ビジネスの著作権

キャラクターのぬいぐるみを店頭に展示することは著作権を侵害するか

弁理士の著作権情報室

街中を歩いていると、美容室や飲食店などの店頭に、キャラクターのぬいぐるみが置かれていることがあります。どことなくほっとする街の風景ですが、これを法的な目線で見てみたらどうでしょうか。著作権の専門家である弁理士が解説します。

キャラクターのぬいぐるみを店頭に展示することは著作権を侵害するか

キャラクターのぬいぐるみは著作物〜著作権には色々な権利がある|複製権・変形権・展示権について


著作物というのは、思想又は感情を創作的に表現したものであり、キャラクターのイラストは、著作物ということになります。そして、そのイラストを立体化したぬいぐるみは、そのイラストの著作物の複製物または変形物ということになり、イラスト同様に、著作権法で保護されるものです。

ぬいぐるみが著作物である以上は、著作権法で定められた一定の行為については、著作権者の許諾なく行うと著作権を侵害することになってしまいます。著作権法には、いくつもの著作財産権(いわゆる支分権)が定められていますが、キャラクターのぬいぐるみを店頭に展示することが問題ないかを検討するにあたり、「複製権」と「変形権」、そして「展示権」について見てみたいと思います。

まず、複製権というのは、著作物を有形的にそのまま再製することについての権利です。既存の著作物に依拠して、その内容や形式がわかる程度のものを再製すると、複製権を侵害することになります。ここで複製をするときの媒体は、紙、フィルム、磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、半導体チップなど、様々なものが当てはまります。よって、単にコピー機でコピーする場合はもちろん、カメラで撮影することも、ボイスレコーダーで録音することも、全て「複製」に当たります。

次に、変形権です。これは、既存の著作物を他の表現形式に変換することについての権利です。絵画の著作物を立体的に作り変えることは、「変形」に当たります(たいやきくん事件 東京地裁昭和52年3月30日判決参照)。

最後に、展示権というのは、美術の著作物または未発行の写真の著作物の「原作品」を公に展示することについての権利です。オリジナルの絵画や彫刻などの美術作品を公に展示をすると、展示権を侵害することになります。しかし、これには例外があって、オリジナル作品の所有者と、その所有者から同意を得た場合には、オリジナル作品を公に展示をすることが認められています。また、展示権は「原作品」について関係する権利なので、レプリカなどの複製物については、展示権が及びません。

自作のぬいぐるみの展示は問題あり


それでは次に、キャラクターのぬいぐるみを自分で作った場合を考えてみたいと思います。ぬいぐるみを手作りするというのは、著作権法の視点から言えば、著作物を複製又は変形することに該当します。この複製又は変形が、著作権者の許諾を得ることなくされたものである場合、著作権を侵害することとなります。

ここで、自分のお店に展示するために作っているのだから「私的使用のための複製」で問題ないのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここにいう「私的」の範囲というのは狭く解釈されるものです。店頭に飾るためということは、事業の一環として用いるためである以上、そのためのぬいぐるみの制作(複製又は変形)は、「私的使用のため」にされるものとは言えないものと考えられます。よって、許諾なくぬいぐるみを制作すると、他人の著作権を侵害するものとして責任追求を受ける可能性があります。

もっとも、何かのキャラクターを真似して作ってみたものの、残念ながら上手には作れず、元としたキャラクターをモチーフにしたらしき何か異形の別物が出来上がった場合、もはや複製でも変形でもないため、著作権法上は問題ありません。

問題は、当初はあくまでもプライベート目的である程度上手に作っていたものを、後になって店頭に飾るようになった場合です。

この場合、制作当初は私的使用のための複製ないし変形ということになり、著作権法上、その時点では問題ありません。しかし、店頭に飾るということは、公に提示をすることになりますので、店頭に飾った時点で私的使用のためにした複製物・変形物の目的外使用ということになると考えられます。目的外使用になる場合、著作権を侵害したものとみなされてしまうので、注意しましょう。

なお、当然のことながら、著作権者から許諾を受ければ、事業の一環としてぬいぐるみを自作することは問題なくなります。

購入したぬいぐるみを展示することは問題ない


前記のように、キャラクターのぬいぐるみは、著作物の複製又は変形であるため、著作権が及んでいるものですが、公式のルートから購入したものであれば、複製権と変形権の問題はクリアされている商品と考えられます。

また、通常、そのぬいぐるみは量産品であると考えられますので、オリジナルではなく、展示権は及びません。さらに、仮にそのぬいぐるみが特注の一点制作者であったとしても、購入しているのであれば所有権を譲り受けていることになりますので、同様に展示権は及びません。

よって、購入したぬいぐるみを店頭に展示することは問題ないものと考えられます。

店頭の写真をインターネット媒体に載せる時には要注意


以上見てきましたように、キャラクターのぬいぐるみに関しては、著作権法上気をつけるべき点があります。

しかし実は、気をつけるべきことはこれらのみではありません。キャラクターのぬいぐるみが写っている写真を撮影して自社のウェブサイトやSNSなどに掲載すると、今度は公衆送信権という別の権利についても考える必要が出てきます。

これは、前述の目的外使用とも関わってくるもので、うっかりやってしまいがちな例と言えるでしょう。店頭の写真を撮影してインターネットにアップするときには、こうしたものが堂々と写らないよう、注意して撮影をして頂きたいと思います。

令和3年度 日本弁理士会著作権委員会委員長

弁理士 伊藤 大地

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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