第2回目
震災関連情報2
今回のコラムを執筆する、有限会社人事・労務の本領と申します。
このコラムでは、社会保険労務士事務所を母体とした人事コンサルティング会社として、私たちの専門分野である労務管理の視点から見た震災に対しての対応策をまとめております。
経営者の皆様、人事・総務担当者の皆様のお仕事のご参考にしていただければ幸いでございます。
1)緊急雇用対策
はじめに今回のような震災発生時において、会社(人事労務部門)がまずやるべきことは、被災した従業員及び従業員の家族についての情報収集になります。以下が一般的な流れになります。
- 厚生労働省は、今回の地震により事業の継続が困難となった災害救助法指定地域の事業所から、一時的に離職せざるを得ない方の生活を保障するため、事業再開後の再就職が予定されている方であっても、雇用保険の失業手当を支給できる特例措置を実施すると発表しました。これにより、災害の影響で一時的に失業し、事業再開後に再就職が予定されている人は、本来は雇用保険の失業手当を受給することはできませんが、この要件を緩和して、再就職が予定されている場合でも、仕事に就けない間、失業手当を受給できるようになりました。
- 厚生労働省は、今回の地震により事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない状態にある方については、実際に離職していなくても失業給付(雇用保険の基本手当)を受給できると発表しました。これにより、事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業して賃金を受けることができない場合は、実際に離職していなくても失業手当を受給できるようになりました。
- 厚生労働省は、失業給付を受給されている被災された方々の便を図るため、特例的に住所地以外のハローワークでも受給できるように実施すると発表しました。本来は住所地のハローワークでないと手続きができませんが、これにより、住所地以外のハローワークでも、失業手当を受給できるようになりました。
詳細についてはこちらをご参照ください。 - 失業の不安や雇用の維持など、被災中の様々な仕事に関する相談に対応するため、特別相談窓口がハローワークの各拠点に設置されました。
事業所が災害を受けたことにより休業・廃止したために、失業しているけど、事業再開の予定があり、再開後に再就職が予定されている方がいる場合や、災害の影響で事業所を一時休業して再開する予定だけど休業期間、会社が従業員に休業手当を支払うお金がない場合は、事業所再開までの間、休業している方に、雇用保険の失業手当を受給してもらうということも検討材料になると思います。
ただし、特例措置を適用するためには定められた手続きを行わなければなりませんので、事前に特例措置について手続きの方法や要件を確認すべきと思われます。
2)内定者への対応
内定の法的効力、内定取消しについて
今回の震災により、予定していた新卒採用などが困難になる会社も出てくるものと思われます。内定者の法律上の取り扱いは、原則として「労働契約」自体は締結されていますが、まだ入社していないため、会社の就業規則の適用は受けない立場となります。
よって、会社が正式に内定をだしている場合、そこには「労働契約」が成立しており、原則として会社側からの一方的な内定取り消しはできません。
ただし、例外として過去の判例において、以下のような合理的な理由があれば内定取り消しが認められています。
- 「卒業したら採用する」「この資格が取れれば採用する」といった条件付の内定だったが、その条件を満たされなかった場合
- 採用内定取り消し事由を約束しており、その事由が発生した場合(例えば健康異常の発生など)
- 重大な不適格事由の発生した場合(犯罪行為による逮捕、起訴など)
例えば、今回地震により、予定していた大学の卒業ができなかった、というような場合は①にあたる可能性があります。
ただし、地震の影響での会社の業績悪化や規模の縮小による内定取り消しは、会社側の一方的な「労働契約の解除」になってしまいます。このような場合は、会社はなんらかしらの金銭的保証をしなければならないでしょう。また、本当に採用が困難なほど業績が悪化しいているのかを内定者に説明する義務があります。
<裁判例 大日本印刷事件(昭和54年7月20日)賃金+慰謝料100万円とされた例>
最高裁の判決では採用内定により、労働者が働くのは大学卒業直後とし、それまでの間に企業と学生が取り交わした誓約書に記載されている採用内定取消し事由があれば会社が解約することができることを約した労働契約が成立したと認めるのが相当であるとした。
したがって会社の採用内定取消しは、解約の事由が社会通念上相当として是認することができるものである場合のみ取消しが可能としている。
また、企業側からの内定取消しが、上記のような解約権の行使として合理的で社会通念上相当と認められないような場合には、内定を取り消されたものは、債務不履行(誠実義務違反)または不法行為(期待権侵害)として損害賠償を求めることが可能としている。
この事件では、企業側からの内定取消しが社会通念上相当と認められず、内定者の雇用関係が成立したことを前提とした賃金支払いの請求を認めたケースになり、内定者に対しての賃金支払いと慰謝料100万円の支払いを認めたケースになる。
企業としては、このような非常事態に対して、入社時期を数ヶ月遅らせるたり、内定者へ状況を説明して内定者からの同意をとるなど、できるだけ雇用を確保する努力が求められるでしょう。
3)資金調達について
厚生労働省は、今回の災害の発生に伴う初動の被災生活衛生関係営業者等対策として、特別相談窓口の設置等を平成23年3月11日に行っています。また、激甚災害法に基づく激甚災害として指定されたことを受け、被害を受けた生活衛生関係営業者等の対策として、株式会社日本政策金融公庫における災害貸付の金利引き下げの措置を講ずることとしました。
災害貸付の概要としては、被害を受けた生活衛生関係営業者等(営業者、組合、理容師・美容師養成施設)に対して、日本政策金融公庫の災害融資について、特段の措置として、0.9%の金利引き下げが行われます。
4)労働保険料の納期延期措置
厚生労働省は、被災地域における事業所について、労働保険料(一般拠出金を含む)の納付期限の延長及び猶予を行う旨を都道府県労働局長に通知しました(3月14日 労働基準局労災補償部労働保険徴収課)。本来、労働保険料の納付期限は7月(3回に分納する場合は7月、10月、1月)なのですが、被災地の企業は、これを延期することができることになりました。
その他、震災の影響下における労務管理について情報はこちらをご参照ください。
このコラムは
- 御社の社内での人事対応資料としてお使いください。
- どうぞご自由にコピーをしてお使いください。
- 内容に関しご質問がありましたら弊社までお問い合わせください。
ぜひ、本情報を被災地の方々にもお伝え頂ければと思います。
またこの件でのご質問に関しては、電話、メールにて無料でお受けしております。
(すでに多くのご質問をいただいております関係でご返事に多少お時間をいただく場合もございますが、ご了承ください。)
少しでも早く日本の社会が望みある未来へ向けて動き出せるように、心よりお祈り申し上げます。
(当レポートは平成23年3月28日までに発表された情報をもとに作成しております)
第2回コラム執筆者
本領 晃(ほんりょう あきら)
有限会社人事・労務 チーフコンサルタント
社会保険労務士
大学卒業後、大手半導体製造装置メーカーの技術者、統括管理部門長などを経て社労士に。クレドの導入コンサルをはじめ社会に喜ばれる会社の就業規則作成を専門とする。元東京労働局企画室総合労働相談員、現在東京簡易裁判所で司法委員として民事訴訟の和解や労働問題を中心に活躍中。
プロフィール
現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。
Webサイト:有限会社 人事・労務