知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

第9回

テレビドラマ「半沢直樹」の著作権者はTBSだけなの!?~二次的著作物にまつわる話

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所  堀越 総明

 

テレビドラマの再放映の許諾はテレビ局だけにもらえばいいの??

中堅広告代理店A社のバブル入社組の一人B次長。大手広告代理店を出し抜く大きな企画をこれまでにいくつも通してきた実績がある一方、上司を上司とも思わぬ言動が多く、社内では良い意味でも悪い意味でも目立っている有名人です。
最近では、ドラマ「半沢直樹」の大ヒットを受けて、「オレのやり方が認められた!」と勘違いし、先日は仕事の失敗を認めない上司を責め上げた上、幹部会に乱入してその上司に謝罪を要求する始末です。なんでも会議室の外までB次長の「やれ~っ!」という絶叫が響き渡っていたそうです。
ある日、B次長は、C事業部長から呼び出され、役員フロアに向かいました。

C事業部長 「どうした、B次長!?いきなりそんなに私をにらみつけて。」
B次長 「・・・出向ですかっ!?」
C事業部長 「君はドラマの見過ぎだね・・・。実は、幹部会で「半沢直樹」のロケ地でドラマの再放映会をやるっていう企画が持ち上がってね。この企画は、我社の“半沢直樹”にやらせようってことになったんだよ。よろしく頼むよ。」 

早速、B次長はテレビ局に行き、担当者のDさんと打ち合わせをしたところ、企画は好評で、“「半沢直樹」再放映会@ロケ地”の開催は、とんとん拍子に決定しました。
テレビ局との打ち合わせを終えたB次長は、会社に戻ったところ、エントランスの前で、同期入社で法務担当のE課長にばったり会いました。

E課長 「おっ、Bじゃないか!今度の再放映会の企画、噂になってるぞ。」
B次長 「今日、打ち合わせだったんだ。テレビ局のOKもらってきたぞ!」
E課長 「やるなあ。でも、テレビドラマの著作権は、確かテレビ局だけじゃなくって、脚本家やドラマの原作を書いた小説家にもあるんじゃなかったっけ?」
B次長 「えっ、でもドラマの最後には「製作著作・TBS」という表示しかないぞ。」
E課長 「ああ、それはそうなんだけど。」
B次長 「何がそれはそうなんだけどだ!剣道場に付き合え!!」
E課長 「・・・・・やだよ。」

原作をもとに創作された著作物は「二次的著作物」といいます

さすがは法務担当のE課長。ドラマ「半沢直樹」に関するテレビ局と原作者や脚本家との間の実際の契約関係はわかりませんが、一般的に、テレビドラマの利用には、E課長の言うとおりに、原作者や脚本家等の許諾も必要と考えられているのです。

著作権とは、原則として著作物を創作した人に発生します。つまり、イラストを描けばそのイラストを描いた人が、音楽を作曲すればその作曲をした人が、著作者となり、その人に著作権が発生します。その著作物が完全にオリジナルなものであれば、これだけの話で何の問題もありません。
しかし、世の中の著作物は、完全にオリジナルなものばかりではありません。誰かがすでに創作した著作物をもとに、新しい創作性を加えて、別の著作物を創り出すということも、よくあるわけです。そうして創り出された著作物のことを「二次的著作物」といいます。

その二次的著作物の代表例のひとつが、「翻訳」です。本屋さんにたくさん並んでいる外国の小説ですが、これには原語で書いた小説家がいて、それを日本語に翻訳した翻訳家がいるわけです。「翻訳」はただ機械的な作業で原語に日本語をあてはめていけば出来るものではありません。原語の表現を理解した上で、新たに日本語で表現し直す創作性が求められるので、翻訳家はその翻訳物の立派な著作者となり、その翻訳家に著作権が発生することになります。
しかし、小説の翻訳物がいくら独自の著作物だといっても、原語の小説がなければ絶対に生まれてこなかったわけですから、その小説の翻訳物に対して、原語の小説家の権利がまったく及ばなかったら、これはおかしいことになってしまいます。そこで、法律では、小説の翻訳物を「二次的著作物」とし、原語の小説(原著作物)の著作者である小説家にも、その翻訳物の利用に関して、翻訳家と同一の種類の権利が及ぶようにしたのです。

テレビドラマには原作者や脚本家の権利も及ぶのが原則です!

これをテレビドラマにあてはめてみると、まずは原作の「小説」があり、その二次的著作物としてドラマの「脚本」ができ、その脚本の更なる二次的著作物として、映像作品である「テレビドラマ」が制作されたということになります。つまり、テレビ局が原作者や脚本家と特別な契約をしていない限り、テレビドラマの再放映をするためには、E課長の言うとおりに、テレビ局の他、原作者と脚本家の許諾も必要となるのです。よくテレビドラマの最後に「製作著作」としてテレビ局名が表示されるのは、あくまでも「二次的著作物」であるテレビドラマに限っての著作権がテレビ局にありますよ、という意味なのでしょう。

さて、E課長から著作権のレクチャーを受けたB次長は、テレビ局に問い合わせて、原作者や脚本家等からの利用許諾を無事クリアしていることを確認し、イベントを成功のうちに終わらせることができました。しかし、E課長からは、「著作権のレクチャー料をビールで倍返しにしてくれ~!」と、毎日飲みに誘われて、困り果てています。


※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。

※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

 

ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)

日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役


「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。

特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。

現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。

また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。


○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
 
【著書】

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弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。

知らなかったでは済まされない著作権の話 vol.2

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