第290回
目指すべき水準の目標を立てる
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

2025年が始まり半月が経過しました。今年は仕事始めの週に全国的な寒さとなり東北をはじめとした地域では雪に翻弄されたスタートになりました。このような状況にあっても企業の舵取りをする経営は、横でもなく下でもなく、ましてや後ろではなく、前に目を向いて取り組んでいきたいと思います。今回は年始に当たって、目指すべき目標について考えていきます。
達成できなさそうなときは目標を立てない方が良いか?
多くの経営者が、今年の目標を立てたと思います。年始にあたってその目標を社員と共有した方も、多いでしょう。一方で「確かにそうした。しかし今は事業環境が複雑・不安定になっており、当初に予定した行動・成果をあげられないことが多い。このため少なからぬ社員が目標を立てることに懐疑的だ。立てたまま、気にしない方向性になりそうだ」という声も聴きます。
筆者も以前に、そのような声を聞きました。取引先の方針がM&Aにより変わってしまい、予定した売上が挙げられなくなってきた会社の経営者からです。「一昨年まで、新聞でM&Aが盛んだとの記事を見ても他人事だと思っていたが、まさか自社も影響を受けるようになるとは思わなかった」と驚いていました。それも主要な取引先が3社、M&Aで買収されてしまい、売上が激減した他、取扱商品や受注プロセスまで変わってしまったそうです。
それまではベテラン担当者が当社のことも踏まえて資材発注してくれていたのに、事業と資材発注を同じ部署で行う体制改革があり、納入元である当社への配慮が不足して納入遅れや不備が生じるようになっていました。売上の回復どころか、継続さえも危うかったのです。
このため現場の社員も経営者も「目標は達成できない。立てても無駄だ」との雰囲気に流れかけましたが、筆者は毎月の目標を達成できるよう知恵を絞るよう期待し、雰囲気に呑まれずにモニタリングを続けました。しばらくすると現場は、一部には相手の特性を理解し、一部には配慮して欲しい事項を相手に伝える工夫をして、行き違いを防止するようになりました。これに相手も喜び、受注がだんだんと回復してきたのです。
目指すべき水準に至れる工夫と努力を引き出す目標
このエピソードから一つの教訓が得られると思います。当社がもし目標の達成を目指さなくなったら、あるいは目標を立てることそのものを止めてしまったら、売上を回復させることができたでしょうか?その前提となる、配慮が欠ける顧客担当者の特性を理解したり、当社として配慮して欲しい事項を伝えるなどの工夫を行ったでしょうか?それは当社経営者も認めるように難しかったと考えられます。人は目標達成に向けて意識を集中した時に工夫を凝らし、努力するようになります。目標がなければ工夫や努力を引き出すのが難しいのです。
そしてもう一つ教訓が得られます。それは「どうせ立てるなら、目指すべき目標を立てた方が良い」ことです。最初に「会社を維持・発展させるためには『この程度の売上・利益』達成が必要」と考えて立てた目標について、状況が悪化してしまったことを理由に下方修正すると、工夫や努力のレベルが低下してしまう可能性があります。これでは会社の維持・発展が難しくなってしまいます。
「しかし、目標の下方修正を行わないと従業員が納得しない。」確かに新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた時、すなわち2020年から2023年までは事業活動を正常に行うことが難しかったので、目標の下方修正を行った企業が多いのではないかと思います。特に多人数を一つの場所に集められなくなった工事現場や工場など、あるいは人と会うことがはばかられたBtoC営業などでは、目標を下方修正しなければ関係者の納得が得られないこともあったでしょう。
このような場合には状況悪化のピークを過ぎたら速やかに「目指すべき水準の目標」を立てるようお勧めしています。「状況が完全に回復してからではないのか?」それではたぶん、遅すぎるでしょう。目標を達成できそうな水準まで状況が回復したのでは、高い目標を目指す効果が薄れてしまうばかりでなく、先行者利益も得られません。その間、会社は体力を消耗しているので、立ち直る力さえ失っている可能性があります。
そうならないように、早めに「目指すべき水準の目標」を立て、その達成に向けて工夫・努力することで道が拓けてくるのです。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
【筆者へのご相談等はこちらから】
https://stratecutions.jp/index.php/contacts/
なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。
今回Copilotさんは、受験シーズンで需要が多かったせいか、
学生を主人公にした子供向けアニメのような絵に固執していました。
何度も修正をお願いして、やってとこの絵を描いてもらった次第です。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions