建築物の保護は著作権?意匠権?
A: 著作権と意匠権との相違点を要説しつつ、建築物の保護に関する相違点を説明します。
著作権と意匠権との相違点
保護対象
著作権法は、小説、音楽、美術、建築などの著作物を保護し、文化の発展に寄与することを目的とするものであり、そのため、主に芸術作品を保護対象としております。
これに対し、意匠法は、工業デザインの創作を奨励し、産業の発展に寄与することを目的とするものであり、そのため、主に実用品を保護対象としております。
著作権法と意匠法の保護対象の境目は明確なものではなく、こけしなどの伝統工芸品は著作権及び意匠権の両方により保護されることがあります。
無方式主義と方式主義
著作権法では権利の発生に手続きを必要としない「無方式主義」を採用しており、著作権は創作した時点で自動的に権利が発生します。
これに対し、意匠法では権利の発生に手続きを必要とする「方式主義」を採用しており、意匠権は図面等を添付した出願書類を作成して特許庁に提出し、審査を経て登録されなければ権利が発生しません。
相対的独占権と絶対的独占権
自分の創作した建築物と似た建築物が存在した場合、著作権も意匠権も差止請求、損害賠償請求などの権利行使をすることができます。
著作権では、複製権侵害といえるためには、依拠したことが必要と解されています。依拠とは簡単に言えばマネしたということです。例えば、建築物Bが建築物Aに似ていたとしても「建築物Bは独自に創作したもので建築物Aの存在は知らなかった」と主張すれば複製権侵害を逃れることもあります。このように、似ていてもマネしてなければ権利侵害とはいえないので、著作権は「相対的独占権」ともいわれます。
これに対し、意匠権では、登録意匠と同一又は類似であれば意匠権侵害になります。上記例において、「建築物Bは独自に創作したもので建築物Aが意匠登録されていることは知らなかった」と主張しても意匠権侵害を逃れることはできません。このように、マネしてなくとも似ていれば権利侵害となるので、意匠権は「絶対的独占権」ともいわれます。
また、意匠権は登録されれば意匠公報が発行されて、権利内容が公示されますので、牽制効果も期待できます。
保護期間
著作権の保護(存続)期間は原則として著作者の死後70年です。例外として団体名義などの場合は公表後70年です。
これに対し、意匠権の保護(存続)期間は最長で出願日から25年です。その途中で、維持年金の未納などにより意匠権が消滅することもあります。また、無効審判により意匠登録が無効と判断されることもあります。
著作権で保護される建築物と意匠権で保護される建築物の相違点
著作権
著作権法では、保護対象として建築の著作物が明記されていますが、この建築はいわゆる建築芸術というものを指すと解され、「宮殿・凱旋門などの歴史的建築物に代表されるような知的活動によって創作された建築芸術と評価できるようなものでなくてはなりません」(1)。例えば、法隆寺の五重塔、国会議事堂、迎賓館などが現在に建造されたものであれば著作権で保護されるといえるでしょう。
意匠権
意匠法では、保護対象の意匠に建築物も含まれることになり、新規性・創作容易性などの登録要件を満たせば、一般住宅・ビル・店舗などでも意匠権で保護されます。つまり、従来にない外観の建築物であれば、芸術性を備えるとはいえなくとも意匠権による保護が可能です。例えば、高層オフィスビルなどの建築物は著作権法の保護対象とはなりにくいですが、意匠権では保護されることもあります。
なお、建築物でもユニットを組み合わせて建築する組立家屋は従前から意匠権による保護が認められており、登録例も数多あります。
また、改正意匠法では、店舗やオフィスなどの建築物の内装についても、家具や什器等の複数の物品の組合せや配置、壁や床等の装飾により構成される内装が、全体として統一的な美感を起こさせるような場合は、意匠権で保護されるようになりました。
著作権と意匠権の相違点を踏まえて
芸術性を備えている建築物は、場合によっては、意匠権及び著作権の両方からの保護が可能であり、意匠権の保護期間が終了しても、著作権により保護されることもあり得ます。
建築物は意匠法によっても保護されるようになり、一般住宅・ビル・店舗などでも保護され、しかも内装も保護されるようになりました。建築物の多面的な保護が可能になり、建築物を設計した場合には、どのような保護が適切かを検討する必要があります。
令和元年度 日本弁理士会著作権委員会委員
弁理士 栗原 弘
※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。
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