「デジタル人材がいない中小企業のためのDX」

第7回

DXで顧客とのつながりを変えるポイント「コネクティッド」

株式会社NIコンサルティング  長尾 一洋

 

売りっぱなしではなく顧客とつながれ

DXを進めて行く上で着目すべき4つ目のポイントは「コネクティッド」です。コネクティッドとは、つながっているという意味であり、ビジネスで考えれば顧客とつながっている状態にするということです。要は、売りっぱなしではなく売った後もずっとその顧客とデジタルの力でつながっておけというわけです。




従来のアナログな手法では、売った後の(すぐに売上にならない)顧客に対して、手間暇をかけてつながり続けることは、別途費用をいただかない限り出来ないことでした。しかし、デジタルを活用すれば追加費用をいただくことも、人間の手間を増やすこともなくつながり続けることが可能なのです。DXの本質は限界費用ゼロでビジネスを拡大させる武器を手に入れることなのだということを思い出してください。


多くの人がすでに経験済みなのが、スマートフォンのアプリでしょう。無償のアプリであっても、定期的に更新されアップデートされますね。携帯電話の回線を通じてつながっているから出来ることです。それによって常に最新の機能や情報が得られるのです。


アプリ開発やIT系の商材を売っていなくても、売った後の顧客とつながり続けることを考えましょう。それによって売った商材に付加価値がプラスされるようになることで、顧客にもメリットのある取り組みにします。IoT(Internet of Things)という言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが、今やスマホだけでなく、いろいろなものがネットにつながり情報のやり取りをするようになって来ています。それを自社にも取り込むのです。


コネクティッドもNo Codeで実現可能

貴方の車はコネクティッドになっていますか? 最近の車は事故をしたら自動でサービスセンターにつながったりしますし、コンシェルジュのようなサービスをしてくれるようなものもありますね。コネクティッド、IoTの事例でよく紹介される、コマツのKOMTRAXはご存知の方も多いかもしれません。建設機械の位置や稼働状況などをモニタリングして必要なメンテナンス等を先回りして行うサービスです。こうした仕組みは車や建機など単価の高い商材だから出来ることであって、自社には無理だと諦める必要はありません。デジタル人材がいない中小企業でもNo Codeで実現可能になっています。


さすがに特殊なセンサーなどが必要な場合は、別途開発が必要でしょうが、顧客とつながって情報をやり取りすることは決して難しくありません。一番簡単な方法が、顧客のスマホを活用させてもらうことです。IoTで一番のネックは通信手段の確保だったのですが、顧客のスマホを使えるなら、顧客の負担で(といっても多くの場合固定料金なので追加負担もないでしょうが)通信を確保出来ます。あとはアプリを入れてもらうだけ。そのアプリもNo Codeで作れるローコストなサービスが登場しています。顧客のスマホにアプリが入れば、その先はBluetoothによる通信が可能なので、スマートウォッチをはじめとする様々なセンサーからデータを吸い上げることも可能になります。


業種や商材の特性によって、顧客のスマホを活用するのは難しいという場合には、Web上に「マイページ」を作ると良いでしょう。顧客がIDやPasswordを入れてログインすると個別のサイトに入れるというものです。これもNo Codeで作ることが出来ます。もちろん、アプリやマイページを利用してもらうには、それ相応のメリットが提供出来なければいけませんが、その仕組みを作ること自体はデジタル人材がいない中小企業でも可能なのです。


LTVを高めるCustomer Support Automation

ここで大切なことは、IoTセンサーやスマホアプリを用意することではなく、自社にとっても顧客にとっても顧客生涯価値(Life Time Value)を高めていくことです。一般にLTVとは、一人もしくは一社の顧客から生涯に渡ってどれだけの利益が得られるかという企業側からの視点で語られる指標ですが、それは裏を返せば、顧客が「この会社と一生付き合ってきて良かった」「ずっとこの会社と付き合いたい」と感じてくれるかどうかを表している指標とも言えるわけです。


販売後、契約後、売上や利益にならなくても手厚くフォローし無償でサポートし続ければ、顧客の満足度は上がるでしょうし、リピートや紹介につながる可能性も高まるでしょう。しかし、それではコストがかかり過ぎ、自社の採算が維持出来ない可能性も高まります。そこでDXです。限界費用ゼロというデジタルの特性を活かして、Customer Support Automationという仕組みを構築すべきなのです。

Customer Support Automationとは、「ICT、IoT、AI等を活用し、販売・契約後の顧客へのサポートやサービス提供を効率的に行い、顧客生涯価値(LTV)を高め、リピートや紹介を促進し、解約・他社への切り替えを防止する仕組みである」と定義されます。当然、その中には、IoTやスマホアプリ、マイページといった特別な仕掛けを用意しなくても可能なメール配信なども含まれます。DXだからと大上段に構える必要ははなく、顧客が自社に感じる価値を最大限に高めるにはどうするかという視点で、自社のビジネスモデル、顧客フォロー、サポート体制などを見直し、そこにデジタルの力を加えると考えると良いでしょう。


コネクティッドできれば継続的な機能改善も可能

顧客とのコネクティッドが実現すれば、その仕組みを通じて継続的に機能改善、商品改良が可能になります。普通の商品であれば、商品改良や改善をするとコストアップにつながることが多いですが、デジタル活用なら開発費だけで限界費用はゼロですから顧客の数が増えれば増えるほど単位コストを気にしなくて済むようになります。つながって便利⇒つながっているから追加費用なしで機能改善される⇒顧客満足度が上がり⇒客数が増える⇒客数が増えれば単位コストが下がる⇒さらに便利になるという善循環を生み出せるようになるのです。DXを進める時には、いかに顧客とつながるかという視点を忘れないようにしましょう。

 

プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


文化放送 月曜19時30分から放送:長尾一洋 ラジオde経営塾

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