「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第293回

生き残りを模索する企業からコツを学ぶ

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回、生き残りを模索する企業の取組についてご説明しました。日本海側にある、人口が急速に減少しつつある中、新型コロナウイルス感染症の影響からも抜け出し切れていない地域で持続化や発展を目指す企業は「持てるものを最大限に活用する」、「これまでのルール・観衆から自由になる」そして「他者の協力を得て成果実現に加速度をつける」を発揮していたと感じました。今回は、前回の気付きを深掘りしてみます。



既存の資源を生かす(ないものを土台にしない)

厳しい事業環境で生き残り・発展を模索する企業から学ぶポイントとして「持てるものの意味を究極まで問うて活用する」ことを挙げました。ある水産加工会社では従前どおりの原料を用いて新製品を開発した、あるスーパーでは既存社員に仕入れを任せた、ある人材育成会社は既存ビジネスに横串を刺す新サービスを開発したなどの例を挙げました。これら企業は現状を打破する土台として、既存の資源を選んだのです。企業がこれまでに蓄積した資源には『それで上手くいった』実績があります。『あると良いと思うけれど、今は手元にない』資源は、実績がないから存在しないのです。


逆に言うと「我が社が危機に陥り、あるいは発展できないのは、我が社に足りないものがあるからだ。お金をかけても、あるいは無理をしても、それを手に入れて今後の土台にしよう」とは考えませんでした。

この姿勢について「リスクを取ろうとする姿勢がない、可能性を広く見ていない」との批判があると思います。その意見には賛成します。

一方で、これら企業がリスクを取ろうとしない理由も理解します。「リスクを取れる体力」を見極めてのことだと考えられます。現在、需要収縮等で苦しむ企業がコストをかけて新しい取組を始め、万が一にも受け入れられなければ、企業の屋台骨を揺るがしかねません。予想したより助走期間が長いだけで、大きなダメージを受ける可能性さえあります。自社や地域あるいは取引先などまで広げて既存資源を見つめ直して活用を図ることで、リスクを抑えながら持続・発展のカギを探ったのだと考えられます。



小さな成功を積み重ねるよう目指す

「既存資源を優先する姿勢は理解したが、リスクを取らなければ大きな価値は生まれない、それで回復できるのか?」との意見もあるでしょう。一方でこれら企業は、いきなり大きな価値を狙っていなかったと感じています。

需要が収縮する中で新型コロナウイルス感染症による事業制限等に遭遇、企業体力が落ちた状況だと、決算書を見ると「すぐにでも大きな改善を成し遂げたい」と考えたくなりますが、現場を見るとその間に従業員数が減り、設備も陳腐化などしています。一足飛びに飛躍できる土台が、自社にないと言わざるを得ません。このため最初は小さな成功を成し遂げることを目標にしたのです。それを積み重ねることで、最終的には決算書を改善できる「大きな成果」を目指したのだと感じました。



市場を細分化して「新しい何か」を実現する

これら企業の話を聞いて印象的だったのは、全ての企業が「新しい何か」を目指していたことです。事例でも再々取り上げた水産加工会社の社長は「新しい何かを作らなくてはとの思いで知恵を絞り、実験を繰り返した」と何度も口にしていました。当社の「新しい何か」は従来の素材を元に新しい加工法を施すことで実現しました。

とはいえ、そこで採用された加工法が「世界初」であった訳ではありません。一般家庭でもトライしたら実現できる加工法です。ではなぜ、それが「新しい何か」だったのか?当該水産加工会社の製造カテゴリ(水産物お土産品)では、その加工を行う製品が他にはなかったからです。厳密には他産地に類似品があるかもしれませんが、当該地域にはありませんでした。市場を細分化することで「このようなものはなかった!新しい、珍しい。そして美味しい」と思ってもらうことができたのです。


企業を立て直す方法は無数にあります。それでも立て直しに成功できる会社が少ないのは、自分に適したアプローチを決めるのが難しいからかもしれません。前回・今回でご紹介した企業は、自社のみならず事業環境面も厳しい制約条件の中で、突破するのではなく抜け道を探すアプローチで成功した企業といえそうです。このようなアプローチもあるのだと、参考にしてみてください。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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