第5回
お店のBGMの著作権使用料を払っていても著作権侵害になってしまうの??~支分権にまつわる話①
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所 堀越 総明
カフェ「イノベーション」では団塊世代の心を熱くする新しいBGMが!!
脱サラして、愛妻のB子さんと仲良くカフェ「イノベーション」を経営するA男さん。前回のコラムでご紹介したように、店内BGMとして、由紀さおり「夜明けのスキャット」のCDを流したところ、団塊世代のお客様に熱い支持を得て、その後もお店は連日大いに賑わいをみせています。
B子さん 「あなたが脱サラしてカフェを始めると言ったときは不安だったけど、お店がこんなに大繁盛して本当に良かった・・・。」
A男さん 「本当、B子のおかげだよ!あとこの由紀さおりさんの歌声のおかげ!お客さんも心から癒されている感じだね。」
B子さん 「JASRACにもBGMの著作物使用料をちゃんと払ったしね。安心安心。」
そんなある日、A男さんは、毎日同じCDばかりでは飽きると思い、たまにはラジオでもかけてみようと、チューナーのスイッチを入れると、店内には、ザ・ベンチャーズの「パイプライン」が軽快に流れてきました。
テケテケテケテケテケテケテケテケテ♪
B子さん 「あ、あなた・・・。あのお客さん、興奮してる。。。」
A男さん 「ほ、本当だ。」
B子さん 「・・・あ、あのお客さんは、エアギターしてる。。。」
バリエーションが勝負のカフェのBGM、強い味方はiPod??
その様子を見たA男さんは、すぐにザ・ベンチャーズのCDを買いに行き、次の日から、お店で、そのCDをかけ続けました。すると、これまでとお店の雰囲気は一変し、団塊世代のお客様が、青春時代を思い出し、熱くエアギターを競い始めるようになりました。「あなた、活気があって最高の雰囲気ね!」と喜ぶB子さん。
しかし、これまで「夜明けのスキャット」を楽しみにしていたお客様には不満がつのります。「マスター、『夜明けのスキャット』も聴かせてくれよ。」というお客様の言葉に、A男さんは悩みました。そんなとき、B子さんに良いアイデアが浮かびました。
B子さん 「あなた、iPodに『パイプライン』と『夜明けのスキャット』の両方をコピーして、交互にBGMで流せばいいのよ!」
ル~ル~ルルル~♪ラ~ラ~ラララ~♪
テケテケテケテケテケテケテケテケテ♪
ル~ル~ルルル~♪ラ~ラ~ラララ~♪
テケテケテケテケテケテケテケテケテ♪
B子さんのアドバイスを受けて、A男さんが早速iPodを使ってBGMを流し始めると、カフェのお客様は大満足です。「これで『夜明けのスキャット』で泣いて、『パイプライン』で熱くなれるぞ。マスター、ありがとう!」お客様に感謝の言葉をいただき、上機嫌のA男さんとB子さんでしたが、ある日2人のもとに一通の内容証明郵便が届きました。
A男さん 「お店のBGMがちょ、ちょ、著作権侵害???」
B子さん 「あなた、そんなことないわよ!私たちちゃんとJASRACにお金払ってるじゃないの!!」
著作権は色々な権利の総称で、その一部のみをライセンスすることもできるのです!
「店内BGMでお気に入りの音楽をかける場合はJASRACに著作物使用料を支払えばいいはずでは??」と、お仕事でお店にBGMを流した経験がある人は、不思議に思われるかもしれません。確かに、A男さんとB子さんは店内BGMのための著作物使用料をJASRACに支払っています。それではなぜ、2人のところに著作権侵害を主張する内容証明郵便が送られてきたのでしょうか。
みなさんも、普段何気なく、「著作権を侵害した」「著作権を譲渡する」「著作権のライセンスを受ける」というような言い方をしていることと思います。もちろんこれは間違いではありませんが、実は「著作権」という権利は、複製権、上演権、演奏権、公衆送信権、口述権、展示権、譲渡権、貸与権などといった様々な権利(これらを支分権といいます)に分かれていて、「著作権」という言葉自体は、これらの権利の総称にすぎないのです。そして、著作権を譲渡したり、ライセンスしたりするときは、これらの権利すべてをまとめて行うこともできれば、「上演権だけを譲渡する」とか「展示権だけをライセンスする」ということもできることになっています。
iPodなどに勝手にコピーした音楽をカフェのBGMで流すのは著作権侵害です!!
