ビジネスの著作権

グラフィックデザイナーにロゴなどの制作を依頼するときの注意点について

弁理士の著作権情報室

企業活動の中で、グラフィックデザイナーに「ロゴ」や「シンボルマーク」「イラスト」といったグラフィックデザインの制作を依頼することがあります。依頼主である企業は、その対価を支払うことで、グラフィックデザインの納品を受け、企業活動においてそのグラフィックデザインを使用するわけですが、著作権法上、どのような注意点があるのでしょうか。

グラフィックデザイナーにロゴなどの制作を依頼するときの注意点について

著作権の譲渡を受けるかどうか


著作権法によって保護を受けるためには、そのグラフィックデザインが「著作物」に該当する必要があります。タイプフェイスや文字ロゴは、一般的に著作物とはなりませんが、たとえば「書」や「絵画」といえるものであれば、著作物に該当することが多いと考えられます。

以下、グラフィックデザイナーに依頼したグラフィックデザインが「著作物である」という前提で考えてみます。

著作権は、著作物を創作した人が保有するのが原則です(「職務著作」という例外がありますが、本稿では割愛します)。完成したグラフィックデザインは、依頼者に納品されますが、納品を受けただけでは、その著作権は、著作物を創作した人のもとに残ります。

著作権を譲り受けない場合、依頼主は、納品を受けたとはいえ、その著作物の利用を許諾されているに過ぎないことになるため、どの範囲での利用が可能であるかを、予め契約書で明確にしておくことが賢明であると言えます。

単に印刷物としてコピーするだけなのか、インターネット上に掲載することもありうるかというのも、確認しておく必要があります。

また、依頼者が著作権を譲り受ける場合、できあがった作品それ自体のみの著作権を譲り受けるのか、あるいはその作品に何らかの変更を加える権利までを譲り受けるかというのは、予め合意をしておかないと、将来問題になることがあります。このため、依頼主においては依頼前に予め検討をし、必要に応じて依頼の段階で協議をし、契約内容に明確に盛り込んでおくことが望ましいと言えます。

バリエーションの制作をどうするか


たとえば、企業のイメージキャラクターのイラストを制作してもらう場合、ある姿勢をとったキャラクターの絵として納品を受けることが一般的ですが、実際の利用に際して、姿勢や服装・表情等を変えることがあります。また、立体化したり、あるいは動画化したりすることもあります。このように、ある著作物に新たに創作性を加えて、変形・映画化等の創作をしたもののことを「二次的著作物」といい、二次的著作物を創作するときに問題になる権利を、「翻案権(ほんあんけん)」等といいます。

依頼主としては、納品物である作品を柔軟に利用できるようにするためには、「翻案権等」も譲り受ける旨を契約書に明確に盛り込んでおく必要があります。また、二次的著作物を創作すると、二次的著作物の著作者に発生する権利と同一の権利が、原著作者にも別途発生しますので、依頼主としては、これも譲り受ける旨を契約書に盛り込むべきです。

また、翻案権等を譲り受けた場合でも、依頼主において、創作者であるグラフィックデザイナーに無断で好きに変更を加えてよいかという問題が残るので注意が必要です。著作物を創作すると、創作者には「同一性保持権」という権利が発生し、これにより創作者は、自己の意に反する改変を禁止することができることになります。

この同一性保持権というのは、他人に譲渡することができない性質の権利ですので、たとえ依頼主が翻案権等を含めた著作権をまとめて譲り受けたとしても、同一性保持権までは譲り受けることはできず、結果として、著作権者といえども、同一性保持権を侵害するような改変を行うことは認められないことになります。これに対処する方法としては、⑴ 改変を創作者に依頼することの合意をする、⑵ 改変の前には創作者に確認をとることの合意をする、⑶ 同一性保持権を行使しない特約を契約書に盛り込む、といった方策があります。

こうした方策のどれが正解というものではなく、どのような合意内容にすることが妥当であるかは、当事者同士の関係性によっても変わってきますので、よく検討をする必要があります。

第三者の知的財産権を侵害していないか


このほか、依頼主としては、創作された作品が第三者の著作権や商標権、意匠権といった知的財産権を侵害していないことの確認をとるべきであるといえます。その著作物を利用したときに、まっさきに侵害の疑いをかけられるのは、その著作物を利用する依頼主だからです。

他人の著作物を参考にして似たような作品を作ってしまうと、もととなった他人の著作物についての著作権侵害になってしまいます。外国で創作された著作物であっても、マネをすると著作権侵害となりかねません。こうしたリスクを減らすため、注意的に契約書に保証条項を設けることがあります。

他の知的財産権による保護についての取り決め


グラフィックデザインの種類と用途により、それを商標として保護をした方が良い場合や、意匠として保護をした方が良い場合が出てきます。グラフィックデザイナーが、納品の段階で既に商標登録出願や意匠登録出願をしている場合も想定されますので、依頼の段階で、誰が出願をすることを予定するかについて取り決めておくと、紛争が生じにくくなります。

合意の範囲と対価について


以上に見てきたように、単にグラフィックデザインの制作を依頼するというときにも、検討・取り決めをすべき事項は多くあります。こうしたことを踏まえて、制作の対価を決めることとなりますが、著作権をどの範囲で譲渡するかで対価の額は変わってきます。著作物をそのままイラストとして使用する場合と、商標登録や意匠登録の対象としても用いる場合とでは、対価の額が変わってくることも想定されます。また、知的財産権の保護は国ごとになされますので、グラフィックデザイナーとの間の合意が、日本国内のみを想定したものなのか、あるいは外国でのことも織り込んだものなのかも、検討・取り決めをしておくことが、お互いに納得のいく取引に繋がるといえます。

令和2年度 日本弁理士会著作権委員会委員

弁理士 伊藤 大地

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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