこと、さらに適切な対処をすることが必要なのです。その際にこのアルゴ流ステージゲート法「チェックゲート式」メソッドを使うと、明瞭かつコンパクトにそれが可能になります。
実際にはこういったことをやったことがない人にとっては、ちっともコンパクトではないと思うかもしれませんが、たとえば中期経営計画を策定するコンサルティングをしっかり受けるとなると、それだけで気の遠くなるような作業が待っていたりします。それに比べれば、ステージゲート法は肝の部分を全部カバーしながら本質的なところを描き出しますので、非常に効率的です。そしてこれはいろいろな場面で使えるのです。事業全体を見渡して事業計画をしっかり作っていくプロセスにももちろん使えますし、その事業計画の出発点になる売上計画を策定するベースとしての販売戦略構築の際にもこれを応用できます。
チェックゲート式メソッドの活用方法やディスカッションの機会を提供するために、当社では新規事業実務研究会を立ち上げました。大企業の新規事業だけでなく、もっと小さい事業単位での事業開発プロセスに、誰でも簡単にこれを応用できるようになってほしいと考えています。そうすることで、新規事業が日本でもっとたくさん生まれ、強い企業、息の長い企業に育っていく、新しい時代の到来に期待を寄せています。
※1980年代にカナダのロバート・クーパー教授が開発。多くの製品や技術開発テーマを効率的に絞り込んでいく方法論といわれている。
プロフィール
株式会社アルゴバース
代表取締役社長 瀧田 理康
東京理科大学卒。自動車関連部材メーカーで、事業企画担当に抜擢され、本部長直下で一人で事業企画を担当。全国の販売会社、子会社と本社との橋渡し、各種会議、社長会、イベントのファシリテーションを行う。軌道にのったところで、社内ベンチャーの立ち上げメンバーに指名され一からやり直し。行ったこともなかったシリコンバレーや欧州への売り込みから工場生産管理まで行い、利益率20%の事業まで作り上げた。独立性が高く事業価値が高かったため、最終的に事業売却となる。アルゴバースでは、新規事業開発、広報・PR&販促の分野で技術がわかる点を強みに、BtoB企業のクライアントを広げている。事業売却とそれに至った経験と理論を体系化して、新規事業開発の支援を本格稼働。単なるコンサルティングではなく、最終的に実務を伴うソリューション提供をモットーとしている。
・中小企業診断士、リスクマネジメントプランナー(一般財団法人リスクマネジメント協会)、PRプランナー(PRSJ)
・著書は「新規事業開発」「経営基本管理/マーケティング」(ともに日本マンパワー出版)等
・2020年、「新規事業実務研究会(旧:ステージゲート法実践会)」立ち上げ
Webサイト:株式会社アルゴバース
- 第6回 顧客価値を考える
- 第5回 ステージゲート法を誰でも使える武器に
- 第4回 「事業を見えるようにする」ことで事業を推進する
- 第3回 イノベーションの意味を知ろう
- 第2回 事業推進のためのカギを見つけるまで
- 第1回 成長の方向性を考える