「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第154回

「地域に生きるピース」として販路拡大を

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



新型コロナウイルス感染症による経済の停滞が続く中、中小企業はどのようにして持続・発展を目指すべきか?最近、「生産性向上」が叫ばれる声を耳にします。中小企業の生産性に向上を目指すべき余地があることは、全体としては正しいのかもしれません。一方で、筆者は「ならば生産性を向上させて現状を打破しよう」というアプローチは、コロナ禍の今は特に上手く機能しない場合があると考えています。今回は、この話題について、がっぷり四つに議論するのは避けますが、今のコロナ禍にあって生産性向上を目指した取組みをメインとするのは不適切である可能性があり、それを中小企業にとっての唯一の起死回生策として取り組むと危険な事態に誤導されかねないことについて、考えてみます。



生産性アプローチは「今は昔」?

「中小企業は生産性が低く日本経済の足を引っ張っている。コロナ禍などの非常時に耐久性が劣るので、危機に陥りやすい。だから中小企業の生産性向上に取り組むべきだ。生産性は規模の拡大により向上するので、拡大を目指すべきだ」との指摘は、一見、もっともらしいのですが、この指摘は中小企業の実態のごく一部しか当てはまらないと考えられます。現状に即していないのです。


皆さんは以前に、中小企業診断士に「工業」、「商業」そして「情報」という区分があったのを、ご存知でしょうか?そして筆者は「工業」カテゴリの養成課程を経て中小企業診断士となりました。養成課程では、製造業者に対して適切なご支援ができるように、いろいろなノウハウを積みました。それらは、全体的に見ると「生産性の向上」に焦点を当てていました。そして会社内で活動する中小企業診断士となり、2014年からは独立した中小企業診断士となりましたが、独立後の今も、ご支援対象の中心は製造業だと、自分では考えています。


製造業企業支援に携わる時、養成課程在籍時と今と、何が違うか?養成課程在籍時は、生産性の向上が課題でしたが、今は、売上が課題です。グローバル化の進展やアジア諸国の台頭、大企業製造業の海外進出などで、国内の中小製造業者への需要が消失してしまったからです。もちろん、生産性を向上させれば数少なくなった需要を掬えますが、それは果てしない価格競争に陥るという意味でもあります。企業を活性化させるには、新しい市場を見つけ出して販路開拓することを忘れてはなりません。



生産性アプローチはコロナ対策の「二の手・三の手」

現在、コロナ禍で日本中から「需要」が蒸発しました。ある情報によると、全国の個人消費は2020年2月から12月までの間に19.3兆円、消失したそうです。

https://www.nli-research.co.jp/files/topics/67118_ext_18_0.pdf?site=nli


収入が減ったから消費が減ったとのメカニズムも働いていますが、メインは行動制限などによる消費機会の消失であることは、家計の現預金が増えていること等から読み取れます。この状況下で「規模拡大による生産性向上」アプローチが有効に機能しない可能性が高いことは、ご理解頂けると思います。筋違いな対応は、大切な時間、資源を無駄にして、最悪の結果に繋がりかねません。


まず第1に考えるべきは「行動制限などの状況でも買ってもらえるように、消費者や顧客(BtoBビジネスの場合)に新たな提案をしよう」というアプローチです。政府も、賢明なことに「新分野開拓」や「事業転換」、「業種転換」、「業態転換」、「事業再編」などの事業再構築を行う企業を支援する制度、まさに新たな売上機会の創造を目指す制度として事業再構築補助金を打ち出しています。生産性アプローチは、創造した売上機会から最大限の利益を出せるように打ち出す「二の手・三の手」との位置付けではないかと考えられます。



「地域に生きるピース」として共存共栄の売上を目指す

今までの個人消費は「とにかく街に出よう、旅に出よう。そうしたら自然に消費する、それが楽しい」という構図によるところ、大だったのですが、コロナ禍による行動制限などで、その構図が成立しなくなりました。しかし、人々は決して消費したくない訳ではなく、きっかけを求めていると考えられます。では、どんなきっかけがあるか?中小企業が「地域に生きるピース」との色合いを鮮やかに打ち出すという手があります。あるタクシー会社は、地域内のこまごまとした移動に対応することで新たな需要を生み出しました。またある企業は、地域の、それまでは他地域の消費者に知られていなかった特産品を売り出すことで、需要を掘り起こしています。


「ロジカルには正しくても、今はその時ではない」ということ、多くあります。「中小企業は生産性を高めるべき。そのためには拡大を目指すべき」という論議は、今すべき議論ではありません。今すべきなのは、新しい消費の形を提案して販路ひいては売上を拡大することです。売上があがってきたら、その次に、利益を増やすために生産性向上に取り組みます。その逆は、麻薬です。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから cheetah さんご提供によるものです。cheetah さん、どうもありがとうございました。



 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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