注目判例・法改正・書評

人に撮ってもらったスナップ写真って自由に利用してもよいの?

弁理士の著作権情報室

スナップ写真がらみでこんなことがありました


ノンフィクション作家が、自分が書いた「東京アウトサイダーズ」という題名の本に、その本の中で登場する人物(故人)のスナップ写真(故人が屋外で長男である乳児を抱いている写真)を、その故人の友人から入手して使用しました。これに対し、このスナップ写真を撮った故人の妻が、その作家及びその本の出版社に対して著作者人格権及び著作権侵害に基づく損害賠償請求等をしました。そして、勝訴しました。この事件では皆さんに参考になることが数多くあると思います。

人に撮ってもらったスナップ写真って自由に利用してもよいの?

スナップ写真でも著作物?


この裁判で、作家らは、スナップ写真に関して、その著作物性*(著作権法で保護されるための前提条件)を肯定するためには、「 露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等に工夫を凝らしたということによる創作性が認められなければならない」と主張しました。つまり、プロが撮ったような写真でなければ著作物性はない、写真の素人である故人の妻がごく日常的な場面で無造作にある瞬間をとらえてシャッターを押しただけのスナップ写真には著作物性がないと主張しました。しかし、この裁判では、このようなスナップ写真であっても、「被写体の構図やシャッターチャンスの捉え方において撮影者の創作性を認めることができ、著作物性を有するものというべきである」と言いました。そして、このスナップ写真の著作物性を肯定しました。

このように、スナップ写真でも多くの場合著作物性が認められますので、スナップ写真を利用しようとするときは、著作者人格権及び著作権侵害にならないように気をつけましょう。
*著作物性については、この「他人が撮った写真の構図を真似して撮影しても良いのか?実例から見る被写体別の判断基準【写真家・カメラマン向け】」も参照。

写真の著作者・著作権者等は誰?


写真(著作物性のあるもの。以下同じ)の著作者は、基本写真を撮った人です。そして、この写真の著作者人格権はこの写真を撮った人(著作者)に帰属します。また、これの著作権も、まず写真を撮った人(著作者)に帰属します。従って、自分のカメラであっても、他の人に自分達を撮ってもらったような場合は、この写真の著作者は、基本撮影を頼んだ人ではなくその写真を撮った人です。ですから、他の人に写真を撮ってもらったときは、その後この写真について著作権法上の利用*の可能性がある場合は、写真を撮ってもらった人に許可をもらっておいたほうが良いです。
*著作権法上の利用については、この「弁理士の著作権情報室」の「どんなことをしたら著作権(著作財産権)侵害になるの?」を参照。

写真の所有権と著作者人格権*・著作権


プリントされた写真・写真データ(写真の複製物)という物理的な物についての支配をする権利である所有権(物権)とその現像した写真に表現されている写真を撮った人の思想・感情を創作的に表現したもの(表現された具体的な物でなく、表現されている精神的・抽象的なもの(無体物))を保護する著作者人格権・著作権(無体財産権)とは法律的に保護の対象とする側面が異なります。

他の人に撮ってもらった写真の複製物を持っていた場合、その写真の複製物の所有権者は、その写真の複製物の所有者です。従って、この写真を例えば個人的にあげることは可能です。しかし、前述のように、その写真の著作権等は撮影者に帰属したままです。従って、写真の複製物の所有者であっても、その写真に関し、撮影者の許可なく著作権法に触れるような利用はできません。撮影者の許可なくその写真をSNS上にアップしたりすると、著作権の一つ公衆送信権の侵害になります。また、撮影者の許可なくその写真を雑誌・本などに掲載したりすると著作権の一つである複製権の侵害になります。

冒頭の事件でも、裁判所は、故人が写っている写真をこの本の出版のために故人の親友より正当に入手したのだとしても、このことは、故人の親友が本件写真の複製物を正当に所有していたこと(所有権があったこと)を示すだけであり、それが、その写真を撮った故人の妻(著作権者)がこの写真の著作権を故人等に譲渡したことを意味することにはならないと言いました。

つまり、撮ってもらった写真を正当に持っているからといって、そのことだけでは、著作権を承継していることにはならないということです。勘違いしがちですが、気をつけましょう。

人に撮ってもらったその写真を個人的に人に見せたり個人的に人にあげたりするような場合や、個人的に使用する目的でその写真をコピーするような場合は著作権法上問題ないですが、前述しましたように、その写真をSNS上にアップしたり雑誌・本などに掲載したりする場合には、著作権侵害にならないように、その利用の許可を著作権者から書面等でもらっておくなどをしておくことが大切です。

なお、冒頭の事件では、写真に写っている人は故人であり問題とはなりませんでしたが、他人が写っている写真を勝手に使用すると、その人から肖像権侵害で訴えられる恐れがあります。さらに、写真に写っている人が有名人だとパブリシティ権侵害でも訴えられる恐れがあります。気を付けましょう。
*著作者人格権については、この「弁理士の著作権情報室」の「著作者人格権ってどんな権利?著作権とはどう違うの?」も参照。

撮影者の氏名未表示・写真の一部を切り取っての使用


例えスナップ写真のようなものでも、著作者である撮影者の氏名を許可なく表示しないで、その写真を本などに掲載すると著作者人格権のひとつ氏名表示権の侵害になる恐れがあります。また、著作者の許可なくその写真を勝手に切り取って利用すると、著作者人格権のひとつ同一性保持権の侵害になる恐れがあります。冒頭の事件でも、氏名表示権及び同一性保持権の侵害が認められました。気を付けましょう。

著作権者を特定する義務


冒頭の事件で、作家は、この写真を持っていた故人の友人からこの写真を自由に使ってよいと言われており、また、その故人の友人に「この写真はあなたのものか。」と尋ねたところ「そうである。」との答えを得たということを主張しました。しかし、裁判所は、写真を使用する際に写真の著作権者が誰であるかを確認し、その出版物への掲載についてその者から許諾を得る活動をすることは、出版物の著作者(作家)及び出版社にとって当然になすべき義務であると言いました。また、出版物の著作者(作家)及び出版社は、この事件のような場合、撮影者を捜索して著作権者が誰であるかを確認しなければ書籍等に掲載できないとすれば、自由かつ円滑な出版活動に大きな支障が生じ、自由闊達であるべき出版活動が萎縮してしまうことになると主張しましたが、裁判所はこの主張は失当であることは明らかであるとも言いました。

そして、裁判所は、出版物の著作者(作家)及び出版社の両者に対して、侵害の成立を認めるとともに、損害賠償請求成立のもう一つの要件である故意・過失についても過失が認められるとして、損害賠償請求が認めました。

スナップ写真であっても、それを利用しようとするときは、誰が撮影者(著作者)か、著作権を持っているのは誰かを確認し、許諾を得て利用するようにしましょう。

<参考判決>東京アウトサイダーズ事件:原審 東京地裁平成18年(ワ)第5007号
                  :知財高裁 平成19年(ネ)第10003号



令和4年度 日本弁理士会著作権委員会副委員長

弁理士 上田 精一

※ この記事は執筆時の法令等に則って書かれています。

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