第6回
IPO「審査2」
1.証券会社による審査と取引所による審査
前回は、主に証券会社(主幹事証券会社)の審査の考え方や内容について書きました。もうひとつの、取引所による審査も、考え方は証券会社による審査と同じです(前回書きましたが、それぞれ、取引所に推薦するからには、取引所審査をパスすべく証券会社は指導、審査を行い、取引所は公開適格性について証券会社が指導、審査したことを前提に申請を受理します)。
違う点としては、証券会社は指導、審査を行うのに対して、取引所は、審査、言い換えると試験的な要素が強い点です。
例えるならば、証券会社は予備校で、取引所審査は本番の試験のような関係になります。
ですから、審査を受ける企業は、取引所審査では、ケアレスミスも許されません。証券会社は公開指導も含め、大変長期間、企業と密に接していることから、その企業の実態を熟知しているのに対して、取引所審査は数ヶ月という期間(短い場合は2ヶ月程度)で、書面とヒアリングで問題点の有無の把握に努めます。
したがって、取引所審査に対しては、段取りよく企業の内容等を説明する必要があります。
2.最近の取引所審査の取組み
近年のIPO市場の低迷を受け、取引所においても手をこまねいている訳ではありません。平成23年11月23日に東京証券取引所と大阪証券取引所は経営統合の合意について発表しています。世界的に取引所の再編が加速し日本の市場がさらに低迷することを避けるため、また、投資家の利便性向上を図るために統合に踏み切りました。
もうひとつ、取引所間競争においては、いかに成長企業を取り入れるかも今後の発展のカギになります。取引所審査は本番の試験のようなものと書きましたが、以前であれば、より試験的な要素が強かったものの、東京証券取引所のマザーズ市場では、長期的な視点での事業計画の実現計画可能性を評価する上場審査手法を導入したり、上場審査プロセスの整理・見直し、上場に至らない場合の文書による明確な理由等の説明を行うこと等、活性化に繋がる審査対応に取り組んでいます。
3.審査の課題
前述した、東京証券取引所マザーズ市場の取組みは、以下の趣旨を踏まえ取り組んでいるものです(以下、株式会社東京証券取引所「マザーズ信頼性向上及び活性化に向けた上場制度の整備等について」(平成22年12月21日)より抜粋)。
「一部の上場会社による不祥事などを契機とした上場審査基準の強化や金融商品取引法による四半期報告制度及び内部統制報告書制度の整備などの投資者保護の強化にもかかわらず、新規上場前から継続して財務諸表に虚偽記載を行っていた事案が複数発覚したことなどにより、信頼性低下が指摘されていることに加え、新規上場も低迷を続けています。我が国の経済が持続的な成長を維持しし続けるためには、新興市場が、成長企業への資金調達機会の提供と、投資者への魅力ある投資対象の提供を通じて、新規産業の育成とうい機能を果たしていくことが必要であり、・・・・」。
今、株式公開における審査は非常に難しい局面にあります。上場後、不祥事を起こすような企業が複数表れたことから、上場審査基準を厳しくしたのですが、その影響で新規上場が低迷してしまいました(もちろんそれだけではありませんが)。かといって、新規上場も活発化させるために、単に上場審査基準を緩和したら良いかと言うと、また、不祥事が散見されるようになってはどうしようもありません。
4.啓蒙活動
ここで、今回の「べき論」ですが、反省の意味も込めて、証券業に携わる者は、もっと啓蒙活動を行うべきです。ここ数年、上場会社の不祥事のたびに、株式公開にかかる審査は厳しくなってきました。それでも、上場後わずか7ヶ月で上場時に売上高を10倍に水増ししていたエフ・オー・アイのような問題が発生しています。
この件で、2010年5月18日の東京証券取引所の記者会見で、斉藤淳社長は「本格的に(粉飾決算を)仕組まれたら東証だけでは見抜けない」と言っておられました。では、不祥事をなくすためには、とうことで、我々が、株式公開をしようとする会社に対して啓蒙活動を行うしかありません。いくら上場審査基準を厳しくしたところで、不祥事を起こす企業が皆無になる望みは薄いかと思います。
また一方で、この発言では、審査の限界についても言っておられるような気がします。我々、資本市場を運営する人間が投資者保護の責務を放棄するわけではありませんが、いくら十分な手続きで審査をしても限界があるのも事実です。もちろん、不祥事を見抜くために、日々研鑽しなくてはなりませんが。そして投資家に対しても、「投資とは」ということで、言い古された言葉ですが、「自己責任」ということを、これまた、我々が啓蒙していかなければならないことです。
プロフィール
藍澤證券株式会社
引受部 部長 右島 学
大学卒業後、平成7年4月に証券会社に入社。
リテール営業ののち、大阪引受部、引受審査部に配属。
主に店頭登録案件の主幹事審査に携わる。平成15年9月に他の証券会社に入社し、主に新興市場案件の主幹事審査に携わる。
平成17年5月に日本アジア証券㈱に入社。
現在に至る。