知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

第3回

くまモンが一緒に写っている旅行写真は著作権侵害なの??~写り込みにまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

熊本での楽しい社員旅行、スナップ写真の背景にはあのくまモンが!

中堅建設会社のイノベーション工務店。長い不況のため、ここ数年は新卒の採用を控えてきましたが、公共事業の増加とアベノミクスの影響により、業績回復に明るい兆しが見えてきたため、この春は久々に元気な新入社員が入社してきました。

営業部に配属されたA山さんは、先輩社員に連れられてB部長に挨拶にやってきました。緊張しているAさんを笑顔で迎えたB部長は、自分が新入社員だった頃を思い出し、A山さんに話しかけました。
B部長  「A山くん、がんばってくれたまえ。なあに私にも新入社員だった頃があってね。仕事はまるっきりわからなかったから部旅行の幹事なんかでがんばったものだよ。」
A山さん 「部旅行ですか??」
B部長  「最近は不景気で部旅行はなくなったんだけどね。当時はバブル全盛期だったから、高級温泉旅館で乱痴気騒ぎをしとったわけだ。」
A山さん 「ラ、ランチキですか??」
B部長  「・・・そうだ!会社の業績も明るい兆しが見えてきたし、久々に部旅行を復活させるか!A山くん、幹事を頼んだよ!」

営業の仕事を覚えるよりも先に、部旅行の計画をまとめることになったA山さん。部員のアンケートで行き先は熊本に決まり、高級温泉旅館とまではいきませんでしたが、おしゃれなリゾートホテルでの楽しい1泊2日の部旅行となりました。

部旅行を成功させたA山さんの評判はうなぎ上りです。社内のイントラネットに旅行写真をアップロードすると、その写真を見た他の部の人からも「よっ!未来の社長!うちの部の旅行も企画してくれよ!」とひやかされています。そんなある日、“イノベーション工務店のロッテンマイヤーさん”と異名をとる総務担当のC子さんから内線電話が入りました。
C子さん 「もしもしA山さん?社内WEBの旅行写真見たんですけど。」
A山さん 「ありがとうございます!おかげさまで好評をいただきまして。」
C子さん 「そうじゃないのよ。スナップ写真の背景にくまモンの看板が写ってたでしょ。」
A山さん 「はあ、熊本にはそこらじゅうにくまモンがいますんで。」
C子さん 「ダメよ、あなた!これは著作権侵害よ!すぐに写真を削除しなさい!!」
A山さん 「でも・・・。熊本でくまモンが写らないように写真を撮るなんて無理ですよ・・・。」

 

くまモンが写った写真をWEBにアップロードする行為は是か非か!?

みなさんも旅行などで写真を撮ったときに、背景に看板やポスターが写ってしまった経験はあることと思います。看板やポスターに描かれているアートワークは通常は「著作物」であり、それを制作したクリエイターには一般的には「著作権」が帰属していることとなります。ということは、その看板やポスターを勝手に写真におさめることは、その写真を個人で楽しむような場合を除いては、著作権侵害となってしまいそうです。ロッテンマイヤーさんが言うとおりに、背景にくまモンの看板が写っている写真を、社内WEBにアップロードしたA山さんの行為は、許されることではないといえるかもしれません。

しかし、街のいたる所に企業の広告が氾濫している現代社会において、街中でシャッターを切って、背景に看板やポスターが写らないようにすることはかなり至難の業といえます。クリエイターの著作権を保護することは大切なことですが、写真の背景にたまたま著作物が写ってしまった場合まで、すべていけないこととしてしまったら、友達と気軽にスナップ写真も撮れず、かなり住みにくい社会になってしまうのではないでしょうか。

写り込みの場合は著作権侵害にはならないのです!

ということで、本年1月から法律が改正され、写真や映像を撮影する場合に、背景に看板やポスター、あるいは着ぐるみなどの著作物が写り込んでしまったときは、著作権者の許諾がなくても著作権侵害とせずに、その写真や映像を後にブログなどにアップロードしてもOKということになりました。

ただ、法律には、その看板などの著作物が、その写真の中で「軽微な構成部分となるものに限る」とされています。つまり、看板がすてきだからといって、写真の真ん中に大きく写してしまったりしてはいけません。着ぐるみとのツーショット写真も、個人で楽しむ目的以外では注意が必要といえるでしょう。また、この写り込みの写真や映像が、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」も、著作権侵害の例外から除かれています。

知り合いの行政書士からこの法改正の話をきいたA山さんは、自分の行為が著作権侵害ではないことを、総務部長に説明に行くと、「旅行の幹事だけじゃなくって法律にもあかるい若者だな。優秀、優秀。」と感心され、A山さんの評判はますますうなぎ上りとなりました。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
 
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。