第4回
IPO「監査法人」
11月14日に金融庁の公認会計士・監査審査会は、2011年の公認会計士試験合格者を発表しました。願書出願者23,151人で合格者は1,511人と、合格率6.5%とかなり高きハードルとなりました。近年、米国にならい、公認会計士の増員を図ってきたものの、難関な試験を合格しても、監査法人の受け入れ態勢や、事業会社での採用方針により、未就職者が増加したことを背景に、今回は合格者を絞り込んだ模様です。
株式公開をするには、取引所の形式基準として、監査法人による金融商品取引法に準じた監査を最低2期間受ける必要があります。なおかつ、監査意見にも基準があります。したがって、監査法人とは株式公開を意思決定した、初期段階から関わりをもつことになります。
通常監査法人では、監査契約締結前に短期調査(通常、「ショートレビュー」と呼ばれています。)を行い、株式公開にあたっての課題事項を集中的に調査し、その改善の方向性を明示し、公開までのスケジュールを提案します。調査内容は概ね以下の事項になります。
・経営管理体制の整備状況
・内部管理の状況
・月次決算・予算管理
・関係会社の状況及び取引関係
・役員、株主の状況及び取引関係
・会計制度の整備状況
・過年度の損益状況の分析
ここまでですと、前回、主幹事証券について書きましたが、その主幹事業務と内容が重複するように見えると思いますが、主幹事証券は、監査法人のショートレビューも加味して、それ以外も含む株式公開全般について、コーディネートしていきます。会計制度の整備状況、過年度の損益状況等、会計に関する事項は基本的には監査法人主導で調査・改善をしていきます。
たいていの会社は、ショートレビューで大幅な改善を要求されます。特に、会計面においては一般に公正妥当と認められる企業会計と照らし合わせ、決算の修正を要請されることもあり、場合によっては、これまで利益が計上されていたものが、大幅な下方修正を余儀無くされることもあります。そのことが、上場のために必要であったとしても、これまで、利益の額を誇ってきた経営者にとっては、苦々しい思いかと想像します。
さて、最近、上場会社で粉飾決算を行い、上場廃止になった例がいくつかあります。中には上場前から粉飾していた例もあります。そのような状況では、必ず、監査法人はきちんと監査をしていたのかということが問われます。当然、粉飾の事実を知っていたり、最低限の手続を踏んでいなかった場合は論外ですが、意外と粉飾の手口は巧妙で、監査法人の監査でも発見できないケースは当然あります。監査の手法は取引、勘定を全件チェックするものではありません。そういった、監査手続の先を読み、まるでドラマのような粉飾操作を行ってきた会社もありました。
粉飾決算は、決算を良く見せたい、隠したい決算内容がある場合に手がつけられるものです。大幅な損失が発覚した場合、何とか化粧ができないものか、利益について、もう少し背伸びできないものか。上場前であれば、上場したいがために、利益をかさ上げする粉飾を行う動機があります。
最近、上場前、上場後においても、監査法人の変更については、その変更理由が問われます。その背景は、監査の過程で指摘された事項について、その指摘を回避する目的で監査法人を変更しているケースが考えられるからです。
ここで、今回の「べき論」ですが、経営者は何があろうと粉飾決算に手を染めるべきではないとうことです。今回のテーマの監査法人から派生して、粉飾決算の話しになってしまい、また、当然ではないかという「べき論」になってしまいました。しかし、現実に、上場前から粉飾を行う例はあるのです。粉飾は、必ず、経営者の意思によるものであり、粉飾をして、上場を果たしても、その事実が発覚し、監査法人も適切に監査して発見できなければ、経営者が社会的責任を負います。
監査法人を巧みに騙し、適正との監査意見をもらい、お墨付きをもらったからといい、粉飾の手口はいずれ歪が生じ、つじつまが合わなくなります。一度、粉飾に手を出すと、粉飾を隠すために粉飾をするという悪循環に陥る可能性が高くなります。
本来、株式公開は、ステークホルダーに良い結果をもたらすべく行われるものだと思いますが、粉飾を行っていたら、その目的とは真逆に向かうことは必死です。
プロフィール
藍澤證券株式会社
引受部 部長 右島 学
大学卒業後、平成7年4月に証券会社に入社。
リテール営業ののち、大阪引受部、引受審査部に配属。
主に店頭登録案件の主幹事審査に携わる。平成15年9月に他の証券会社に入社し、主に新興市場案件の主幹事審査に携わる。
平成17年5月に日本アジア証券㈱に入社。
現在に至る。