実は、A男さんとB子さんが、お金を支払ってJASRACから受けた許諾は、「店内BGMとして、市販の音楽CDなどを再生すること」についての権利(演奏権の一種)に対してであって、「市販のCDに収録されている楽曲をiPodのような携帯音楽プレーヤーにコピーすること」についての権利(複製権)に対して許諾を受けているわけではないのです。
もちろん自分で買ったCDをiPodなどにコピーすることは、それを個人的にまたは家庭内で使用する場合であれば、「私的使用」として自由に認められています。しかし、コピーした楽曲をお店のBGMとして使用する行為は、「私的使用」の範囲にはあたらないため、いくらJASRACにお金を支払っていても、これとは別に、楽曲の著作権者や歌手やレコード会社などの権利者に複製権についての許諾をもらわないと、立派な著作権侵害となってしまうのです。
知り合いの行政書士に相談したA男さんとB子さんは、iPodでのBGMをあきらめたものの、団塊世代のお客様の熱い要望に応えるため、今度はオートチェンジャー機能のついたCDプレーヤーを購入し、今日もカフェ「イノベーション」では「夜明けのスキャット」と「パイプライン」のBGMが交互に流れています。
※コラムは執筆時の法令等に則って書いています。
※法令等の適用は個別の事情により異なる場合があります。本コラム記事を、当事務所に相談なく判断材料として使用し、損害を受けられたとしても一切責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。
ボングゥー特許商標事務所/ボングゥー著作権法務行政書士事務所
所長・弁理士 堀越 総明 (ほりこし そうめい)
日本弁理士会会員
日本弁理士会著作権委員会委員
(2020年度は委員長、2019年度は副委員長を務める。)
東京都行政書士会会員 東京都行政書士会著作権相談員
東京都行政書士会任意団体著作権ビジネス研究会会員
株式会社ボングゥー代表取締役
「ボングゥー特許商標事務所」の所長弁理士として、中小企業や個人事業の方々に寄り添い、特許権、意匠権、商標権をはじめとした知的財産権の取得・保護をサポートしている。
特に、著作権のコンサルタントは高い評価を受けており、広告、WEB制作、音楽、映画、芸能、アニメ、ゲーム、美術、文芸など、ビジネスで著作物を利用する業界の企業やアーティスト・クリエイターを対象に、法務コンサルタントを行っている。
現在、イノベーションズアイにて、コラム「これだけは知っておきたい商標の話」、「知らなかったでは済まされない著作権の話」の2シリーズを連載し、また「ビジネス著作権検定合格講座」の講師を務める。
また、アート・マネジメント会社「株式会社ボングゥー」の代表取締役も務め、地方公共団体や大手百貨店主催の現代アートの展覧会をプロデュースし、国立科学博物館、NTTドコモなどのキャラクター開発の企画を手掛けた。
○ボングゥー特許商標事務所
https://www.bon-gout-pat.jp/
○ボングゥー著作権法務行政書士事務所
https://www.bon-gout-office.jp/
【著書】
「知らなかったでは済まされない著作権の話」(上)・(下)
上巻:https://amzn.to/2KB8Ks5
下巻:https://amzn.to/2rV7qcG
弁理士が、“ありがちな著作権トラブル”をストーリー形式で紹介し、分かりやすく解説していく1冊です。
法律になじみのない人でも読みやすく、“ここだけは注意してほしい点”が分かる内容となっています。
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